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【人材定着の土台作り】その1 評価と給与編

先日の人材定着に関する記事の続編です。どこまでアウトプットできるかわかりませんが、できる限り9つのステップ全部の解説を書いていこうと思っています。
前回の記事では、9つの施策の順番を守って積み上げていきましょう、という内容をお伝えさせていただきました。以下がその9つのステップですが、本日は、①評価と給与 について詳しく見ていきます。

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9つある中でも、最も重要で、最初に手を付けておくべきの第1段階です。【評価と給与】について、具体的に、何から手を付けていけばいいのか?どうすれば良いのか?を、概略として記載したいと思います。

【評価と給与】の詳しい説明に入る前に、①②③が人材定着のための【土台部分】であることは、前回お伝えいたしました。この土台部分が整備されていないと、上に④⑤⑥や、⑦⑧⑨を積み上げていったとしても、その効果は短期的にしか持続せず、最終的には効果は半減します。

例えて言うなら、左足でブレーキを踏み込みながら、右足でアクセルを踏んでいる状態です。『そんなバカなことはない。』と思っているかもしれませんが、実は私からみると、非常に多くの会社様が、ブレーキ&アクセル同時踏み込み状態です。
理由は、全ての経営者からも、評価制度や給与制度が重要であるとの認識はされていますが、「一度決めたら、それっきり。」というケースも多く、人材定着への解決策として最初に関心を持たれるケースは、ほとんどありません。
また、評価や給与を基本に会社へのロイヤリティや仕事へのモチベーションをアップさせると、『キリがない。』 それよりも ④⑤⑥や⑦⑧⑨ の方が、従業員に今までなかったプラス施策として提供できるので、効果がありそう(喜んでもらえそう)と、経営者や人事の方がお考えになる傾向もあるからだと思います。

古くからの言葉に、『衣食足りて礼節を知る』とあります。

また、JAL再建時に稲盛和夫さんが定められた、JALグループ企業理念でも

JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、(以下省略)

という文章から、書き始められています。

http://www.jal.com/ja/outline/philosophy.html

まずは、従業員が手にするお金のところで、ハッキリと会社からの【メッセージ】を伝えておく必要があります。給与は高ければ良いということではないことは、前回もお伝えしました。高いお給料も、最初は喜んでくれますが、次月からは、普通になってしまいます。さらに驚くことに、高い給与をもらった従業員の中からも、必ず給与への不満が生まれます。これは間違いありません。この観点では、前述の『キリがない。』 は当たっています。
では、どうすれば良いのしょうか?答えは、【上がったり、下がったり】すればよいのです。実はこの【下がったり】がとても重要です。

【評価と給与】の改善ステップ

話の流れで少し具体的な説明に入ってしまいましたが、その前に人材定着のためのステップ1【評価と給与】で、具体的にやるべきことの手順を以下に図式しておきます。

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この図は、左列・真中の【現状調査】から時計回りにみていく(検証と対策の実施)図です。全部で8項目に分かれています。では、1つずつ見ていきましょう。

 1. 現状調査

最初に現在の給与規定を確認していきます。そもそも、給与規定はあるのか? いつ作成されたのか? 他社のコピーだったりしないか? 給与規定とは別に、細かい給与テーブルが用意されているか? などを確認していきます。
多くのベンチャー企業、中堅企業ですと、法律で定められている絶対的記載事項と相対的記載事項だけを、インターネットからダウンロードしてきて、自社の規定として、そのまま労働局に提出しているケースがあります。
そして、実際の運用では、自社の【ローカルルール】でやっているケースが実に多く見られます。
この状態は、法律的には問題はないのですが、従業員からみると、そこには会社からのメッセージは全く存在していません。これでは、人材定着における土台部分として、その価値がありませんし、退職を考えている従業員にとっては、内容は他社と一緒ですし、そもそもローカルルール運用ですから、不満を感じ始めたら、止めようもありません。

 2.市場調査

『市場に合わせる必要はありません。』と先に述べておきます。
それでも、業界内の競合会社の給与や賞与については、大まかに知っておくべきです。また、世代別、地域別、業界別、職種別などでの平均所得データは、厚生労働省発表の資料などからも確認できますので、こうした情報も知っておくべきと思います。人材スカウトで月間 面談100人と面談している私は、最新の業界別・年齢別の給与情報を知ることになり(下世話ですが)結構、参考になります。

 3.行動規範

会社は、売上を上げて、利益を出さないといけないのですが、単に、売上と利益だけを追求している会社は、存在しないと言っても過言ではありません。必ずと言って良いほど、経営者の考えや、理念、あるいは、このような人材の組織にしたい、こういった活動をして欲しい、こんな雰囲気の会社にしたい、というような【期待】が存在しています。

しかし、難しいのはココからでして、性格も家庭環境も、将来の目標も、全て異なる従業員に対して、前述の経営者の期待を完全に理解してもらうことは不可能です。私自身も経営者であるので、期待の半分(いや3割くらいかな)を理解してもらえたら十分だと思っています。理解度(5割)で、期待通りに『振る舞って』欲しいと思っています。『振る舞って』とは、自社にいる間は、こういう考えで行動していてね。(別に本心からそう思って欲しいとは思っていないから)という前提に立っています。誤解を恐れずに、わかりやすく言えば、台本通りにお芝居してね、という意味です。

お芝居ですから、当然に、魅せてくれたらお代金を払います。それが評価との連動であり、給与に反映されます。私の考えでは、「ビジョナリーカンパニー」にも記載のある「同じバスに乗る仲間」とは、理念や行動規範に(個人として)共感する仲間(乱暴を言えば、そもそも、そんな人材は相当に少ないと私は思っています)ではなく、理念や行動規範を理解して、雇用期間中は求める行動をしてくれる仲間と置き換えています。従業員本人の考えとか、好みとか、性格とかには全く関係がないと思っています。

経営者の【期待】を(完全には無理ですが)従業員に伝えるためには、経営者の考えを分かりやすく文章化する必要があります。この作業には経営者の話し相手が必要ですから、必要であれば、専門家などにも依頼してください。(当社も対応可能です!ちょっと営業すみません。。)
出来上がった文章を展開させて行動規範として評価項目に中に設定することで、評価との連動を実現させています。
アドバイスとしては、効果的に機能させるポイントは、子供っぽいと思えるくらいのシンプルな行動規範のほうが上手くいきます。

 4.評価項目

前述の通り3.行動規範で記載した、経営者の【期待】も評価項目に取り入れます。具体的には、『◯◯する。』という行動が鮮明にイメージできる表現にします。努力するとか、頑張るといった、精神活動を表す表現はダメです。かくいう私もサラリーマン時代はそうでしたが、従業員側は、意識的にも、無意識的にも、評価項目に記載する内容は、あとで何とでも言えるような曖昧な表現を好みます。ここは要注意です。評価時に従業員側と『やってた』『やってなかった』で揉めるのは、多くのケースで曖昧表現が原因です。
また評価項目は、できるだけ定量的に評価できる項目だけを選んだ方が良いとも言えます。定性的なことは、感覚的にしか評価できないと思い、できるだけ排除しておくほうが良いです。

厳しい言い方をすれば、経営者あるいは管理職の役割とは、経営戦略(売上があがる方法)を考え出し、それを従業員の行動と連動させることだと思っています。つまりは【経営とは管理指標を作ること】です。
簡単ではないのですが、従業員にとってほしい行動は、全て指標化できると考えるのが、理想的であり経営者の仕事と捉えています。
※かくいう私もそうですが、経営者は神ではないので、設定した指標には間違いも多くあります。そこは批判への覚悟とスピーディな修正あるのみです。

 5.評価指標

評価指標は、絶対に偶数が良いです。

 1(低い)・2・3・4 (高い)
 1(低い)・2・3・4・5・6(高い)

とかです。なんとなく通信簿の影響か、私達は、3段階評価や5段階評価が好きです。しかし、3段階の2とか、5段階の3の真中が怪しいのです。

普通に考えれば、5段階評価とは以下のように思われます。

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しかし、人間は常に理性的ではありませんし、加えて、自分への評価ともなれば、感情的にもなります。要するに、真中に対する幅が異なってくるということです。先程の図と比較して表現しますと、

評価1-5

という感じです。
『まあまあ、出来ていた』という評価の『まあまあ』の部分は人によって、また内容によって、感覚が違うということです。同じ人物でも評価項目によっては、『まあまあ』の付け方も変わります。結果として、真中に評価が集中してしまい、全従業員間の差が出にくくなるという問題が生じます。
全従業員間で差がないので、最後は経営者の感覚で決めちゃうといったことが起こります。あるいは、日本人的に差を好まず、いつも一緒という結果もあります。これでは、従業員から、評価結果に対する信頼を失い、失望され、不満を溜められるという悪循環が起きてしまいます。

 6.降格と減俸

減俸させると、社員が辞める、不満が爆発する、あるいは、優しい経営者(私のこと)の場合には、年収下がると、昨年度ベースで確定している地方税の影響も受けて、給与額の低下以上に手取りが減ってしまうので可哀相。などと思い、減俸に踏み切れない経営者は沢山います。

でもこれが、優秀な人材、活躍を期待している人材の定着を妨げるのです。
私は、経営的視点から、総人件費は年次 1~2%でも上がれば良いと思っています。もちろん、儲かって儲かって笑いが止まらない!という会社様はもっと上げてください。[Stop the 日本のデフレ! ]です。お願いします(笑)

私は、2-4%下がる社員と、3-5%上がる社員を年に1回か2回の給与改定時に設定しておく必要があると思っています。そのために評価はキチンと透明にやってあげないといけないと思います。
頑張っても評価されない会社に長く勤めたいと思う人材は一人としていないことは、真実だと思っています。

 7.給与テーブル

昇給(減給)ピッチはいくらでも良いと思います。なんなら、500円でも良いと思っています。前述の通り、給与が正当に変動することに意味があります。『500円上がった!』って中学生のお小遣いか!?とのお声も聞こえて来そうですが、給与額は、業界やサービスによって、どうしようもないことも当然にあります。でも、そこで給与テーブルの設定を諦めてはいけないと思います。上がったか、下がったかが、何よりも重要だとご理解いただければと思います。

 8.賞与テーブル

賞与制度がある会社は、賞与テーブルもあった方が良いとは思います。前述の評価項目とも連動しておくと、より評価への注目が集まり、制度が緊張感をもって運用できるので、人材定着にも好影響が出ます。

しかし、賞与原資は業績連動としている会社が多いのも事実ですし、年度末の税金対策を目的としている場合があることも承知しています。
いくら出せるかわからない賞与を対象に、毎回、評価をギチギチにやりたくないというのも当然です。
従業員にとっても、頑張って、頑張って、結果、1万円。。。みたいだと、却って評価制度そのものへの信頼を失うという悪影響も出ます。

こうした場合は、賞与は最初から、<お手盛りです!>と宣言してしまっても良いとも思っています。会社の中に、遊びも必要という考え方です。中途半端に賞与を餌に評価制度を運用するのは止めましょうという意味でもあります。もちろん安定経営で賞与原資を年間予算に組み込んでおける場合には、キチンとした賞与テーブルをもって評価と連動しておくことは言うまでもありません。

まとめ

長々とした散文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
最後まで読んでいただいた方の中には、お気づきの方もいるかと思いますが、この話は、大手企業(従業員500名以上)には、あまり関係ないと思います。関係ないと言いますか、500名以上いる会社で、給与制度を細かくイジったところで、人材定着に与える影響は軽微だと思います。おそらく、既に評価制度や給与体系はそれなりに出来上がっているとも思います。

今回のお話は、概ね、従業員数が、10名から100名程度(多くても300名程度まで)の会社にとって、参考にしていただける部分があればと思っての内容です。
ぜひ、そんな観点で書いた記事ではありますが、何か参考にしていただけるところがあれば嬉しいです。

次回は、【人材定着の土台作り】その2 残業と休日編 を紹介したいと思います。

お付き合いいただき、ありがとうございました。


 



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