ジュディ・バドニッツ 『空中スキップ』

★★★★☆

 1998年発刊のジュディ・バドニッツの処女作。翻訳版は2007年。岸本佐知子訳。23の短篇が収録されています。
 一つひとつが短めですが、ショートショートやサドン・フィクションとも毛色が違う摩訶不思議な短篇集です。

 3作目の『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』と比べると、良くも悪くも瑞々しさと軽さを感じさせる本作。良い点としては、さらりと読めるところでしょう。悪いところは、いささか軽すぎるきらいがある点でしょうか。

 どの作品もある種ユーモラスな着想が含まれており、そこからの展開、アイデア倒れにならずにきちんと終わらせるところに質の高さがうかがえます。シュールな発想や与太話じみた物語、奇想、妄想、と何でもありな作風が、処女作らしく奔放に詰め込まれています。

 エンターテインメント性に溢れているというか、おもしろいのは確かなのですが、いくつかの話はシュールなジョークのような読後感でした。なんというか、ちょっとお笑いっぽいわけです。
 ちょっと笑えすぎる。
 そういった話のおかげで軽くもあり、同時に真剣さを損なってもいます。
 とりわけ、『イェルヴィル』、『お目付け役』、『レクチャー』などは、かなりジョークっぽいです。

 その一方で、『バカンス』や『電車』といった作品は短篇小説として持ち重りのする作品に仕上がっています。個人的には『バカンス』がよかったですね。言語化できない感情の渦を、さまざまなモチーフと手触り、緊迫と抜け、ある種の可笑しみによって見事に表しています。なんでもない話なのに、存在感のある作品に仕上げる力量に感服します。

 とはいえ、『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』と比べると、いくぶん見劣りする気がします。ジュディ・バドニッツの文学的方向性がまだ定まっていない印象を受けるので、これだけ読むと、やや評価しづらいところがあるでしょう。
 要するに、ヴァラエティに富んでいるといいたいわけです。
 
 楽しい一冊なので、読んで損はないですよ。

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