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つまみぐい

皿に盛られた揚げたてサクサク唐揚げ。あたしは何も言わずにつまんで食べた。
うーん、最高。かじる度に歯からサクサク楽しい音がする。
かむ度にはじけるお肉と醤油とショウガ・‥。
妹と弟は悦に浸るあたしを非難する。


「ずるいでぇ!おねーちゃん!」
「勝手に食べんといて!」
妹と弟はみゃーみゃー騒いでる。でも、こんな楽しいことやめたくないなあ。


「やめとき。皆で食べるんやから。」
お母さんが横槍を入れてきた。妹は唐揚げの数を数えてる。


「おねーちゃん。全部で二十個あったけど、おねーちゃん一個食べたから、あとお姉ちゃんが食べられるんは4個だけな!」
何でそんな勝ち誇った顔をできるのかよく分からないけど、妹は私にどや顔を向けてくる。


「おねーちゃん、もう食べたらあかんで。」
弟よ、なんで人殺しを見つめるような目であたしを見てくるのですか。
それほどのことした?


お母さんが言う。
「はいはい、机の上片付けて。お姉ちゃん、マット敷いといてな。」
「えー。弟と妹にもやれっていうてよ。」
「ええでえ、一番机に近いんやからー。」


あたしはたまらず言う
「ひどい!つまみ食いしたからってよってたかって、あたしのこといじめんといて!」


お母さんはお構いなし
「なに言うとるん、さっさとしてな。」


あたしはしぶしぶ支度をした。
机に敷いたマットの上に、ご飯とわかめの味噌汁、キャベツとトマトのサラダ、そして鶏の唐揚げと揚げた餃子が並んだ。もう見てるだけでおいしそう!唐揚げにマヨネーズと辛しつけて食べるとおいしいのよね!
皆、席に着くなり、唐揚げを凝視してる。油断ならない状況だ。
お母さんの「いただきます。」の号令を皆、待っている。

出し抜けに、妹が口を開いた。
「おかーさん、冷蔵庫にあった白い箱、なんなん。」
え、そんなのあったんだ。めざとい妹。


「ふっふっふ。今日はパパ仕事でおらんから、特別やで。フルーツロールケーキ買ってきたよ。」
…私たち皆、反応が薄い。目の前の唐揚げに集中しているからだ。
お母さんはあきれた様子で笑いながら
「はいはい、皆おなかすいてるんやね。それじゃ、いただきます。」

「「「いただきま~す!!!」」」


そう言うなり、私たちはお箸を突き出しながら、唐揚げをつかみ取り、口へと運んでいく。
唐揚げのうまみと、マヨネーズの酸味が良く合う。そこに白ご飯をかきこむ。
悩殺ってこういうことを言うんだなあ。肉汁と風味、酸味、そしてお米の淡泊ながらもほんのりとした甘み。これらが渾然一体となって、あたしの口の中でダンスしてる―


そう思うだけでとっても幸せになってきちゃう。


周りを見ると、妹は一心不乱に唐揚げに噛み付いている。弟は、揚げ餃子を頬張り、唐揚げは最後に取っておくつもりのようだ。
そこから私たちのしたことは、唐揚げをかじる―ご飯をかきこむ―サラダをシャキシャキと食べる―お味噌汁を飲む―この繰り返しだった。


そして食べ終わった。

するとお母さんが言った。
「ほな、ケーキにしよっか。皆、片付けてくれる?」
そういうと私たちは何をいうでもなく、黙々と片付けをした。
お皿やお茶碗を片付けて、机をふきんで拭いて、片付け終了。
机が片付いたのを見て、お母さんが冷蔵庫から白い箱を取り出し、机の上において、箱開けて、中身を取り出した。


白と黄色の円柱の中に、キウイ、イチゴ、マンゴー、ブドウ、色とりどりの果物が宝石みたいに入っている。
私がお皿を分けていると、お母さんはナイフを持ってきた。それを見た私は
「あたしがケーキを切る!」
と言った。
すると、妹が
「そんなことゆーて、お姉ちゃん自分の分だけ大きく切るつもりやろ!」
と言ってきた。
弟も
「ほんまにやめてな、おねーちゃん」
マジのトーンで言ってきた。


なんだか腹が立ってきたので、急いで自分の部屋に行って、筆箱を開け、竹で出来た三十センチの物差しを持ってきた。
「ほら、これで測れば文句ないやろ!」
とこれ見よがしに見せた。お母さんは何故か笑っている。あたしがこんなに必死にやってるのに。


「おねーちゃん。それ、マジなん。」
何で困惑してるんだ妹よ。
「きしょ。」
弟がシンプルな暴言を吐いてきた。


「ふん、皆そうやってあたしをいじめるんやな!あたしがこんなに平等にやろうとしてるのに!」
お母さんはおなかを抱えて笑っている。


あたしは、物差しをケーキの脇に置いて、長さを測る―長さは二十センチ、なら一人あたり五センチ。
あたしは、できるだけ正確にケーキにナイフを入れる。妹たちは、あたしに不正がないように、かぶりつきでその様子を見ている。
なんとか切り終わった。妹たちは納得のいった顔でケーキを取る。
あたしは、おもむろにナイフを見る。そしてナイフに付いた、甘くて白い、なめらかなクリームを指ですくって口に入れた。
甘さが口の中ではじける。妹たちがずるいと叫ぶ―
舌でクリームのなめらかさと後ろめたさを味わいながら、あたしは思う。


やっぱりつまみぐいって最高やね!

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