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#4 リサーチの前にリサーチしよう

クライアント:「●●のリサーチをやりたいんです。」
私:「なるほど。ちなみに現在のマーケットについてどう分析されてるんですか?仮説でもいいので。」
クライアント:「いや、何も分からないです。だから今回はぜひ●●調査をやりたいと思ってるんです。」
私:「(何もないはずないやろ…)じゃあ過去の調査資料とか社内会議用の報告資料とか見せてもらえませんか?」
クライアント:「過去の資料はどこに何があるか全然整理されてないし、お見せできるような良い内容じゃないので見ても仕方ないですよ。」
私:「そうですか。ちなみに自社製品とか競合製品を自分で買ってみて使ってみたこととかありますか?」
クライアント:「いや、ないです。それって今回の●●調査と何か関係あるんですか?」

実際、調査の仕事を受けるとき、こういうシチュエーションに遭遇することはよくあります。「**について明らかにしたいので大規模なアンケート調査やユーザーインタビューをやりたい」といったオーダーなのですが、その前提となる問題意識や仮説がきちんと整理されていないようなケースです。「調査業務を発注する」という決定事項だけが先行してしまっているのかもしれません。多くの場合、インターネットで数時間のデスクリサーチをやれば、知りたいと思っていたことの大半は知ることができたりします。リサーチをやる前に事前の予備リサーチをしておくことが重要なのです。


予備リサーチをすることのメリット

事前に予備リサーチをしておくことのメリットは大きく二つあります。

メリットの一つ目は、大がかりな調査をしなくても、予備的な取材活動や情報収集活動によって大抵のことが分かってしまうという点です。自分たちがすぐに思いつく調査の観点は、過去に他の誰かも調べようとした可能性が高いです。ネットリサーチで調べてみたり、社内にある過去の調査資料を見返してみたりしてみると、探していたものがすぐに見つかるということはよくあります。

メリットの二つ目は、予備的なリサーチによって自分たちの思考が進むという点です。予備リサーチによって市場、顧客、競合などの情報が集まってくると、それらの情報を処理するうちに頭の中で情報が整理され、マーケットの全体像やメカニズムが理解できるようになってきます。そうすると自分なりに仮説を立てたり、より本質的な疑問点に気づいたりといったことができるようになります。

本番のリサーチをより良いものにするために非常に重要な予備リサーチですが、その存在が軽視されてしまっていることが多いように思います。具体的にどのような予備リサーチの手段があるかを以下に挙げてました。


1. ネットリサーチ

インターネットでの検索は最も容易で効率の良い方法です。メディアの記事などは情報がよくまとまっていて整理されているものも多いですし、全体感やトレンドを掴むのに適しています。家計調査など政府統計データも信頼性の高い有用なデータでありながら、インターネットで簡単に入手できます。ブログやSNSをスキャニングすれば、顧客のリアルな声や生々しい体験談を得られたりすることもあります。過去には、対象分野の参考書籍などを読む方法もありましたが、今はインターネットの方が圧倒的に便利で効率的だと思います。

2. アーカイブスキャン

過去の調査資料や社内会議で使われた資料を見返してみることも“意外と”役に立ちます。特に大企業では、必ずと言っていいほど過去に似たような調査・分析をしていたりするものです。複数の部門で全く同じような調査をしているなんてこともよくあります。優秀な大企業のサラリーマンがしっかりと時間をかけて分析しているので、よくまとまった質の良いレポートになっていることも多いです。

3. 簡易インタビュー

調査対象の分野や商材にもよりますが、自分の身の回りにユーザーがいるということもよくあります。実際の当事者に話を聞くことは(テーマにもよりますが)思っているほど難しくはありません。当事者の話を聞くことは、実際の利用者や購入者がどのような感情や行動を持っているかをリアルに掴めるという意味で非常に有効な方法です。最近だとfacebookなどで知人だけに声かけしてインタビュー対象者を探すこともできますし、チャットやビデオmtgでクイックインタビューもできたりと、以前よりも容易になってきていると思います。

4. エクスペリエンスツアー

先にも書きましたが自社製品や競合製品を買ったことがない、使ったことがない、というのもよく聞く話です。しかし本来は、顧客目線に立って実体験として商品を理解することはとても大切な活動です。自分自身で商品の検索から購入手続きを行い、使用・消費してみることで顧客がたどる経験を肌感覚として掴めるようになります。対象分野に関する自分の感覚が敏感になっていくことで、その後の本番リサーチでもより切れ味のある探索ができるようになります。

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ここまで書いてきたように事前に予備リサーチをすることはとても大事なことですし、またそうすることが容易になってきているという流れもあります。

そしてもう一つ大切なことを加えるとすれば、予備リサーチは自分でやった方がいいということです。ネットリサーチや過去のアーカイブの整理などは、部下や後輩にやらせることもできます。しかし自分が調べることそれ自体が重要です。なぜなら予備リサーチを自ら進めていく中で、調査対象のテーマに対する感覚が磨かれていくからです。

リサーチワークの前に、予備のリサーチワークをすることは一見、非効率で無駄な負担が大きいように見えるかもしれません。しかし実は予備リサーチこそが、本番のリサーチのクオリティを上げる重要なポイントなのです。調査活動の主体者である人自身が、予備リサーチからどっぷりと対象分野の情報に浸かり、リサーチの旅を楽しんでほしいと思います。

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