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STAR LIGHT DASH!!まとめ

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ほろ苦系キラキラ青春群像小説『STAR LIGHT DASH!!』のまとめマガジン。 陸上一筋で走ってきた主人公・谷川俊平と、彼が高校3年最後の夏に出会った仲間たちとの日々を綴っ… もっと読む
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記事一覧

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-7

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第6組 かわいいワガママ 第9レース 第7組 Elementary, my dear 雪晴と別れて、瑚花と一緒の帰り道。  人に揉まれながらの3時間だったが、浴衣と下駄でも、特に苦でもないように、綺麗な姿勢で瑚花は歩いている。 「棚川和の夏祭りより、藤波の秋祭りのほうが混んでましたね」 「あー、シュンくんも行ったの?」 「え、あ、はい。クラスの子に誘われて」 「そうなんだ

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-6

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第5組 答えはきっと…… 第9レース 第6組 かわいいワガママ「なぁ、俊平……これ、おかしくないか?」  欠伸を噛み殺しながら、鳥居前で雪晴と並んで待っている間、彼は落ち着かないように何度も尋ねてきた。  俊平は時間が惜しいので、適当に受け流して、その間、単語帳に視線を落としていた。  ついてくるのはいいけれど、雪晴は瑚花とデートがしたいのだろうから、自分はどう動けばいい

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-5

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第4組 解けない呪い 第9レース 第5組 答えはきっと…… 2年前の秋祭り当日の昼過ぎ。  様子を見に、椎名青果店を訪れると、邑香と瑚花が店番をしていた。  瑚花が店の奥から髪飾りを持ってきて、邑香の髪に添え、和斗に尋ねてくる。 『シュンくんなら、どっちが好き?』 『……アイツ、なんだかんだ、可愛いほうが』 『へー。じゃ、こっちにしよっか、邑香』 『う、うん。わかんないか

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-4

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第3組 あたしの番犬くん 第9レース 第4組 解けない呪い『おにいちゃん、すごーい! はやーい!』  風のように走ってゆく"おにいちゃん"の背中に、幼少期の自分は無邪気に声援を送った。  病院の廊下の窓から、一生懸命背伸びをして見下ろしていると、走るのに満足したように、"おにいちゃん"はスピードを落としてこっちに手を振ってくれた。  ただ、無邪気に笑ってこちらを見上げてく

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-3

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第2組 夏に吹く春風 第9レース 第3組 あたしの番犬くん  シュン【わりぃ、変なことに巻き込んで】   邑香【別に。部長にはお世話になったし】  そっと。さりげない返しのつもりで返したメッセージ。  邑香は長い睫毛を伏せて息を吐く。  彼からのメッセージに撫でるように触れ、内からあふれてくる暖かいものに口元がほころんだ。  我に返ってすぐに頬に触れて、表情を無に戻す。

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-2

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第9レース 第1組 断られたら諦めるからさ 第9レース 第2組 夏に吹く春風 夏休み最終日、家庭科室でひよりとユキのお菓子作りを手伝っていたら、ひょっこりと椎名邑香が顔を見せた。  巴が写真を見せてくれたので、彼女が谷川の元カノであることは綾も知っていた。 「こんにちわ」 「あ、椎名さん、こんにちは。一緒に作る?」  ひよりは全く動じず、むしろ、彼女が来るのが自然なことのように笑顔で

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」9-1

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 閑話 君と過ごした日の冬の匂いは 第9レース 第1組 断られたら諦めるからさ 耳元でシャキシャキと髪の毛がカットされる音を聴きながら、俊平はボーッと鏡を見つめていた。  陸上部で世話になった志筑雪晴の父親・安曇(あつも)が経営している美容室。  すっきりシンプルとした内装で、鏡台は2つ。待合エリアに硝子のローテーブルと、椅子が3つ。自宅併設なので、そこまで広くはない。  サービス価格

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」閑話

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第14組 brillante cielo 閑話 君と過ごした日の冬の匂いは「眠かったら寝てていいよ。起こすから」  乗る予定の電車に乗れて、2人並んで座って話していたら俊平がそう言って笑った。  朝は得意じゃないので、たぶん、眠そうなのが顔に出ていたのだと思う。  表情に出にくくてわかりにくいと言われがちな自分にとって、俊平がすぐに察してそう言ってくれることが、心地よくて

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-14

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第13組 翼なんてなくたって 第8レース 第14組 brillante cielo 世界の光に手が届く存在だと思っていた。  自分にはその力があって、その資格を持った人間だと疑わなかった。  聴いた音は鮮やかな色彩を放って、いつでも拓海の視界を覆いつくす。  耳で感じたものがすべて視覚化される。  その才能は演奏家として歩む自分にはとても相性のいいものだった。  自分が

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-13

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第12組 その背中を追う者は 第8レース 第13組 翼なんてなくたって「月代さんの師匠だったんすか」  賢吾がハンバーガーをおごってくれたので、俊平はモグモグした後、そう返した。  向かいの席に座って、ご機嫌斜めの表情の30代後半か少し上くらいに見える外国人の名前は、エドワード・クロムウェル。  クラシック界ではなかなかの有名人らしい。  賢吾はサングラスを外して、やれや

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-12

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第11組 さがしものは青空です。 第8レース 第12組 その背中を追う者は 夏休みが終わってもまだまだ夜の暑さは衰えを見せなかった。  首に巻いたタオルをほどいて、顔の汗を拭き、また結び直す。  腕を力強く振り、腿を高く上げる。前へ。前へ。前へ。  息が上がるが、構わずにペースを早める。  俊平は夜闇にぼんやりと浮かぶ、怪我をする前の自分の背中を見つめた。  綺麗なフォー

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-11

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第10組 孤独を編んで 第8レース 第11組 さがしものは青空です。 月曜、いつもの時間にカフェに行くと、俊平が難しい顔をして参考書を睨みつけていた。  集中力を途切れさせないように、先に飲み物を買ってから、そっと椅子に腰掛ける。  俊平は気が付くこともなく、古文の問題を解いていた。  運動部でずっとやってきただけあって、ここぞという時の集中力の高さはすごい。  彼がバラ

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-10

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第9組 世界(青空)の共有 第8レース 第10組 孤独を編んで 父は指揮者。母はヴァイオリニスト。  音楽夫婦の元に生まれた拓海は、恵まれた才能と環境を武器に、中学では国内コンクールの賞を独占するほどのピアニストになった。  国際コンクールでも受賞歴があり、彼女の名前はクラシック音楽通の中で瞬く間に知れ渡った。  彼女の見た目の美しさも拍車を掛けた一因だったろう。  そこ

青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-9

インデックスページ 連載小説「STAR LIGHT DASH!!」 PREV STORY 第8レース 第8組 夏の香りが消える前に 第8レース 第9組 世界(青空)の共有 拓海はじゃじゃ馬演奏を聴きながら、うーんと首を傾げた。  自分の作った曲なのもあって、難易度高めの楽曲であることは認識しているが、ここまでぐちゃぐちゃになるとは思ってもいなかった。  さすがに自分の耳が悲鳴を上げ始めたので、手を叩いて演奏を止めさせた。  演奏が止んで、5人とも失笑を漏らして、各々視線を