見出し画像

ドラマで語る制約人材問題 第2話

フジテレビ木曜22時の「営業部長 吉良奈津子」の第2話をみましたので、また個人的に解説してみます。

まず最初に断っておきたいのですが、このドラマはワーキングマザー当事者はちょっと胸が痛いかもしれません。「出来合いの春巻きね」「壮太の好物で」「好物になるくらいしょっちゅう買ってるのね」「すみません手作りじゃなくて」「謝ることないのよ。でも仕事のしわ寄せが子育てに出るっていうのはどうなのかしらね」や「高いおカネを払ってベビーシッターを雇うなんて、何の為に働いているか分からないじゃない。赤の他人にこどもを預けて心配じゃないの?」「彼女はプロです」「子育てのプロは母親以外にありません」といった義母とのやり取りとか、息子が発熱したと電話がかかってきて保育園に迎えに行くと「壮太くん、寂しかったのかな」って言われるとか、ワーキングマザーが抱えがちな罪悪感のツボを見事に押さえてきますよこのドラマ。

しかし、罪悪感を覚えるとき、それは誰に対する何に基づいた罪悪感なんだろうか?をちゃんと考えたほうがいいと思います。例えば上述の義母とのやりとりも、母親本人が出来合いを買うことに全くうしろめたさを感じていなかったり、ベビーシッターは子育てのプロではなく保育のプロであることを理解していたりすれば、こういうことを言われても罪悪感にはつながらないと思うのです。実際、私はこのやりとりを聞いて傷つく人は多いのだろうと想像しつつも、自分自身は反論ができるのでわりと平常心で見てました(笑)。

ただベビーシッターの描写に関してだけは、かなり歪曲されていて無駄に不安を煽る内容となっているので、これだけはちょっと見ていて悔しい。我が家にとってシッターさんは大事な大事な子育てチームのメンバーなので、悪意あふれるシナリオにはかなーり不満です。ここだけは、ほんと改善してほしい。

ただ、それ以外の部分はリアリティがあるので、学びの教材として十分使えると感じています。時間に制約ある制約人材が組織に貢献するためには、自分「だけ」が動くいわゆるパワープレイから、他者の力をうまく借りながら成果を出すやり方すなわちマネジメント思考にシフトする必要があります。他者を使ってものごとを成し遂げることが役割の管理職であれば、なおさらです。しかしパワープレイに長けたプレイヤーはつい自分で動いてしまうため、このマネジメント思考へ失敗することが少なくありません。特に管理職となる女性は、男性以上に一流プレイヤーであることが多く(女性はずば抜けた一流プレイヤーでなければ管理職になれませんから)、したがってマネジメント思考へのシフトに苦労する人も多いようです。さらに女性管理職は管理職としての振る舞いを学ぶ機会も少ないため(ロールモデルとなる先輩女性の数が圧倒的に少ないですから)、男性に比べていろいろ大変です。そんな状況を知っているので、「新米管理職の失敗あるある」がたくさんちりばめられている第2話は学ぶための貴重な資料だと思いました。以下、具体例です。

1)暗に部下が使えないから成果が出しにくいと上司に訴える奈津子に「部下が不満なのか?それは部長の責任だね。未熟な部下の能力を引き出し、意欲を持たせるのが部長の仕事だろ?もっとよく部下を見ろ。それじゃお飾りと言われても仕方ないぞ」と返す常務。仰る通り、男性だろうが女性だろうが、部下が活躍しないのは上司の責任だと私も思います。しかし一流プレイヤーの自認があればあるほど、うまくいかないのは部下の能力が低いからだ(自分が悪いわけじゃない)と思いたくなります。そして自分の行動を改めなければ部下の行動も変わらないけど、自分が悪いと思ってないから改める気になかなかなれない。これはプレイヤーがマネジャーに移行するときの最初の大きなハードルです。

2)元部下の高木に「どんな上司だった?」と尋ね、「率直に言ってくれっていう人ほど、率直に言うと怒るんですよね」「私は大丈夫」といいつつ、「部下を信用していない、常に自分が一番だと思っていて、下に仕事を任せることが出来ませんでしたね」と言われると怒る奈津子。あるある。。。この他人に任せられない問題は、一流プレイヤーがマネジャーに移行するときに越えなくてはならない大きなハードルですね。自分の仕事を「自分が思う通りにものごとを進めること」と思っているうちは自分以上にうまくできる人はいないので、他人に任せられないのですが、「周りの人が能力や強みを十分発揮できる環境をつくること」だと捉えられるようになると他人に任せられるようになります。

3)部下の女性へのフォローをすべく、ランチに誘う奈津子。そこで話題に困り、コイバナや自分の過去の栄光等を話してしまって全く話が弾まない挙句に「部長、家庭の愚痴は自慢って言うんですよ」と言われてしまう。いたたた・・・。でも私も、こういうときの話題提供は苦手。同性だから分かりあえるでしょ?って思う人は多いけど、それって日本人同志ならわかるでしょう?くらいのざっくり感だから。でも最初こそ痛々しい奈津子ですが、徐々に部下の今西が自分のことを話しだし、彼女が広告代理店の仕事が好きなこと、よく勉強していることを知る。そして彼女の情報をもとに急成長の企業にとびこみ営業をかけ、その仕事の担当者に派遣である彼女を抜擢する。さらにその際に「広告代理店の仕事をよく知っている貴方ならできるわ。皆もフォローして」という自信を持たせる一言をかけるところなど、素晴らしいマネジメントじゃないですか!!そしてずっと「私は派遣ですから」と一線を引いていた今西が、責任を与えられたことで仕事を自分ごとと捉えて自発的に動き出すところなど、モチベーション管理の基本ですねー。チームの危機にメンバーが各々で対策に動き出すシーンなどは、マネジメント経験がある人ならぐっとくるのではないでしょうか。

4)奈津子のやり方はワンマンで、かつ営業畑でずっと来た副部長からみたら常識を逸したものです。これは反発をされるのも事実ですが、「勝ち目はないんです。手を引きましょう」という副部長に対して放つ「勝ち目がある相手なんていません。お荷物部署で営業経験のない部長の私たちは、どんな相手でも捨て身で行くしかないんです」というセリフや、「プライドないんですね」という元部下に「ここは戦いの場よ。プライドなんて邪魔なだけだわ」というセリフなど、これくらい勝気じゃないとこんな逆境で成果を出せないよと思う。実際、逆境で低スキルのメンバーであれば、指示型リーダーシップのほうが成果が出やすいと言われています。それなのになんとなく奈津子に反感を覚えるのは、第1回の解説でも書きましたが、「奈津子が女性だから」なんですよねえ・・・。仮に一連の奈津子のシーンを堺雅人とか阿部寛で置き換えてみてください。全く同じ言動でも、一気にポジティブな評価になりませんか。松嶋菜々子をもってしても低評価だなんて、女性って損してるなあと思う瞬間です。

そんな感じで女性管理職のケースとして面白くドラマをみている私ですが、シッターの描かれ方だけは、事実をゆがめているのが気になります。基本的にこのドラマに私は好意的なのに、シッターの部分だけはかなり不愉快な気持ちになるので、フジテレビはワーキングマザーを味方につけたいのかつけたくないのかどっちなのか、判断に迷いますねえ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?