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小さな幸せハイボール

久々に酒を飲んだ。ハイボールをジョッキに一杯。よく冷えて、レモンの輪切りが一切れ浮かんでいる。つまみは二種。トマトサラダと鶏の唐揚げと揚野菜のサラダを注文。ヘルシーを気取ってみても、唐揚げの誘惑はあまりに強かった。
 
まずハイボールとトマトサラダが運ばれてきた。皿にはレタスが敷かれ、薄切りトマトがきれいに並んでいる。おもしろいのは、このトマトの上にガリ(甘酢生姜)を刻んだものが乗っていること。醤油ベースのドレッシングがかけられている。唐揚げと揚野菜のサラダはまだ時間を要しそうだった。

まずはハイボールを一口。ああ冷たい。気持ちいい。口許が弛みそうになる。それからサラダ。トマトとガリを同時に頬張れるよう箸を動かす。美味い。これは好き好きだろうが、トマトの甘味とガリのさっぱりした酸味と辛み、両者の歯応えの違いがよく合うと思った。ハイボールをもう一口。

今日はこの一杯だけと決めている。だから気を付けなくてはならない。調子に乗ってぐびりとやってしまえば、後はもう一直線だ。トマトとガリの味わいを楽しみつつ、適宜ハイボールで喉を湿らせる。これだ。理想は、唐揚げサラダが運ばれてきた時点でハイボールの残りが半分であること。

とはいえ、こんなふうに考えられるのは初めのうちだけ。ついついジョッキにばかり手を伸ばしそうになった時、ふと通路を挟んだ斜向かいのテーブルに視線をやった。男性がひとり、実にゆったりと飲んでいる。つまみを少し口に入れ、含むビールも決して多くはないのが見えた。いかんいかん、じっと見ちゃ失礼。でもあんな風に楽しみたいなあ。

飲み方楽しみ方は人それぞれだが、たまの一杯であればのんびりやりたい。なにしろ気兼ねのない一人酒だ。そう思ったらふっと気が緩んだ。結局は飲みたいように飲み、食べたいように食べてしまうのだから。

トマトサラダを食べ終え、ほどなくして唐揚げサラダが運ばれてきた。唐揚げと野菜は揚げたて。たっぷりのレタスとシーザーサラダドレッシングが彩りを添える。真っ赤なパプリカが目に鮮やかだ。嬉しいことに、ハイボールの残りは見事に半分だった。やったぜ、自分で自分を誉めてやりたい。

サラダは美味しかった。揚げられているのはカボチャやインゲン、ナス、パプリカなど油と相性のいい野菜ばかり。そこに鶏の唐揚げが加わるのだから、私にとってはたまらない一品である。いつしかペース配分のことなどすっかり忘れていた。それでよかった。

サラダの最後は唐揚げだった。好きなものは後から派なので、これは初めからそうと決めていた。ごくりと飲み込み、ジョッキに手を伸ばす。ぐびぐびと流し込んだら、それでハイボールもおしまいだった。ああ、楽しかった。次はいつ飲めるかな。いつにしようかな。

ふと斜向かいを見ると、あの男性はもう席を立った後だった。テーブルはきれいに片付いている。あの人も楽しい一時だったろうか、と思った。



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