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保育園のお迎えのルールをめぐる議論

こんにちは。
保育園を考える親の会の代表をしている普光院(ふこういん)です。
note始めに、保育園を考える親の会のサイトにもアップしている、こんな話題について、とりあげてみます。

ある市の公立保育園で、カードリーダーの導入に伴って、登降園のルールが厳しくなりました。登園は園に入るとき、降園は園を出るときに玄関で打刻をするというのです。

▼「園を出るときにカードリーダーを通す」ルールはここが困る

ギリギリの時間にお迎えにきていた保護者の中には、帰り支度を終えて子どもを連れて園を出ると延長保育時間帯に入ってしまうという人も少なくなく、保育園を考える親の会の会員メーリングリストでは、こんな反対意見が続出しました。

・延長時間帯に入る10分前に着く。2人の子どもを連れて10分以内に園を出るのはたいへん。毎日、保育園から引きはがすように帰っている!
・イヤイヤ期の下の子は、お迎えがきたら安心して遊び始める。でもその間、お友だちとの関わりや家では見られない遊びを見ることができるし、先生と話もできている。
・厳格な運用は保護者と園の関係をギクシャクさせてしまうのでは?
・子どもの帰り支度してからカードを通すとなると、ちょっとグズグズしてるとアウトになる。もめそう。
・1分1秒を争うような運用になってしまうと保育士は子どもと保護者の様子を感じる暇もない。
・保護者同士でもお互いの子育てについて様子をうかがうこともできない。
・保育室には絵や積み木などの作品があったり、写真の掲示があったりするので、じっくり見て子どもと話している。そんなときに保育士さんが子どもの様子を話してくれることも。玄関のタイムカードで管理されると、それも難しくなりそう。
・子どもの帰り支度を待ちながら、ほかの子の様子もわかる。
・保護者・家庭と園・保育士が密につながっているのが、「点」のつながりになってしまいそう。
・「打刻は玄関を出る時」になったら、月の半分以上は19時過ぎになり延長料金がさらに増えるだろう。毎日、子どもを急き立てることになる。
・現在の園には掲示物はほとんどなく、朝晩の受渡し時も先生から話はなく、年少~年長の保護者全体に対して1日の様子を2行で報告する程度。他の園児や保護者からの情報がないと園生活の内容がまったくわからない。入口でカウントされてしまうと情報収集の時間が足りない。
・子どもは友達と遊ぶのが楽しくてなかなか退園しない。子どもを急かさなくてはならなくなり、帰宅時間が殺伐としたモノになりそう。

▼園と家庭との連携、保護者支援という視点から考えると

保育時間管理を厳しくすることで保育時間が少しでもコンパクトになれば、
保育士の変則勤務が緩まり、負担軽減になることも期待できます。

でも、送迎は保育園と家庭の接点なので、ここのゆとりをカットするのは、子どものためにもならない恐れがあります。

子どもの生活は、家庭から保育園へ、保育園から家庭へと連続しています。子どものことを伝え合う連携が必要なことは言うまでもありません。もちろん、伝達は連絡ノートでもできますが、顔を合わせての会話は、文字の何十倍もの情報量(相手の表情や声から伝わるものなど)があります。
保育園のやり方に疑問をもっていたけれど、保育士と話したら不信感が氷解したという保護者は多いはず。

上記のコメントにもあるように、保護者が保育室で子どもの生活を感じとれるのも大きなことです。
保育室のたたずまい、お散歩で拾ってきた木の実、つくりかけのブロック、絵や工作物などを見ると、「今日も楽しく遊んだんだ」と安心したり、「こんなこともできるようになったんだ」と子どもの成長を感じたりします。「今日、これをつくったの?」と子どもと日中のことを話し合うことだってできるのです。

保育所保育指針も送迎時を保護者支援の機会として活用するように示しています。送迎時は保護者も保育士も忙しく、時間のかかる相談ごとは難しいと思いますが、毎日顔を合わせて、子どもについてちょっとした会話ができるだけで、保護者の安心感は10倍も違うと思います。

そこで生まれる信頼関係は、保護者が園の保育を理解したり協力したりすることにもつながっていくのです。

ちなみに、保育園ではいつでも相談を受け付けているので、じっくり話を聞いてほしいときは、連絡ノートなどでお願いすれば、時間をとってくれるはずです。

▼引き渡し後の安全は誰の責任か

ところが、こんなやりとりのあと、保育事故の専門家の方から、こんな指摘がありました。

多くの保育園で、お迎えのあとに、保護者が子どもから目を離していて危ない、事故が起こったら誰が責任を負うのか、ということが問題になっているというのです。
私自身もいろんな保育園の方から言われたことがあります。

そう。保育園に着いたら、保護者はついほっとしてしまう。
保育士もいるので、油断してつい子どもから目を離してしまう…
ありがちです。
実際、私自身、そんな時間に滑り台から落ちて口の中を切ってしまったお子さんを、目撃したこともあります。

でも、危ないから、そういう時間をなくそうというのは、遊具を置くと事故が起こるからと、遊具も何もない園庭にしてしまうのに似ています。お迎えのときの少しのゆとりは、そのくらいの大事なものと思うのです。

保育園と保護者の間で決まりを明確にすることが必要かもしれません。

お迎えでカードリーダーを通した(タイムカードを打刻した)後は、保護者の責任で子どもの安全を見るという約束事をはっきりさせる。
この約束について、園から保護者へ年間を通して注意を促す。
保護者がうっかりしていたら、保育士から「気をつけてください」と声をかけてもらってもいいと思います。

保育士の負担が重くなっている現状はなんとかしなければなりませんが、
送迎の際、保護者と一言も話せないくらい保育士がたいへんな園というのは、そもそもの体制が不十分なのではないかとも思われます。保育士の負担軽減のためにも、もっと手厚い人員配置ができる制度にしてもらいたいと思います。

もちろん、保護者の側も、できるだけ早くお迎えに行く努力をしなければならないと思います。そのためには、職場のワークライフバランスが一層進むことが期待されます。

(2017年の保育園を考える親の会 会員メーリングリストでのやりとりからの抜粋を含みます。日本保育協会「保育界」連載原稿を再構成しました)

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