【子育て】 「待つ」ということ

この度、下の子どもが幼稚園を卒園した。
卒園前に、園長先生から保護者に向けてのお話会があった。
「子育てにおいて一番大切なことは、待つことなんです」という、ありがたいお話。
急かさない、他の子と比べて焦らない、などなど。

「子どもを信じて待ちましょう」ということであった。

ふむ、私は待つということに関しては、結構がんばった方だぞ、とひとり胸を張った。

あれは息子が、幼稚園の年中だった頃。
幼稚園を休みたい、とよく口にした。理由は「おり紙を折りたいから」。

「うーん、困るけど、おり紙を折りたい、という理由はなんかかっこいいぞ我が息子」
という思いと、
「いやいや、当園拒否が習慣になっちゃうと、のちのち困らない?わたし」という思いが拮抗して、
「じゃ、週に一度だけ、幼稚園をお休みしてもいい日にしよう」ということに決めた。

本人も納得して、週に一回は幼稚園を休み、おり紙を存分に折る時間ができた。
お互いに納得して、しばらくは調子良く過ごしていたのだが、ついに来た。

「昨日お休みしたけど、今日も休みたい」

………ですよね。

しかし、ここは心を鬼にした。約束は約束。約束を守らせることは徹底した方が、この先の子育てにも良いに決まっている。

「約束の1日はきのう使っちゃったから、きょうは行くよ」

渋々、しーぶしぶ着替えをする息子。靴下を履くのも超スロー。何もかもが遅い。
幼稚園に「遅刻します。10時には行けると思います」と電話。
少しは覚悟を決めてサクサク動くかと思ったけど、息子は「我を貫かん」とばかりの硬い表情のままだった。

そして、ここからが「息子流・牛歩作戦」の始まりであった。

右足を前に出す。
右足のかかとを、左足のつま先につける。
左足を前に出す。
左足のかかとを、右足のつま先につける。

息子の足のサイズは、この時せいぜい19センチだっただろうか。そう、19センチずつの前進であった。

一瞬、ひるんだが、後ろではなく前に進んでいることを評価した。それに、こんな面倒くさいこと、すぐに飽きて投げ出すだろうと思っていた。

だけど、息子は続けたのである。玄関を出てからも、19センチずつの前進を。
道路に出たら、歩幅は少しずつ広がったような気もするが、それでも牛歩には違いない。
私は、イライラする気持ちを抑えて抑えて、とにかく待つことにした。「前に進んでいる、前に進んでいる…」と頭の中で繰り返しながら。

この我慢くらべ・意地くらべ、負けるわけにはいかぬ。

途中、馴染みのママ友さん達が井戸端会議をしているところに出くわした。
「え、Tくん、どうしたの〜。がんばれー」
「園児あるあるやなあー。うちの子も当園拒否してたわー。がんばれー」
「ママも頑張れー」

近所のご婦人も、微妙な距離を保ちながらノロノロ歩きする親子を見て、すぐに察したのだろう、「ふふふ、頑張って」と声援を送ってくれた。

どのくらいの時間がたったであろうか。
普通に歩けば、10分もかからないところを、かれこれ30分ほど経過していた。
19センチの牛歩もいよいよ終盤、幼稚園の門が見えてきた。19センチも、積もれば500mになるのだああぁあああぁ。

門に近づくにつれて、息子は拒否反応を示し出した。牛歩が完全に止まった。
最後の最後で、ついに私の堪忍袋の尾が切れた。
菩薩の顔は般若と相成り、「いいかげんにして!早く行きなさい!」と門に放り込んだのでした。最後の最後に「切れた姿」を守衛さんに見られてしまい、恥ずかしかったことを覚えています。

幼稚園に一歩足を踏み入れれば、開き直って遊び出す息子。楽しくその日を過ごして、なんなら降園後、近所の公園で遊び倒して「ただいまー」と帰宅。
ほーら、幼稚園に行ってよかったでしょう。…待った甲斐があったぜ。

園長先生がお示しになった「待つ」とは少し違うけど、こういう地道な行動ーー今回は「約束を守らせる」ことーーの積み重ねが、子どもの成長にプラスになると信じています。

小さなプラスを積み重ねて、人並みに成長する日を、私はひたすら待つのみです。

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