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グローバルAIフォーラム in DC。国際論議の最先端と期待される日本のリーダーシップ

爽やかな秋晴れのワシントンDC。

ホワイトハウス近くの伝統あるナショナルプレスセンターにて開催された米国商工会議所が主催するグローバルAIフォーラムに招待され、登壇しました。ChatGPTなど急速に進化を続けるAI(人工知能)について、世界はどのように対応すべきか。イノベーションとリスク管理をどうバランスするべきか。各国の政策当局者を悩ますこれらの難しいテーマについて、当日の議論の一部をご紹介します。

ナショナルプレスセンターの大講堂は多くの政策関係者で一杯に。
随所で中身の濃い立ち話も行われていました。

「自主誓約」の国際標準化を目指す米国

米国の国家安全保障会議(NSC)のアン・ノイバーガー副補佐官によれば、「米国では現在AIに関する3つの大きな政策イニシアチブが動いている」とのこと。①OpenAIやGoogleなど先行するAI開発企業からAI開発に関する一定の「自主誓約」を取得する取り組み、②ホワイトハウスによるAI関連の大統領令の発出準備、そして③シューマー上院議員らを中心に議会におけるAI関連法の立法論議。米国政府としては、米国のビッグテック15社に約束させることに成功した「自主誓約」に挙げられたAIモデルのレッドチームテスト(第三者による安全性検査)や重要な仕様公表などの8つの準則を、「11月に英国で行われるAIサミットや、進行中の広島AIプロセスを通じて国際標準としていきたい」と議論を主導する意欲を明確にしました。

ホワイトハウスの科学技術政策局の局長で、バイデン大統領の科学顧問でもあるアラティ・プラバカー博士は、AIこそ人類の将来の帰趨に大きな影響を与える革新的な技術の一つであると断言。その上で「多くの国の意見が一致するのは、権威主義的な国家のシステムが支配する世界に暮らす未来だけは避けたいということ。米国にはその能力と責任がある。」と米国が主導する地政学的な意義を強調しました。加えて、プラバカー博士は、AIに関する大掛かりで重要な大統領令を近く発令するべく準備が大詰めを迎えていることを示唆しました。

大統領の科学顧問を務めるプラバカー博士(右)。米国の科学技術政策を引っ張ってきた第一人者です。

汎用的で明確な成文ルールの制定を目指す欧州

私と一緒に登壇したのは、欧州AI法の共同提案者でもあるEUのDragos Tudorache議員。欧州のAI政策の第一人者です。

欧州では世界に先駆けて2021年にAIを包括的に規制するEUAI法の草案が発表されて以来、立法に向けた精力的な議論が重ねられてきました。(排出権取引、GDPRなどを見ても、早くから規制論議を先導し、主導権を握ろうとする欧州のしたたかな知恵には見習うべき点が多くあります。)EUのAI法案の特徴は、いわゆる「リスクベースアプローチ」の採用であり、AIを使った様々なサービスを、社会に対するリスクの強度に応じて四段階に分類し、一番厳しい「禁止」から、一番緩い「制約なし」まで、サービスごとにリスクと規制の強度のバランスをとるメカニズムを導入している点にあります。2022年秋に用途が限定されないOpenAIのGPT-4.0など基盤モデルAIが登場すると、「基盤モデルAI」「汎用目的AI」に関する項目を追加し、法案をアップデートしたスピードと柔軟性もなかなか見事でした。現在は欧州委員会、EU理事会、欧州議会の三者間で法案の詳細に関する協議が続いていますが、 Tudorache議員によれば、「今後2ヶ月以内に最終合意できる自信がある。その後1年から1年半の準備期間を経て施行したい。」とのこと。

EUのAI法案では、各種規制に違反した場合には罰則が課せられる形となっており、特段の罰則を設けない「自主誓約」モデルを採用している米国とは対照的です。罰則の存在などがイノベーションを阻害することにならないのかと聞かれ Tudorache議員は「法案の中にはAIへの規制だけでなく、開発促進のための条項もあり、心配していない。」と回答。前後に登壇した米国のHickenlooper上院議員やYoung上院議員が、過度な規制が競争やイノベーションを阻害することに強い懸念を示していたのとニュアンスの違いが印象的でした。

ルーマニア出身のTudorache議員(右)は私の一歳上。欧州AI政策のキーマンとして各国の政策当局者と太いパイプを築き、存在感を発揮しています。

ガイドラインの実効性担保へ、第三の道も

私からは、岸田政権における日本政府のAIへの積極的な取り組みを紹介。

4月のサム・アルトマンCEOと岸田首相との面会、5月の広島G7サミットでの広島AIプロセスの提唱と合意、民間企業や地方自治体における生成AIの積極活用の広がり、AIに関する国内ガイドラインの統合作業など、自民党の「AIホワイトペーパー」が起点となり、日本政府もこの半年間、相当なスピード感でAIの利活用に関する施策を進めてきています。

(「AIホワイトペーパー」作成の経緯については、自民党AIの進化と実装に関するPTのこれまでの取り組みに関するこちらのブログをご覧ください。)

特に広島AIプロセスについては、官邸の村井英樹・官房副長官を中心に日本政府が事務局となり、中間取りまとめに向けた作業の真っ最中。精力的にG7各国間の調整に汗をかくことにより、国際的にも大きな存在感を認められていることが確認できました。前述のように欧米の規制のアプローチは異なれど、規制の中身、すなわちガバナンスの枠組みの中核となる要素については、着々と国際的な共通理解が形成されてきている印象です。製品公表前の厳格な安全性検証、市場投入時の詳細な仕様公表、実装後の継続的な検証・報告など、G7各国でガバナンスの大枠について合意を形成できれば、それらの技術的仕様を詰めていく次の段階に議論を進めることが可能となります。

「日本は米国と欧州のどちらに近いアプローチを取るのか」と司会者からの質問。欧州のようなハードローで厳格な規制をかけて本当にイノベーションが阻害されないか。一方、米国政府に対する各企業の自主誓約に、単純に他国も依拠・依存して良いものか。日本は日本で、あくまで自国の国益に沿った政策的選択をする必要があります。あくまで個人的な見解として、「米国と欧州を両極とするなら、そのどこか中間的な規制方式を検討する余地もあるのではないか。」と提案。詳細は割愛しますが、ガイドラインや誓約の「実効性」を担保する規制の方式としては、欧州や米国のやり方だけでなく、複数の具体的な政策的選択肢が存在しています。我が国としてもそのいずれを選ぶか、中身の議論と並行して実効性担保の方式に関する「選択」をすべき時期が近づいています。

インディアナ州選出のTodd Young上院議員。半導体やAI政策に関する共和党の重鎮です。

AI新時代のルール作りへ、期待される日本のリーダーシップ

フォーラムの締めくくりに、米国議会においてAIに関する立法論議を主導している「ビッグ4」の一人であるTodd Young上院議員(共和党)が登壇し、シューマー上院議員(民主党)らと一緒に超党派で建設的な立法議論が進んでいる様子を紹介。欧州のような包括的なAI法ではなく、「既存の法律がAI時代に適さない点を個別具体的に修正していくようなものになるだろう」と述べました。最後に、壇上からこちらを直視しながら「今日は日本と欧州からも議員の友人たちが来てくださっている。彼らがここに来てくださっている理由は、共通の価値観に基づく国際協調が大事であることを我々みんなが知っているからだ。」と国際的なガバナンスの枠組みづくりの重要性を強調。大きな拍手の中、フォーラムは閉じました。

参加した各国の政策当局者の話を聞いていると多くの共通点があることがわかります。どの国においてもAIが持つとてつもない可能性と、深刻なリスクの両にらみで政策対応が検討されているということ。官だけでは有効なガバナンスを効かせることは難しく、規制のデザインに官民の協力が不可欠であると考えられていること。ガバナンスの実効性担保の方式は国ごとに哲学やアプローチが異なるものの、その項目の中身においては、大きな相違はないこと。これらを具体化する広島AIプロセスの年末取りまとめに向け、日本に向けられる大きな期待と重たい責任を改めてずしりと体感しました。

厚生労働大臣政務官就任に伴い、おそらく今回の出張が自民党AIの進化と実装に関するPTの事務局長としては最後のお仕事に。1泊4日の強行日程でしたが、直接海外の政策当事者と顔を合わせ、同じような悩みを抱えていることを確認し、今後のコミュニケーションのチャネルを開くことができたのは大きな収穫でした。

この9ヶ月間、常に温かくご指導頂き背中を後押ししてくださった平井卓也本部長、PTの平将明座長をはじめ先輩・同僚議員の皆様、役所の皆様、ワーキンググループの専門家の皆様、そのほかすべての関係者の皆様に心から御礼を申し上げます。後任の事務局長にしっかり引き継ぎを行い、今後はPTの一メンバーとして、日本のAI政策の推進に微力ながら貢献できればと思います。引き続き、AI政策には高い関心を持って取り組んでまいりますので、興味深いアイディアや情報などあれば、是非お知らせください。

米国商工会議所の屋上からの眺め。
常に権力の動きを監視できるようホワイトハウスを見下ろすこの地に建てられたそうです。


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