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合同会社型DAO解禁へ。世界も注目する新たなweb3ビジネスのフロンティア

2024年4月22日より、日本で合同会社型のDAO(分散型自律組織)を設立することが可能になります。昨年4月に我々が自民党のweb3プロジェクトチームで実現に向けた提言を出してからちょうど1年。異例のスピードで実現できた制度改正の内幕と、新たな法人形態のもたらす可能性についてご紹介します。

海外からも注目を集めた自民党・web3ホワイトペーパー

自民党のデジタル社会推進本部(平井卓也本部長)のもとに、Web3プロジェクトチーム(平将明座長)が立ち上がったのが2023年1月。ブロックチェーンを活用した新たなインターネット産業の可能性を探る政策提言作りに着手しました。所管省庁も明確ではなかったため、ブロックチェーンビジネスに関わる法的課題に詳しい実務家の方々にワーキンググループを組んでいただき、提言作成まで伴走して頂きました。この強力なサポートチームのお陰で、昨年4月には合計27の提言からなる「web3ホワイトペーパー」を取りまとめ。直ちに英語でも公表したことで海外のメディアやブロックチェーン関係者からも大きな注目を集めました。

特に注目を集めた提言の1つが、合同会社(LLC)型の分散型自律組織(DAO)を日本で設立できるようにするというものでした。

「まずはLLC型のDAOに関する特別法を制定し、会社法上の合同会社の規律及び金融商品取引法上の社員権トークンに関する規律を一部変更して適用することが有力な選択肢と考えられる。早急な法制化を目指す観点からは、議員立法による法制化も検討されるべきである。」

自民党web3ホワイトペーパー p10

DAOとは、ブロックチェーン技術を活用した新しい組織形態で、従来の中央集権的な意思決定ではなく、参加者全員がルールに基づいて自動的に意思決定に関与することができます。スマートコントラクト(自動実行されるプログラム)により、組織の運営が自動化・透明化されるのが特徴で、柔軟なインセンティブ設計や参加者の合意形成がスムーズになり、組織の効率性や信頼性が高まると期待されています。

海外でもDAOの法制化に向け様々な議論が行われていますが、国家レベルで制度化に至った主要国はまだありません。専門家の方々と様々な法人形態を検討した結果、税務上の取り扱いの明確性や既存法との整合性から、まずは合同会社の仕組みを下敷きにするのが最適だという方針に至りました。

世界で初めてDAO法人の設立を認めたワイオミング州の知事スタッフと現地で意見交換(2021.7)

実現するまで決してボールから目を離さないこと

いくら自民党の正式な政策提言になったとしても、ただ待っていては制度改正が実現する保証はありません。提言を形にするには、実現を見届けるまでボールから目を離さないこと。政治の側がしつこく関心を示し、議論を前に進める努力が必要不可欠となります。

web3ホワイトペーパーの発表直後から、金融庁、法務省、経産省の担当者の皆さまに時間を取っていただき、制度改正に向けた法的論点について、会館の執務室で何度も議論を重ねました。最初は難色を示されていた論点でも、繰り返し意見交換を行い信頼関係を醸成していく中で、お互いの見解が折り合える新たなアイディアが見えてきたことも少なくありません。

ここで我々議員側にとって心強いサポートとなったのが、web3PTのワーキンググループメンバーも務める弁護士のチームと、衆議院法制局のスタッフの方々です。単に「法制局」というと内閣法制局を指すことが多いですが、実は衆議院と参議院にもそれぞれ法制局という組織があり、数十名の優秀な専属スタッフが黒子として議員の立法活動やリサーチをサポートして下さります。法的に複雑な論点の検討や他法令との細かな整合性のチェックなどは、こうした強力なサポートチームの助力なくして到底できません。

殿村桂司、丸田颯人両弁護士には法的な論点整理や制度設計において特に多大なお力添えを頂きました。

昨年9月、いよいよ議論も大詰めという段階で、私は厚生労働大臣政務官を拝命し、後ろ髪を引かれる思いでweb3PTの事務局長を離れることに。しかし、有難いことに後任に当選同期の川崎ひでと衆議院議員が就任し、私以上に熱心に制度改正を進めてくれました。自民党で初めてとなる「ハッカソン」という新たな手法で合計4回にわたり21の団体・組織から直接、政策要望や法人化に向けたニーズの聞き取りを行い、政策実現に向けた機運が一気に高まりました。そして、ついに新たな法人形態の設立が可能となったのです。

政策づくりの「ハッカソン」という斬新なアプローチ。ご支援いただいたルールメイカーズDAOの皆さまにも感謝です。(2023.11.29)

合同会社型DAOを設立する上でのポイント

合同会社型DAOを設立する上で乗り越える必要のあった主な法的論点は、金商法の制約解除と社員の氏名住所の公表の要否でした。

これまで合同会社社員権をトークンで発行した場合には、流通性が高いため、「一項有価証券」として有価証券届出書や証券業登録などの厳格な規制が適用され、設立の大きな障害となってきました。しかし今回、金融庁の新たな内閣府令(4月1日公布、22日施行)により、「業務執行社員が保有するトークン」と「収益を分配しないトークン」については、合同会社社員権をトークンで発行しても「二項有価証券」扱いとしてこれらの金商法の規制の適用免除となる新たな解釈が明確になりました。

内閣府令による新たな金商法上の整理の概要

また、これまでは合同会社については、①社員の持分の譲渡やそれに伴う定款の変更には他の社員の同意が必要であり、また、②社員の氏名及び住所が定款記載事項であるという点がDAOとして利用するに当たって問題となっておりました。法務省とも協議を重ね、①社員の持分の譲渡やそれに伴う定款の変更については、例えば、ブロックチェーン上のトークンの移転をもって社員の持分の譲渡やそれに伴う定款の変更が行われる旨を定款で定めるといったことも可能である、②定款記載事項のうち社員の氏名及び住所については、原則として開示しないといった取扱いとすることも可能であるとの整理を示して頂くに至りました。


合同会社型DAOが拓く新たなweb3フロンティア

いよいよ世界に先駆けて我が国で合同会社型のDAOの設立が解禁されます。トークンで運営されるビジネスやプロジェクトに明確な法人格が付与できることになり、DAOが契約の主体となったり不動産を保有したりすることが可能となります。また税務上も法人レベルでの課税が明確になりビジネスを行う上での予測可能性が高まる点も魅力とされています。

とはいえ、今後の活用は未知数です。古民家再生などの施設管理や地域でのボランティア活動、スポーツ・エンタメなどのファンビジネス、ゲーム業界など、すでに多方面において関心は高まっていますが、実際の使い勝手はおそらく試してみないとわかりません。運用を始める中でさまざまな試行錯誤も出てくるでしょうし、制度上の課題も見えてくるかもしれません。その時はまたスピーディに制度改善を図ってまいります。

全国古民家再生協会で合同会社型DAOについてプレゼン(2024.3.14)

我々政治家には、こうした新しい動きを後押しし、社会課題の解決につなげていく責務があります。そして、新たなテクノロジーを政策的に支援する上では、時間をかけて完璧を期するよりも、トライアンドエラーの精神こそが大事なこともあります。合同会社型のDAOは、ハッカソンで示されたようなさまざまなビジネスニーズの全てに応えるものではありません。しかし、我が国がいち早くこうした仕組みを整備し、ブロックチェーンビジネスに関わる国内外の起業家の皆さんに挑戦の道を拓く。そのこと自体に重要な意義があると考えています。

最後になりましたが、今回の制度改正を異例のスピードで実現するためにご尽力・ご協力いただいた全ての関係者の皆様に、心から感謝を申し上げます。皆様のお力添えなくしては、この改正は実現できませんでした。引き続き、日本のweb3ビジネスの発展と社会課題の解決に向けて、官民一体となって取り組んでまいりましょう。

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