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内田樹 内田るん 『街場の親子論』

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★★☆☆☆

 2020年6月に中公新書ラクレから刊行された内田樹・るん父娘の書簡本です。往復書簡なので、1章ごとに書き手が代わります。思い出話がメインですが、社会問題、記憶についてなど、話題は多岐にわたります。

 これまでに内田樹の本は50冊以上(関連著作が200冊以上あるんでしたっけ?)は読んでますが、実の娘への手紙という形式をとっているため、文体の手触りがいくぶん違っています。極端に変わっているわけではありませんが、どことなくやわらかいです。

 内田るんへの回答も批判的なことはほとんど言わず、お父さんが娘の意見を「うんうん、そうだね」と聞いている趣があります。思想家・武道家の性質が後景して、父親が前に出ている印象を受けました。

 そのためか、あまり切れ味は鋭くない気がします。

 対談本だと、対談相手とのやりとりが熱を帯びて、ドライブ感のある語りが生まれるものですが、往復書簡だと、ヒートアップすることもないので、なんだかこぢんまりしています。これなら内田樹の著作を読んだ方がおもしろいです。

 内田るんの側の文章も、内田樹のエピソードを知るという意味では興味深いのですが、それ以上はあまり読むところがないというか……厳しい言い方になりますが、「詩人・フェミニスト」という肩書きがついていても、実のところ「内田樹の娘」でしかないので、そこを除くと特筆すべきところがないです。文章はそれなりにしっかりしていて読みやすいですけども。

 新書なので、これぐらいの内容でもいいのかもしれませんが、どうにも読み応えがありませんでした。対談にせよ往復書簡にせよ、双方のレベルの釣り合いがとれていないと、相乗効果が生まれないですね。テニスでいうと、白熱したラリーも華麗なショットもなく、ただボールがポンポン行き交ってるだけです。

 内田樹好きなら楽しめるでしょうが、それ以外の人だとどうでしょう? 個人的には満足感が低かったです。親子の対談(書簡)というのはそれだけ難しいのでしょう。

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