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自衛官の“髪型自由化”に考える。

4月から自衛隊が頭髪基準を緩和し、原則自由化とするというニュースがありました。

正確には、男性の丸刈り推奨ルールを廃止であり、完全な自由化ではないようです。

防衛省によると、公立高校などでも髪形のルールを見直す動きが出ている流れを受けて、今までの基準を緩和し、新たなルールを実施するといいます。

その背景には、自衛隊の定員(約24万7000人)が人手不足によって2万人近く不足している深刻な状況があると考えられます。

日本の労働力不足は加速する一方で、自衛隊といえども従来の慣例を時代の流れに応じて見直すことなくしては、必要な採用を実施するのが困難な時代だといえるでしょう。



自衛官の服装や髪形については、自衛隊法の58条(品位を保つ義務)が根拠とされています。

第58条 隊員は、常に品位を重んじ、いやしくも隊員としての信用を傷つけ、又は自衛隊の威信を損するような行為をしてはならない。
2 自衛官、自衛官候補生、学生及び生徒は、防衛大臣の定めるところに従い、制服を着用し、服装を常に端正に保たなければならない。

自衛隊法 第58条

ここには具体的なルールは書かれていませんが、「常に品位を重んじ」という観点から、原則として丸刈りというルールが実施されてきました。

女性自衛官については、自衛隊のホームページ「家族のみなさまへ」によると、以下のようにされています。

髪型については、黒髪で端正な髪型が基本となっています。髪が長い場合は、勤務中は髪を後ろでまとまるなどしなければなりませんが、自衛官としての品位を保つことができる髪型であれば、特に制限はありません。ただし、髪を金髪に染めるなどの奇抜な髪型は、他の公務員と同じく禁止されています。

自衛隊募集 ホームページ

このように、女性自衛官に関しては、従来から「黒髪で端正な髪型」であれば問題はなく、長髪でも後ろでまとめるなどすれば、特に制限はないとしています。



4月からの自衛官の髪型のルール変更をごく簡単にまとめると、以下のようになります。

<男性自衛官>
(従来)丸刈り → (改正後)スポーツ刈り

<女性自衛官>
(従来)ショートヘア → (改正後)何でもOK(制服着用時に肩にかからないようにまとめる)




時代の流れに合わせて規制緩和するのは素晴らしいと思いますが、内容をみるとむしろ実質差別拡大なのでは?と思うのは私だけではないと思います。

もちろん、自衛官はさまざまな職業の中でも特別の職務と地位を占めるものであり、民間企業はもちろん一般職の公務員などと比べても特別の規律が求められるのは当然だと思います。

ただ、規制緩和の中で結果として、男女に適用されるルールが実質的に拡大するのは、どう考えても不合理なように思います。

私たち一般人の常識からすれば、女性隊員が自衛官としての職務に問題ないとされるルールであるのなら、男性自衛官についてのみ厳しい規制を置くことの意味はないのではないでしょうか。

実際、米国などの軍隊の例では、そもそも人種構成が多様という前提は異なるといえ、髪型に関する規制は日本の自衛官よりもかなり緩いといわれています。



よくよく考えてみると、このような現実はジェンダーをめぐる単なるバイアスなのではないかと思います。

男性が短髪なのは当たり前。ましてや厳しい訓練を経て、過酷な職務に従事するのに、長髪は実用的に職務に耐えない以前に、「男らしさ」というイメージにそぐわない。

女性自衛官については、この裏返しでしょう。自衛官といえども、女性である以上「女らしさ」を持つのは当然。長髪でも職務に耐えるのであれば、多少“花”があってもいい。

このようにいうと、少しいいすぎでしょうか。



ひるがえって今の時代を冷静に見たとき、「どうしても髪を伸ばしたい」という男性自衛官(候補)は少ないと思いますが、実際には正式な任官前の訓練などの際に、髪型を改めない者は排除されるような現実があるようです。

女性については男性よりも自由でよいかといえば、現実はまったく逆なのであり、昨今は目を覆うようなセクハラの実態が明るみになりつつあり、一般の企業社会をはるかに上回る“男尊女卑”的な時代錯誤のカルチャーが垣間見えます。

男性にはより厳しくより過酷な規律や職務が求められるが、努力の甲斐あって結果を積み上げることができた者は出世できる。女性には多少は緩めな規律が適用されるけれども、その本質は“女性蔑視”のカルチャーの裏返しであり、男性たちは内心対等な存在とは思っていない。



こんな現代社会の矛盾が濃度を増して体現されているのが自衛隊をめぐる構図だとするなら、いち国民としてはそろそろ実質的な男女平等に向かって環境整備をすすめてほしいと思わずにはいられません。

そもそも、男性と女性は違う。だから、その特徴や役割も違うし、髪型や服装は違って当然。こんな意見を持つ人も多いです。

たしかに、ひとつの真実かもしれません。でも、同時に多様性を認め合うことなくして、私たちは次の時代を目指すことが難しい今を生きています。

男らしさ、女らしさは否定すべきではないけど、せめて「スタートラインの平等」はしっかり作った方がいい。私はそう考えています。



まあ理屈じゃなくて、新しい時代の感性、自由で多様な価値観をいちいち否定していたのでは、自衛隊のみならず、あらゆる職業は人手不足とジェネレーションギャップのダブルパンチによって、いよいよ立ち行かなくなる。

どちらか正しいか、なにが答えかという古典的な思考回路を超えて、どんなに過酷でも、みんなが共存共栄できる道を進むしかない。これは、私たちに突きつけられた現実なのかもしれません。

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今月の振り返り

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。