「一葉の碑」

私の祖母は大正生まれの文学少女で、先日施設で百歳を迎えた。
遠い親戚筋であったか、疎開先であったらしい山梨に折々訪ねていたが、私もよく付いていった憶えがある。あまり泊まった記憶はないのだが、日帰りだったのだろうか。大概電車で、あるときは帰路、祖母と二人だけだった。いつも母が仕事をしていたので、何かというとよく祖母にあずけられ、世話になっていたものだ。そのときも夏の暑い日、なにかの都合もあり、私は祖母の小旅行に同行したのだろう。

祖母は山梨に行くと必ず、「一葉の碑」という場所に立ち寄っていた。小学校低学年くらいの私にはそれがなんのことかわからず、ただしばしの間、ぽっかりと置かれている大きな石の前で退屈な時を過ごすのだった。祖母がその時間何を想い、何をしていたか、当時は理解できなかったが、今となっては、それがなんとなくわかるような気がする。

それが山梨にあるのは、一葉の両親が山梨出身であったからだと知ったのは割と最近のことだ。

ただ暑い夏の光を浴びながら過ごしたあのぽっかりとした時間を、祖母との思い出のひとつとして、なぜだか時々思い出す。

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