岸本佐知子編訳 『変愛小説集Ⅰ』

★★★☆☆

 2008年刊行。2014年に文庫化されているオムニバス本。恋愛ではなく〝変〟愛という似て非なるところが岸本佐知子風味です。収録されている作家もニコルソン・ベイカー、ジュディ・バドニッツと岸本佐知子が翻訳している方がちらほら。

 シリアスなものから掌編的なもの、小話風といろいろなテイストが味わえます。とはいえ、ストレートな恋愛小説はありません。七色の球種を備えているけど、直球は投げられない特殊なピッチャーを思わせる内容です。

 よそ様の家の木に恋してしまったり、愛人をまるっと呑み込んでそのまま暮らしたり、妹のバービー人形と付き合ったり、奇想天外な話が多いです。リアリズムを信奉している読み手は避けた方がよいかもしれません。読むべきものがあまりありませんから。

 テイストもスタイルも方向性も異なる作品が揃っています。共通しているところがあるとしたら、シュールと狂気と純愛がないまぜになっているところや、現実と非現実の垣根が低いところでしょうか。

 愛は狂気であり、狂気を含む愛こそが純愛である。
 
 などというクリシェでまとめようとは思いませんが、本作を読んでいると、つくづく人間というのは変わった生き物だなと思います。およそ人間の考えつくことで、考えつかないことなんてないんじゃないかという気がしてきます。フリーダム。

 人性のなかでも愛というのは最も捉えがたく、奥行きがあり、それゆえすばらしくもなり、おぞましくもなりうるものです。愛というものを突き詰めていくと、変なものになる方がふつうなのかもしれません。その意味では、恋愛と変愛は地続きだと思います。

 もっとも、日常生活においては恋愛くらいで留まってほしいものですけども。

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