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神様の子・悪魔の子

ふと、亡き祖母のことを思い出しました。
祖母は、ある宗教に入信していました。
祖母も祖父も、その宗教の教えに従って生活することが基本になっていたので、祖父母の家に泊まると、毎朝祖父の祈りの声が聞こえます。
悪いことをした時のお説教や、褒める時も、その宗教の影響を色濃く受けていました。

祖母は私のことを『神の子さん』と呼んでいました。
私は祖父母が大好きだったし、祖父母の家が一番くつろげる場所だったので、祖父の祈りの声も好きだったし、『神の子さん』と祖母が呼びかけてくれることも嬉しかったのです。
少なくとも、私の存在を受け入れようとしない母と一緒にいる時よりずっと安らげました。
私が何をやろうと、基本許してくれたからです。

母によると、祖母は病弱で、母が小さい頃から入退院を繰り返していて、家事や兄弟の世話は、ほとんど母がやっていたとのこと。母は、今でいうヤングケアラーだったようです。
だからこそ、母の幼少期に祖母ができなかったことを、私に対してやってくれていたのかもしれません。

私は祖母にとても懐いていました。
いや、母が私の子育てを祖母に丸投げしていたので、実質育ててくれたのは祖母と言えるかもしれません。
それならそれで、しっかりとした愛着対象が居たわけですから、私が今もこんなに自信の無い状態になるはずは無いのですが……。

祖母が私に掛けていた言葉を思い返すと、かなり辛辣だったなと思い出されます。
口を開けてぼんやりしていると、
「みっともない。口を閉じなさい」
オナラをしたり、お腹が鳴ったりすると、
「クセが悪い。我慢しなさい」
ご飯を口を開けて噛んでいると、
「みっともない。口を閉じて食べなさい」
と、口調は柔らかいので厳しいとは感じなかったのですが、わりと酷い言葉を浴びられていたなと思い出されます。
私は大好きな祖母に言われることを守ろうと必死でした。
反抗期に反抗的に言い返したこともありますが、祖母が嫌な顔をしたり、悲しい顔をしたりするのが嫌だったので、言われたことを守ろうと必死でした。
おかげで、身についたこともたくさんあるので、それ自体が悪かったとは思っていません。

気になるのは、祖母の言葉違いと、その躾は宗教人の祖母にとって都合の良いものだったのでは?というところなのです。

自分の孫を『神の子』として恥ずかしく無いように育てたい。
そんな気持ちが強かったのではないでしょうか?
『神の子』とは、本来『その人の持っているありのままが素晴らしい』という意味なのだと思いますが、祖母にとって、私の内面のどこかには素晴らしいものがあると信じたくても、表面化している状態は矯正が必要だから、祖母として孫が神の子に成長することを信じて矯正を頑張る。
そんな思いがあったのでは?と思います。

もちろん、親が躾をする時には、みんなそんな思いに近いと思いますし、そうやって子どもは社会で上手に生活できるように育っていくのだと思います。

ただ祖母は、私が自然にやってしまう行為について事細かく否定し、一方で私がありのままで素晴らしいと思えるところにいっさい触れなかったので、裏を返すと、私はそのままで居たら『みっともない』人間なのだということになってしまったのです。

宗教が悪いとは言いませんが、厳しい修行を課したり、現状の存在を理想の形に変えようという意識の強い宗教は、ともすれば、現状の自分を全否定することになりかねません。
それが大人になってから、自分の意志でより良く生きようと修行を積むのなら良いのですが、まだ無垢な子どもに理想の形を押し付けることは、生まれたそのままの姿を変えなくてはいけないという『存在の否定』になってしまうのです。

祖母が言う『神の子さん』は、「私はあなたの中にある理想の姿を信じているから、今厳しく躾けてあげるからね」という脅し文句になってしまっていたのです。もちろん、祖母が無意識のうちに。

祖母が『子ども』に自分の理想を押し付けようとしていたことがわかったのは、私の息子(祖母にとってひ孫)に対して掛けた一言でした。
当時幼稚園生の息子はイタズラで落ち着きがなく、自分のやりたいことを場を考えずにやってしまう子でした。
祖母は認知症が進んでいて、イライラすることが増えていました。
祖母の前で、親のいうことを聞かず、ヤンチャをする息子に対して、祖母が叫んだのです。

「この子は悪魔の子だよ!」

いくら認知症とはいえ、祖母からそんな言葉が飛び出すとは思いませんでした。

ふと、わかったのです。
基本、おとなしかった私は、祖母の理想とする『神の子』になる素質があったのでしょう。
だから、矯正の余地があった。
息子のようにヤンチャな子は、『神の子』の素質さえ見られない。そういう子は『悪魔の子』として、自分の見えないところで生きていれば良い。
あるいは、大変な祈祷や鍛錬が必要になる。

祖母の優しさの中に、そんな打算を見た思いでした。

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