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魔法はここにあった

2023/07/25

 今朝も温泉の脱衣所を歩いているようだ……。
 空気の温度と自分の温度が近い。しかも本降りの雨。傘を持っていないので、少しずつ濡れながら街を歩いていて、午前から開いている居酒屋にうっかり転がり込みそうになるのをこらえる。

 安達哲『総天然色 バカ姉弟』5巻を買ってきて読む。
 昔『バカ姉弟』が好きだった人は驚いたかもしれない。えっ、新刊? そうなんです。実は数年前から「総天然色」というのが題名の前について再開されて、密かに続いている。
『ご姉弟物語』という題名でアニメ化もされた作品です。
『バカ』はやはりダメだったらしい。
 私は表現規制には総じて慎重な姿勢ですが、これはまぁ……。ご兄妹は天然で独自の考え方をするけれど何にもバカじゃなく、愛称なんですけど、その機微をテレビで観るちびっこに求めるのは難しかろう。
 表現の自粛や変更というのは、0か1かじゃないし、賛成/反対することでその人が政治的姿勢をアピールするための手段ではなく、作品を尊重することが目的なので。

 でも『ちいかわ』のくりまんじゅうがアニメではお茶を飲んでいるのはイヤッ! わかる! わかるけどイヤッ! ちゃんと飲酒の資格を持ってるのに! ヴーッ! ワァ……ッ! 泣いちゃった!

 人それぞれの経験や好みによって許容できることのラインも変わってくるよね。
 なんでも「個人の嗜好」に落とし込むつもりはない。現代における(おおむね)普遍的な正義の話をしている人に対して「それは単なる君の好き嫌いだよね」と断じて、問題を矮小化したくはない。しかしそう言いたくなってしまうような人もときどきいる……
 世界は自分のためのフルオーダーメイドではない。
 だから誰もが、ラインを考え、自問・他問して探っている。

 昼寝して目覚めたら、疲れが取れたというより、身体のあちこちの疲れがすべて腰に流れこんで溜まっている。腰が重い。
 過去に魔女の一撃を受けたことがあるので、この状態には警戒せざるを得ない。そろりそろりとストレッチをし、慎重に生活する。

 魔女の一撃――ぎっくり腰って、関節や椎間板の損傷に関わる可能性もあるので病院で診てもらったほうがいいんですけど、たいていは筋肉の疲労とか炎症であると推測され、魔法のような治療法は「ない」そうです。自然治癒を待つしかない。もっといえば、医学的に原因がはっきりとしているわけでもないらしい。この2020年代に。まじか。
 整形外科のお医者さんのサイトなどを見ると「ぎっくり腰はストレス、睡眠不足、運動不足が原因と思われるので、予防策は『健康的な生活』」という、非常にどうでもいい(おい!)ことしかおっしゃってくれない。
 昨日のお酒の話もそうだけど「魔法」ってないんだね。やっぱり。

 夜はおしゃれでおいしいものを食べようと思ったら、決めて行ったその店が臨時休業か何かで閉まっていたので、ふらふらと街をさまよい、何かもうこういうのがいいんじゃないかと思って大衆的な焼肉屋に飛び込んだ。
 肉のほかに、じゃがいもを焼いた。
 1センチくらいの幅で厚くスライスしたじゃがいもを、七輪の網の上に並べる。たちまちこんがりと色づき、黒いお焦げも生まれてきたので、さっさと箸で取り皿に移す。
 塩を少しだけ振る。それからバターのかけらを乗せると、すぐにとろとろと形をくずして半透明になる。
 火傷しないように気をつけながらかじりつく。短い焼き時間なのに、表面がパリパリで中はホクホク。炭火の力はすごい。
 茹でたのとも、揚げたのとも違う、焼いたじゃがいものおいしさを堪能した。「魔法」はここにあった。

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