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「ハンチバック」市川沙央氏著を読んで感じたこと

 人に薦めたい本かというと、私が普段好んで読んでいる本からするとかなり踏み込んだ内容であるため、気楽に薦められない。でも、少しでも興味を持った人は読んだ方がいいと思うし、感想を知りたい。それほど長くはなく、すぐ読めるし。私は家族と意見交換して、結末の解釈が違っていたから二人揃って読み直すということになった。
 怒りを原動力にして傑作を生み出すというのは、よくあることかもしれない。市川さんの場合は怒りの次元が違うしこれは当事者にしか書けない、むしろ当事者以外が書くことは許されない内容なのではないだろうか? その人にしか書けないというのは、こういうものを言うのだろう。本作を書くことになった市川氏の「怒り」の凄みは、芥川賞贈呈式の記事では直接的に読み取れるし、本作を読んでもびしばしと伝わってくる。
 検索すると贈呈式の発言ばかり出てくるけど、私が読んで面白いなと思ったのは下記の文學界新人賞受賞当時のインタビューだ。こちらに書かれている通り、怒っていない市川さん(?)が楽しいのである。

 芥川賞の贈呈式で述べられたという、「怒りの作家から愛の作家になれるように頑張りたい」というあいさつからは、「愛」の作品もぜひ読んでみたいと思わされる。
 本作を読んで呆気にとられて、作者のことを知りたいと思っていくつかインタビュー記事を読んで得られたのは、怒って書いてもいいんだという、謎の安心感であった。心地よいことを心地よく創ることに違和感あるぜ、と訴える音楽や本が最近の流行りかなとうすうす感じてはいた。そうか。世の中はみんな怒っているんだろう。当たり前かもしれない。
 私もちょっとだけ怒ってもいいよね…。(お手柔らかに)

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