アリス・マンロー 『木星の月』

★★★☆☆

 アリス・マンローの最初に刊行された短篇集。11篇収録。どれも1980年前後に発表されたものだそうです。

 いくぶん粗いところも見受けられるけれど、アリス・マンローらしさはすでにできあがっている印象。文体も視座も確立されています。もっと後の作品と比べると、洗練されていないところはありますが(あたりまえの話)、作品の質は高いです。

『ターキー・シーズン』の全篇に溢れる郷愁感と、カラフルな登場人物たちの筆致、着地の仕方は見事です。
『ミセズ・クロスとミセズ・キッド』の人間の描き方と観察力にはハッとさせられます。
 それらに比べると、『バードン・バス』はぶつ切り感が気になるというか、繋がりが悪いような気がしました。単に好みの問題かもしれませんけど。

 とにかく、アリス・マンローは目がいいですよね。人物にしろ、感情の動きにしろ、じっくりと観察し、丁寧に丁寧に描きます。どこまでもいっても捉えきることのできないものを、粘り強く、真摯に文章にしようとする気概を感じます。決して手を抜かない。疎かにしない。

 感情というのは便宜的に、「怒り」とか「悲しみ」と表されるけれど、本来はそう簡単に腑分けできるものではないんですよね。悲しみの中にも怒りややるせなさ、憤りやおかしみといった様々な要素が含まれているものです。そういった感情の機微を余さず掬い取る筆致が、アリス・マンローの文章には統一されていると思います。

 ★が三つなのは、なんとなく質にばらつきがあるような気がしたからです。本当に、ただの印象でつけてるだけなので、たいしてアテにはならないと思います。批評家ではないので、好みで★をつけるだけなので。

 それにしても、アリス・マンローの小説の主人公は離婚率が高いですねえ。作者を反映しているのでしょうか。

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