ガイコツ2

いい姿勢のままでいられる人なんて、どこにもいないから

私、合気道を教えています。

先日、会員から「腰を痛めたので、休みます。歩くのが大変なので会社も休みました」というメールがありました。え、稽古で痛めた!? そんな内容ではなかったと思うものの、投げたり投げられたりしてるのだから、痛めることが皆無だとは言えません。

すると原因は、映画を観に行って長時間ソファに座っていて、でした。

それなら大丈夫だと思うけど、接骨院に行ってみてとメールしました。その人が住んでいる近くの接骨院を、2つピックアップしてリンクを送りました。余計なお世話ですが、整体関係も癒しだけのものからスピリチュアルなものまで、千差万別です。

接骨院は、国家資格を持つ柔道整復師が急性期の施術するので同質的なはずですが、サイトをチェックして調べました。歩くのが大変なほどの急性期なら、手技だけよりも、ほぐすためのマシンも使った方がいいと個人的には思います。何日も会社を休めないでしょうし。

また私としては、さらに問題がありそうなら接骨院で抱え込まず、すぐに整形外科に紹介して行かせるようにしてくれそうかどうかも、チェックポイントです。接骨院でレントゲンは撮れませんし、骨折や脱臼なら、医師の診断後に医師が必要だと認めた場合だけです。

2週間で稽古に出てきたので、聞いてみました。すると「元々の歪みがあって、それがヘンな姿勢で長時間座ってたから、一気に出たんだろう」というような説明をされたそうです。

まあまあ、そうだろうね。それ以上の説明があるようだったら、怖いし。


私が姿勢を指摘する理由

そして、聞かれました。私歪んでますかと。
難しい話ですが、その彼は問題があるほど、歪んでいるとは思っていませんでした。私がやっている養神館合気道は、姿勢を重視します。姿勢の力によって、かなりのことができてしまいます。

稽古中には、姿勢のことをかなり言います。中心軸、後ろ足からお尻・背中・首・後頭部のライン、そして拇指球がどうの膝がどうのヘソがどうのと、かなり細かいです。
準備体操中から左肩が上がってるとか、そんなことを言ったりします。でも彼には、動いているとき以外に指摘したことがありません。

自分の指が肘が膝が、どこにあるか、どこを向いているか。背骨が曲がっているか、などなど、クリアな身体の地図を持っている人は少ないです。ましてや腕を掴まれたり、他人と接触すれば、ますますムチャクチャになります。だから曲がっている下がっているとか、フィードバックするのです。

指摘するのは、そういう稽古だから。

鏡に写したりするのでなければ、自分ではまず感じ取れません。静かに立っているときの姿勢制御ならともかく、動いているときのバランスをとるための動きは無意識に調整されていて、錐体外路系と呼ばれたりします。
錐体外路は解剖学的には実在せず、しかも脳のさまざまな協調していて、どこが中枢だかわからないそうです。

これが妥当な説明なのかどうか、私は医者ではないのでわかりません。いや医師でも分かっているのかどうか。


いやいや歪んでいない人なんていないから

なにが言いたいのかというと、普段どうやって姿勢を制御しているのかよく分からないのに、多くの整体関連の先生方が歪んでいることを悪しきことの原因にします。そして定期的に治療を続けて、痛みが治まってくると安心します。

だけど治療の効果がどれだけあったのか。
痛みがあると、その部分が硬くなります。筋肉が使われず、ほかのところでバランスを補おうとしたり、姿勢を維持するよう代替します。そうすると歪みが全身に広がったりします。

だから痛みを和らげるよう、ほぐすことはとても大切です。どんな流儀の整体でも、たとえ腰が痛くても全身を施術をするのは、全身がつながっているから。ほぐすには、末端から緩めていくというのが、多くの流儀のセオリーだと思います。部分の不調の原因は全身にあるし、部分の不調がひどいと全身に影響が出ます。

専門家でもないのに、何を言っているんだと怒られそうですが、整体関連の関係者は知り合いに何人もいます。私はけっこう突っ込んだことを聞くのです。「治療してほぐして調整したところで、その人の日常が変わらないと歪みはすぐに戻りますよね」とか「骨格的に完全にシンメトリーな人なんていないよね」とか。

程度にもよるので一概にこう言ってしまうのは乱暴ですけれども、否定する人は誰もいません。

もう少し突っ込んで書くと、腰痛の原因は、ヘルニアなどをのぞきレントゲンやCTでも特定できない、つまり科学的に説明できない痛みが85%ほどにもなると言われています。残りがすべて心因性かというと、そうでもなさそうです。つまりはよく分からないけど、痛いというものが多いのです。

それでも「歪みが原因」だと言われると、歪み歪みと思ってしまう人は少なからずいます。そして現代は、歪みがダメだと発信しすぎかもしれません。

だけど、歪んでない人なんて、どこにもいません。歪みがどう影響するかの程度が問題なのだと思います。
整形外科で、たとえば脊柱(背骨)カーブに問題があったとしても、ひどい痛みや日常生活に支障があれば手術。ひどくなければ、対症療法やリハビリ的な対応か湿布で様子を見るはずです。

歪みがいいとは思いませんが、ロボットではないのだから、骨格自体もシンメトリーではないはず。あまり歪みばかりが強調されて、神経質になるのもどうかと思いますし、シンメトリーな骨格だったとしても、歩くだけで崩れるのです。


それででいい姿勢になるの?

いい姿勢をテーマにしているといえば、フィットネスなどボディメイクを売りにしているトレーナーも、美ボディになるには、いい姿勢から、みたいなことを発信し続けています。

それはそれで真実ではあると思うけれども、おかげで静止したポーズや筋トレやストレッチ中のポーズ、立っているときや歩いているときの姿勢ばかりに詳しい人が増えている。私は反り腰だから、という女性が増えているけれども、いったい何かの役に立っているんでしょうか。

美尻になるを売りにするプロたちは、皆反り腰で胸を突き出してポーズをとっている。それは、いい姿勢なの? 

美尻になりたい人は最速で、あるいは最安値でなれる方法を探すだろうから、“売る”側もそのニーズに答えようとする。美尻に、あるいは猫背の矯正に、あるいはO脚X脚、骨盤の歪みなどなど、なんでもいいけれども、体のパーツへのニーズに最適化しようとする。それで、いい姿勢になるんでしょうか。何よりいい姿勢というような主観的なものじゃなくても、健康にはいいのでしょうか?

まるで定食ではなくてデザートだけの注文で、デザートだけの料金だから、映えるデザートを出しました。お客さまもこれが“バランスのとれた食事”じゃないことは、ご承知です。みたいなことなのでしょう。


コスパのいい筋トレボディメイクの問題点

姿勢を良くするため、ボディメイクのために筋トレをする。あるいはストレッチをする、みたいなメソッドが、パーツに対応するだけでいいわけありません。

どう説明するのが伝わりやすいか、納得感があるのかと悩むところですが、目的があって、そこに最速で結果を出すといえばダイエットがあります。

食事等は別にして、筋トレなどの運動面だけでいえば、何よりまず大きな筋肉を鍛える。大きな筋肉は消費カロリーが大きい。だから大きな大臀筋や広背筋、大腿四頭筋を鍛えるのがコスパがいい。というのがセオリーのように語られています。

大臀筋を鍛えるとお尻が大きくなるし、お尻が上がる! だから一石二鳥三鳥みたいな話です。でも筋肉には反対の働きをする拮抗筋というものがあります。大臀筋の拮抗筋は、腸腰筋というインナーマッスルです。
大臀筋は骨盤を後ろから支え、腸腰筋は前から支えていますが、大臀筋だけ鍛えるとどうなるんでしょうか。いや、私は知りません。

大腿四頭筋(前もも)は骨盤を前傾させる働きがありますが、拮抗筋であるハムストリングがゆるみすぎると、さらに前傾しやすくなるそうです。

なんか最速の効率を追い求めると、体のバランスがとんでもないことになりそうじゃないですか? じゃあ、ストレッチなら安全なのでしょうか。


ヨガのインストラクターでも腰痛持ちが少なくない

ヨガにもいろいろな流儀がありますし、いわゆるストレッチとは異なります。異なりますが、親戚みたいなものです。そしてネット上には、お手軽にできる情報があふれています。

いずれも伸ばす捻る曲げる、などの動作です。たいがいは「気持ちのいいところまで」「イタ気持ちのいいところまで」という注釈がついています。それでも、ヨガやストレッチをやる人は、コリをほぐしたいとか柔らかい体になりたいということが目的なのだと思います。

もちろん全身を、時間をかけてやるのならいいと思いますが、これも最速の効率を求めるとどうなるでしょうか。最速の効率が分かりにくければ、ライフハックでもいいです。ライフハックはIT系の便利で効率的な仕事術を意味していたと思いますが、今では便利な生活の知恵みたいな使われ方をしています。

たとえば開脚して、ペタンと上半身を床につけるには、みたいな動画があふれています。体のやわらかい人は、180度開脚や上半身ペタンに強いあこがれがあるようです。

手順や段階はいろいろあっても、伸張反射が起こらないようにジワジワと伸ばして行くことが必要です。伸張反射というのは、筋が伸ばされようとすると自動的に収縮して、伸ばされ過ぎて切れてしまうのを防ごうとする働きです。伸張反射は、速度と長さに対するふたつの反射から構成されているそうですが、適度にコントロールされていないと、運動することすらできません。

またまた乱暴な書き方をしてしまいますが、ペタンとした開脚は、伸張反射する感度を限りなくゼロにしてしまう訓練なのかもしれません。

凝り固まった部分をほぐすのはOKだと思います。もともと動いていたところが、日常生活の習慣で動かなくなってしまった。凝っている。そんな場合なら、対症療法的にストレッチも必要だと思います。だけど問題がないところを、伸張反射させないように伸ばしてしまうのは、どうなんでしょうか。じん帯が伸びきった状態にならないでしょうか。

やる本人が無理のない適度な状態を自覚していればいいと思いますが、“適度さ”を理解することはとても難しいはずです。少なくとも180度開脚をハックすること自体が無謀です。

そのヨガのポーズだって、何のためにしているのでしょうか。いい姿勢になるためにしているそのストレッチをすることで、可動域が広くなっても関節の安定性が損なわれたら逆効果にしかなりません。


やわらかいことのデメリットも

合気道の稽古が始まる前には、それぞれが思い思いの準備体操をしています。私も以前は、やわらかい方がゲガしないし、と一般論をなんとなく信じていました。
開脚している人に対して「たぶん肘をつくんじゃなくて、おヘソを床に届かせるようにすればもっとペタンとなるんじゃない」と、適当なアドバイスをしていました。

あるとき、ハッとして、これ何の役に立つんだ? 開脚ばっかりしてると、ゆるゆるになって危険じゃないか。と気がついたのです。

それじゃなくても、以前から若い女性は、手首も肘も膝も関節のゆるゆるな人が多い。つまり、立つことさえ安定性に欠け、いろんなところに過負担がかかっていると思っていました。

それなのに、どこかに特化して可動域を広げようとするのは、メリットがあるかもしれないかもしれないけれども、デメリットの方が大きいぞと思ったのです。柔軟性と安定性は、バランスが必要です。硬すぎるのもダメですが、ゆるすぎるのは危険です。でもどこがいいバランスなのかは、私にも分かりません。


ところでいい姿勢とは?

で、やっといい姿勢に戻ります。バレエやダンス、整体、スポーツ、武道から健康法などなど、さまざまな立場から、いい姿勢についての基準やメソッドがあります。

ざっくりいえば、同じ。でも細かく見ると、かなり違います。

同じところは、頭、胸、腰という重いかたまりの重心を、揃えて立つということ。ざっと絵にすると、こんな感じです。

正面から見たときは、縦にまっすぐ揃っている。真横から見たときは、あれ? 揃ってない。

これは適当なイラストですので揃ってなくて当然ですが、実は解剖学的にいい姿勢というイラストを探しても、まあ揃っていないのです。解剖学的に横から見たときのいい姿勢とは、耳たぶ・肩の横に出っ張ったところ・大転子・膝の前部分・外側くるぶしの前の五カ所が揃い、それと重心線が一致します。でも、膝の前ではなく後ろの方だったりします。だいたい大転子ってどこだよと。知識として理解しても、さわりでもしないと分かりません。

まっすぐに揃うことのメリットは、重力に対してバランスが取れているから余計な筋力を使わず、どこかに過大な負担が掛からないということ。そして背骨という実体を、支柱のように使えることです。

前から見たときは揃っているけれども、横から見ると、見た目に真っ直ぐだと、揃わないからどうするのか。現実の背骨はもっと背面にあるし、そこの揃え方が立場でかなり違うのです。アゴを上げる、首を後ろにスライドさせる、胸を突き出す、膝を曲げる、骨盤を真っ直ぐ立てる、あるいは思いっきり前に倒すなど色々です。
よほど詳しくないと、文章で読んだところで理解できません。いやいや詳しくても、繊細過ぎて、言うのとやるのとでは大違い。

しかも立ち方の前提は、バレエなら爪先立ち、モデルなら高いヒールの靴でしょう。その他の多くの場合は裸足。そして腰幅や肩幅に足を広げて立っているときのもの。そんな前提のいい姿勢をどれだけ学んでも、日常に役立つでしょうか。本人に体感があって、いい理由を理解し、歩いたり走ったり座ったり、荷物を持っているときでも応用がきくことが必要です。


骨で守られていないところをどうするか

上の図はあくまでイメージです。頭、胸、腰という重いかたまりと書きましたが、頭蓋骨、肋骨、骨盤などに包まれるように守られています。

ところが首のところ腹のところは、頸椎、腰椎と呼ばれる背骨しかありません。だから重力に対する縦のバランスが取れていないと、背骨の特定の部分に大きな負荷が掛かってしまうのです。

縦のバランスが取れるように立ったりできたところで、ゆっくり歩くだけでもバランスが崩れ始めます。だから腹や首の部分は、それなりに筋肉がないと痛めやすいのです。よく腰痛の人は、腹筋背筋など腹回りの筋肉を鍛えてコルセットのようにすることが必要だと言われると聞きます。

腰痛になってしまってから運動で鍛えるのも、危なくないかなぁと思います。すでに痛めているなら、EMSの方が安全ではないでしょうか。


つまり体と重力に対する感性が必要

ここまで書いてきたことを整理すると、いい姿勢を理解することは必要。いい姿勢とは、バランス。バランスは歩いたり、荷物を持ったりするだけで崩れる。だから静止して立っているときのバランスだけ理解しても、それほどの意味はない。

歩いたり走ったり動くことは、バランスを崩し重力の作用を活用することで、効率的に行えるのです。人間はロボットじゃないので、バランス状態アンバランス状態を、断続的に繰り返し、重心を移動させて動いています。

いい姿勢のために、筋トレをするストレッチをするというのも、あまりに何かに特化してやったり、バランスを考えないと逆効果になりかねないと。

あくまで個人的な見解ですが、ちょっとした歪みがどうのよりも、大きくバランスを崩したまま、筋肉などが固まってしまい、本人の自覚がないまま平常運転になってしまうことです。おじさんおばさんは、ほとんどそうですが、人間には約600の筋肉があるとか。その中でほとんど使わない・動かさない筋肉が、どんどん増えていってしまいます。

実際、筋肉を動かすつもりでやるわけではないですが、自分の体のパーツパーツがどこを向いているか、姿勢がどうなってるか、などが分からない状態を、私は「ドラえもん化してる」と言います。


新幹線でスカイフックで立ってみた

たぶん全身の筋肉を適度に動かそうとするなら、電車の中で進行方向に向って、荷物は網棚に上げるなりして、どこも持たずに立つのがいいんじゃないか。私はそう思っています。
満員電車では出来ないですし、危険性もあるし難易度が高いので誰にでもオススメするわけではありませんが、私はいったい何十年やってることか(笑)

ゆれの中でバランスを取ることで、全身の筋肉を動員していると思いますし、体幹が鍛えられます。振動で、全身がゆるんできます。


つい先日、親族に不幸があり、お盆明けに新幹線に乗りました。最初から予約で満員ですので、自由席特急券でデッキに立つつもりです。今までひとりで新幹線に乗ったことがないので、新幹線で立てるチャンスだと思っていました。運良く、デッキはそれほど混雑していなくて、ドア横に荷物を降ろして立つことが出来ました。

さすがに新幹線はかなりの横G。京都名古屋間はカーブが続き、見た目はそうではないですが、ほぼ片足立ちのように一方の足にしか体重が掛かっていないような状態になります。それでも平行立ちで重力に身をまかせるというか、スカイフックで体軸を合わせるつもりでいると、安定してゆらゆら立てました。

スカイフックというのは宙づりになっているようなイメージをつくることですが、バレエなど世界中の身体運動で似たような概念があります。
個別だとまたややこしいので、ご興味があれば「スカイフック理論」で検索してみてください。車のサスペンションなどに取り入れられていて、機械だけに明確です。

ゆらゆら立ったといっても、メールしたりツイートしたり、外の景色を撮ったりしていました。2時間ほど立っていましたが、ふくらはぎが疲れたり、足裏が少し痛くなった程度で、私にとっては座っているより疲れません。

繰り返しますが、新幹線はもちろん、電車の中で立つことも誰にでもオススメできるものではありません。
ただ、いい姿勢のメソッドが、平坦な場所で立つためのものだけなら、それほど意味がないということです。重力に対してバランスが取れていて余計な筋力を使わず、どこかに過大な負担が掛からない。それでいて全身の運動になっているチャンスは、電車の中にだってあります。きっとサーフィンだって、近いものがあるはずです。

筋トレでもストレッチでも、お手軽な対症療法みたいなことは、ほどほどに。最低限の知識は必要ですが、少しはバランスも考えましょうということです。


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