ローカル電車の楽しみと課題〜「奥出雲おろち号」特別運行〜

9月早々久しぶりの鉄子ライフを楽しんだ。今回は、今年11月23日で最終運行が決まっているトロッコ列車「奥出雲おろち号」の抽選による特別運行。何が特別かというと、本来なら木次線「木次」駅から「備後落合」駅までの区間を、山陰線「出雲市」駅まで「おろち号」が迎えに来てくれて、異例の「出雲市」駅〜「備後落合」駅を走行。折り返して車庫のある「木次」駅にもどるという往復たっぷり7時間の旅である。

実は私は出雲には宿題があった。今年の7月7日の七夕の日に出発した夜行「銀河」に乗ったものの、線状降水帯豪雨のため銀河は米子駅で停車してしまい、初めての出雲大社行きができなかったことだ。事前に出雲大社ではどこに行き、何を食べるかなどを調べて万端準備していただけに、途中下車は実に悔しく残念だった。それはそれで楽しい旅だったが、死ぬまでに出雲大社に行くという宿題を残していた。
それがあって、今回の「おろち号」の特別運行に飛びついた。まさかこんなに早くリベンジができるとは思わなかった。しかも「おろち号」の葬鉄もできるから感動である。

出雲大社は「おろち号」乗車の前日に特急「やくも」で出雲市入りして見て、翌日はこの奥出雲の山中を走るトロッコ列車「おろち号」の特別運行という2つの目的を達成するという贅沢な旅となった。

ローカル鉄道の旅の醍醐味は、何と言ってもその地域の魅力を知ることである。景色を眺めてながら、地元の美味い物を堪能すること。車窓は、ぼう〜っと眺めているだけで、その地域の魅力が目の前を流れていく。ちょうど今は稲が穂を実らせていて、木々の緑と金色の稲穂のコントラストが実に美しかった。ミンミン蝉が鳴いていたが、蜻蛉がたくさん飛んでいて夏から秋への移り変わりも感じられた。

一方、おろち号グルメの楽しみは、停車駅で受け取る「駅そば弁当」がある。出雲そばで有名な出雲地方ならではの弁当で、各駅ごとに違う駅そば弁当があるので、食べ比べるのも楽しい。また、出雲には大変美味しい仁多米の炊き込みご飯や、仁多牛の乗った牛飯弁当も絶品である。トロッコならではの風を直接感じながら食べるから尚更美味しい。また駅のホームで焼いている焼鳥も名物で、鳥を焼く匂いにつられて1串買ってしまったが、肉が実に柔らかくてこちらも美味だった。「クリーム大福」のスイーツも有る。

景色と旨い物を楽しんでいると、いよいよ列車はクライマックスの急勾配の山中をその名の通り「おろち」がトグロを巻いて天に登るように登っていく力強さと、3段スイッチバックで方向転換する。ディーゼルエンジンのバタバタ音と独特の燃料の匂いが汗だくで働く労働者のような逞しさを感じる。スイッチバックの瞬間は乗客の鉄オタにはたまらない瞬間だから、一斉にカメラとビデオ撮影をするため運転席に走って行くのが面白い。

こうして、のどかな田園と山の中を約7時間かけて走って行く。途中には松本清張の「砂の器」で有名になった「亀嵩」駅や、かつてスキー場として栄えていた三井野原駅を通過し、その途中のわずか数分の停車時間内で、事前に注文していた地元の駅そば弁当を受け取る。その間の沿道の人たちは、みんな手を振ってくれた。稲刈りをしていた手を止めて手を振り、家の中から手を振り、走る車の中から手を振り、地域にやって来た「おろち号」をみんなが「ようこそ」と歓迎してくれる。私たちもそれに答えて思いっきり手を振って「こんにちはー」と言う。通りすがりの交流だが、日本ならではの心温まる光景がそこに有る。

しかし、この心温まる交流も今年11月23日をもって終了してしまう。車体の老朽化を理由に「おろち号」は運行を終えるのだ。運行終了後は、この出雲の奥深い地域との交流は無くなってしまう。何より、この木次線の存続すら危なくなってしまうのではないかと心配になった。人口減少と過疎化の問題を抱える日本の悲しい現実が、今はすっかり寂れていた三井野原のスキー場跡の朽ちたリフトも物語っている。

ローカルの観光列車の運行は、正直なところ鉄道会社に儲けは余り無いと思う。むしろ赤字かもしれない。しかし鉄道を支えて来た地元の活性化のために自治体と協力して進めている事業である。これがなければ、京都や金沢などの有名な観光地や開発された観光地や東京・大阪などの都心部の観光客のように地方に観光客が来ることはなく、その地域のことも知られることはない。無論外国人観光客は尚更である。政府は地方創生という割に、過疎化を食い止める支援には無策である。赤字路線と経営の間に苦しみながら地域に貢献するJRやそのほかローカル電鉄会社の活動にもっと興味をもって、鉄オタだけでなく、多くの人が地方ローカル線の旅を楽しんでもらいたいなと感じた鉄道の旅だった。

ちなみに大阪からの帰りは山陰の海岸沿いの夕日を眺めながら「スーパーおき」で鳥取に出て、そこから「スーパーはくと」で智頭急行線乗り入れという、特急乗り継ぎで無事に大阪駅に到着しました。

奥出雲おろち号
この日は特別運行
駅ごとに違う「駅そば弁当」

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