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【職務質問された話】4分読

※お題写真消えましたすみません。
※お題はガムトークで決めています。

「ちょっとお時間いいかな?」
聞き飽きたセリフに顔が歪んだ。

声の方向へと振り向くとガタイの良い警官から手帳を見せられ身分証を要求された。
この後はポケットとバッグの中身を確認されてから
「ご協力ありがとう、いい1日を!」
と言われるのだ。
そんなことが36回も起こっていた。

トラックに轢かれたのが前世の最後の記憶だった。無念の死を乗り越えベッドの中で目覚めた時は
「今世こそ何かを成し遂げてやる!!!」
という期待でいっぱいだった。

中世と現代の服装がごちゃ混ぜの市街で、俺はこのゲームの本質を理解した。

おそらく、これは職質を避けつつミッションをこなしていくツクール系のゲームだ。
モブの服装がバラバラなのもおそらくフリー素材の引用だからだろう。

要するに、ここはクソゲーの世界だったのだ。

タイムリミットは深夜0時、自動的に布団に還される。そしてクリア条件は不明・・・
つまり、職質という妨害を受けつつ何かを達成しろと言う事らしい。

道端の青いペールに隠れながら考える。
そもそも、おあつらえ向きに置かれたペールってどうなんだ?
完全に中身が空でピカピカのゴミ箱が何個も町内に放置されてる筈がないだろ。

ともかく、どこもかしこもそんな感じでこの街の作りの荒さは半端じゃない。
薄暗い箱の中、文句を言っていると目の前をやたら彩度の高い制服を着た警官が通り過ぎた。

そもそも警官のキャラデザも酷いもので、青い原色の制服で全員もれなく鼻毛を生やしている。
そして四角いゴリラみたいな顔面に欠けた前歯とゴリゴリに生えた青髭、不潔の玉手箱みたいなヤツ。
手帳で見せられる名前も【警官】としか書かれておらず、作者からの扱いに少し同情するくらいだ。

今俺は腹が減ったのでコンビニに向かっているところだ。
ちなみに、我慢して家に居ると泥棒が突撃してくる。そしてそこに突入した警官とかにめちゃくちゃにされてゲームオーバーになると17回目で学んだ。

武力で逆らおうとした25回目は、どこから沸いたのか道がビッチリ埋まるほどの警官が現れて押し潰される地獄のような展開だった。

そんなわけで今は大人しくシナリオに従っている。

「今なら・・・行けるか。」
青い制服が通りすぎていくのを確認し抜け出す。
メキッと悲鳴を上げたゴミ箱に感謝しながら夕焼けに紛れその場を離れる。

コンビニまであと少しと言うとき、正面から青い制服がやってくるのが見えた。
とっさに振りかえる!がこちらも視界の端に青を捉えた。
(右に曲がればもうコンビニなのに・・・)
このコンビニ周辺は警官が特に多く配置されており、会話中も自由に動き続けるため捕まれば今日は0時まで職質ループだろう…
あと一歩の悔しさにギュッと目をつぶる。

と、何者かに体を引き寄せられた。
「何!???????」
「静かに!!奴らは見た目に反応するように設定されてるけど念のため。」
そう言って声の主は俺の口に手を沿わせた。
声の主の影に隠れて息を潜めると、俺たちには目もくれず目の前を通りすぎていった。

「助かったよ!って君?は、自我があるのか」
「私はレイナ!トラックに突っ込まれて気づいたらこの世界に来てたみたい。」
「そうか、俺も同じだ。」
そう答えるとレイナははにかんだ。
「私も、一目見たときからそんな気がしていたの。あなたはタロウさんですよね?」
「そうだけど、なんで知ってる…んですか?」
「なんだか私、この世界に来てからずっとあなたの事を探していたような気がするから。」
照れるように微笑んでレイナは俺の手を両手で握ってきた。
「タロウさん!私と一緒に逃げましょう!!」



そうして俺たちは、レイナがどこからか持ってきた真っ赤なオープンカーに2人で乗り込んだ。
そして2人で行けるところまで走り続けた。
他愛もない話をした、レイナは前の人生では運送ドライバーの女性だったらしい。
竹を割ったような性格に俺も自然と笑顔になる。

「また零時になったら連れ戻されるのかな。」
運転するレイナを目の端にとらえながらボソッと呟く。
「そしたら…また私が迎えに行きます。」
えへへ、と笑い声を上げてレイナは微笑む。
「ありがとう。」声にならない声で俺は呟いた。

23時半を過ぎる頃、俺たちは海辺の灯台まで来た。
街を出たあたりから沢山のケイサツ車両が追いかけてきていたから、静かなドライブ…とは行かなかったけど。

追い付かれるまでの間にシザードアを上げ、飛び出すように降り立った。
灯台の入り口にたどり着くとレイナはためらわずに南京錠を破壊する。

乱暴に閉じたドアに閂をかけ、渦巻く階段をいっきにかけ上った。
息を切らしながら展望スペースに倒れ込む。
空はあいにくの曇り、パトカーが煩い。
それでもあの糞みたいな街から抜け出せたのは最高だった。

「何だかんだ、逃避行楽しかったよ」
レイナが呼吸に胸を上下させながら呟く。
「あ…りがとう…ヴェッ…ゲホッ」
走りすぎたせいでまだ呼吸は戻らない、噎せたせいで涙目になりつつ返事をする。 
「大丈夫?飲み物。あ、忘れちゃった。」
起き上がって鞄のなかをごそごそやった後、レイナは俺を見つめてくる。
「ねぇ、どうせ元の世界には戻れないし、恋人…とか、家族になれないかな。私たち。」
俺の手に節くれだった手がそっと重ねられる。
俺もレイナの顔を見つめた。

「…ごめん、それはちょっと難しい…かな。」
そう答えるとレイナの顔が悲しそうに歪んだ。
彼女はとても良い子だけど、俺はどうしても恋愛対象には思えなかった。


少しだけ冷たい風が吹いて俺の汗が冷える。
彼女のゴツい肩が少しすくみ、彼女の青い制服がミシッと音を立てて、鼻毛が風に吹かれた。
転生先さえ違っていれば…
タイムリミットを待ちながら、俺たちは雲を眺め続けた。




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