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映画の予告−女囚さそりの乱−

時代によって映画の予告も様相を変える。
今まで私が映画館で観てきた予告はあからさますぎず、謙虚なものばかりだった。
それが映画の予告だと認識していた。

だが、70年代の映画は勢いが違った。
白い手書きの毛筆の文字(テロップ)が謙遜せずアピールしてくる。
凄いから観てよね!と、ぐいぐい迫ってくる。
それがあの頃の予告の常識だったのだろう。

今回はそんな清々しいまでに宣伝してくる70年代の映画予告の中からシリーズを通してぶれなかった作品をご紹介します。

梶芽衣子さんが主演の
映画『女囚さそり』シリーズ(全4作)の予告のテロップを当時の表現のまま書き起こしていきたいと思います。
では、記念すべき第1シリーズ『女囚701号さそり』からどうぞ。

Y県Y刑務所
数々の話題と
期待を集めて
堂々登場
女囚701号 その名は―――

さそり

地獄にうごめく
女囚300人
凄絶な懲罰
閻魔落し
血を呼ぶ
暴動(アバレ)!

女体が
さそりか
さそりが
女体か

主演 梶芽衣子―殺人未遂罪―
横山リエ―放火・死体遺棄罪―
根岸明美―強盗・恐喝罪―
三原葉子―幼児誘拐罪―
渡辺やよい―詐欺・窃盗罪―
片山由美子―暴行・傷害罪―
渡辺文雄―刑務所々長―
夏八木勲―麻薬捜査官―
東映初出演 扇ひろ子―殺人罪―

裏切られ
復讐を
誓う
女の
怨念
斬新な手法
鮮烈なイメージ
本年度日本映画界を席巻する
最高傑作
新鋭 伊藤俊也監督(第一回作品)

陰謀
憎悪
リンチ
さそり
さそり
さそり
さそり さそり さそりさそりさそりさそりさそりさそりさそりさそりさそり………

衝撃の娯楽超大作
女囚701号さそり
近日当館にて公開



ここまで当たるとは予想してなかったであろう。
蓋を開けてみればとんでもない観客の数に全国の映画館は嬉しい悲鳴で大混乱したそうだ。
早速お正月映画用に続編を作る運びとなった。
続きまして第2弾『女囚さそり第41雑居房』の予告テロップをご覧ください。

爆発的な人気と
期待を担って
堂々登場
現代の闇を切り裂く
強烈シリーズ
第2弾
女囚さそり第41雑居房

生と死を賭けて
蠢き(うごめき)
のたうつ
女囚(おんな)の怒り
ひたすらに
地獄で牙研ぐ
さそり

主演 梶芽衣子
八並映子
石井くに子
伊佐山ひろ子
荒砂ゆき
賀川雪絵
小松方正
戸浦六宏
渡辺文雄

脱出(フケ)ろ!
罪を背負い
罪に生きる
必死の脱獄行
度肝ぬく
殺意の執念
狂気の女優 白石加代子
監督新人奨励賞伊藤俊也監督が
描破する
映像表現の
極限に挑む
怨念の世界
この迫力!
1973年
日本映画界を席巻する
衝撃の野心超大作
さそり
さそり
さそり
女囚さそり第41雑居房


前作の大ヒットの勢いをそのままに前衛的で攻めた演出が異彩を放っていた。所謂アングラ。エログロナンセンスがクールだった時代だったのでしょうか。寺山修司の匂いを所々で嗅ぐことが出来ます。
芽衣子さそりの勢いは衰えません!
第3作目がすぐに作られます。
『女囚さそり けもの部屋』です。

凄絶!!
さそり芽衣子!
絶賛!!
さそりシリーズ第3弾!
女囚さそり けもの部屋

主演 梶芽衣子

監獄(オリ)の闇を逃れて
大都会の
片隅に
さそりが見た一粒の涙
情か…
怨みか
情か…
怨みか
怨み一筋
さそり跳梁
さそりをめぐる赤裸な人間像
狂気
李麗仙
情欲
藤木孝
嫉妬
真山知子
愛憎
渡辺やよい
執念
成田三樹夫
冷酷
南原宏治
鮮烈!!
伊藤俊也監督
会心の傑作!

決まった!


芽衣子!
さそり
さそり
さそり
女囚さそり けもの部屋
近日当館にて公開


映画の紹介に指ぱっちんが聴こえてきそうなワードのチョイス。
飛ぶ鳥を落とす今の私たちを止めることなど出来ないだろうと貫禄さえ感じる。

そしてさそり芽衣子のシリーズは次の4作目で有終の美を飾る。
ラストテロップ。

『女囚さそり701号怨み節』

1973年12月13日午後3時
国家は松島ナミに死刑を宣告した
女囚さそり701号怨み節
東映ファンに
自信をもって贈る
衝撃のさそりシリーズ
第4弾
法の名のもとに
猛り狂う 暴力監獄
私刑(リンチ)!
強姦!
復讐の怨念が
激しく燃える
脱獄計画
ビッグ・コミック連載
原作・篠原とおる
さそりを追え

主演 梶芽衣子
警視庁警部 細川俊之
元反戦斗士 田村正和
刑務所々長 楠田薫
看守長 森秋子
看守主任 根岸明美
死刑囚 中原早苗

青春の挫折と
裏切りに泣く
男女の絆
鮮烈なタッチ
迫力
監督長谷部安春

権力が
総力を挙げて
展開する
狂気の
特別大捜査網
檻にうごめき
刑場に刻まれた
女の
憤怒(いかり)と
血涙(なみだ)
女囚さそり701号怨み節
さそり
さそり
さそり さそり
さそり
娯楽超大作
女囚さそり701号怨み節
堂々完成
近日当館にて公開


全4作品の予告に流れたテロップを一挙に見てみると圧巻である。
あからさまな宣伝が実に潔い。
是非ご覧くださいでもなく言わなくてもこれだけ自信あるってうたってるんだから観るでしょ?当然。な、強気が伝わる。
それが今の時代からすると新鮮で、その自信を表に出せない窮屈な習慣はもはやしきたりと化している。50年前はそうではなかったのに。
いつから含ませて察してもらう予告の風潮になったのだろう。
こんなにさそりさそりを連発されたらむしろ気持ち良いのに。

映画の予告だけでも昔と今の違いが浮き彫りになる。気を遣いすぎなんだよな…今って。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。決して損はさせません。それくらいの叩き売り根性を見習ってもいいのだろうけど。




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