天翔る恋

作男編 その1

   戦後の動乱も落ち着き日本中に復興の兆しが見え始めた頃のことである
NHK素人喉自慢がラジオから流れている
日本全国各地の素人が集められて好きな歌を披露するのだ
上手な人には沢山の鐘を鳴らしてもらえるが そうでもない人には鐘が一個 即座に退場しなければならない  歌の伴奏はアコーディオン 贅沢すぎない感じで親しみやすい印象
戦後の日本の日曜日の憩いの定番である

「作男さん 最近 休みとなれば 外出してばかりのようだけど 学問で忙しいことでもあるのかい?」
「お母さん 勉強は心配いらないよ 僕は大学の単位もちゃんと取れてるし
将来のこともしっかり考えて 良い会社に行くつもりだからね
証券会社に就職した先輩が これからの日本の経済は右肩上がりになるって
僕たち大学生は引っ張りだこだよ」

「そう それならいいけど   それで  今日はどこに行くの?」

「レコードを選びに行って その後 友達と会うんだ」

「そう 行ってらっしゃい あんまり遅くならないでね 
日暮れになるとお婆ちゃんが 作男はまだかい?って何度も聞くのよ」

「うん 分かったよ 晩御飯迄には帰るようにするよ じゃ 行ってきます」

作男は音楽が好きだった  のど自慢ではなかなか歌われない歌曲とかクラシック音楽とかだ
勉強している時も自然に口ずさんだりしている
レコード盤のジャケットに書かれている情報をじぃっと読んでから 納得のいく1枚を選び出すのである   今日もその特別な一枚を決めた
そして 作男はレコードを抱えて喫茶店に急いだ

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