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医療×デザインのためのブックリスト(2020)

はじめに

そもそも、僕が医療とつながるきっかけになったのはドクターからの一通のメールでした。そのメールには「多摩美に行って情報デザインについて話が聞きたい」と書かれていました。医療者と患者とのコミュニケーションについて問題意識を持たれており、多摩美のサイトで公開している卒業制作の作品を見て、情報デザインが役立つのではないかと思われたそうです。そこから医療と情報デザインの共同研究が始まります。(2015, 順天堂大学との共同研究

プロジェクトが始まると、打合せで医師の口から出る用語(医学の専門用語)がわからず、また、医師や病院が持つ情報量と私たちが知っている知識との差が大きすぎて「情報の非対称性」どころではない状況でした。「それはなんのことですか?」という素人の質問にていねいにお答えいただいたのですが、知識量では追いつけないにしてもコミュニケーションのためにはまずこちらも学ぶ必要があるだろうと考え、アドバイスもいただきつつ本を探して勉強していきました。医学の専門書には歯が立たないということもあって(医学論文とか無理です 泣)、入門書や概概要を説明した本など(と言っても「医学分野」ですからね)を探して学びつつ、コミュニケーションを取りつつ、当初はまさに手探りで共同研究が進んでいきました。情報の非対称性はいまでもそのままですが、その後、医療分野の方々とお付き合いが増える中で、わからないなりに手がかりは見つかるようになってきました。今回のブックリストは、スタートから現在進行中の試行錯誤の一部を共有してみようという試みです。

整理されたリストを示して「まずここから、次はこれ、」と紹介できたら良いのですが、残念ながらまだそんな状況にはありません。リストの中には、しっかり通読して概ね理解した本もあれば、一部だけ拾い読みしたものもあります。歯が立たずに読み切れてないもの、積んである本、これから読もうと思っている本もあえて入れてみました。デザインから医療への橋渡しになにか少しでも役に立てればと思います。
なお、医療機器のプロダクトデザインや、機器やソフトウェア、システムのUIUXのデザインについては、多くのデザイン実績や事例が世の中にあり、各分野について専門的な本も出ていますので今回は取り上げていません。期待してた方いたらすみません。各種デザイン手法やUXサービスデザインについては別のブックリストや各専門サイトをごらんください。
では、いきます。

ストリート・メディカル

いまおすすめの1冊、「ストリート・メディカル」という考え方を提唱されている武部貴則先生(横浜市立大学 特別教授,東京医科歯科大学 教授)の著書です。今後の新しい「医療」について、またそこでデザインがどんな貢献ができるのか、たいへん示唆に富んでいます。

ストリート・メディカルとは、扱うべき対象が「病 (disease)」から「人(Humanity)」にシフトすることを通じて、古典的な臨床医学の範囲を超えて、人を扱うことによって広がる拡張領域を指すものである。したがって、ストリート・メディカルという概念の導入によって、医療は無数の答えを用いる広大な実践領域へと発展するものと予測する。
(p065 第2章 「人を観る医療」の挑戦)

「治療では遅すぎる。」

「メディカルコミュニケーション『選ばれる病院』」
Part 4で “広告”の手法の応用 〜広告医学:AD-MEDが取り上げられています。
・個から社会全体へ介在する医療へ ─“コミュニケーションデザイン”で「医」をひらく(武部貴則)
・ひとが動く「ことば」はどう生まれるか ─コピーライターが考える、“ことば以前”の問題(梅田悟司)

関連:広告医学からStreet Medicalへ(横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)

関連:ストリート・メディカル・スクール(東京デザインプレックス研究所+横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)

病院について知る 入門編

患者として利用するときに見えているのは病院の一部だけです。「病院」についての全体像、そこにどんな設備があって、どんな人たちが働き、何をしているのかが概観でき視野が広がりました。図解がありがたいです。

「よくわかる 図解 病院の学習書」「イラスト図解 病院のしくみ」

病院と美術大学のコラボ,ブランディング

徳島大学病院に設置されたギャラリー,武蔵野美術大学基礎デザイン学科のプロジェクトです。

ホスピタルギャラリー

▶博報堂デザインが手掛けた愛媛県の「HITO病院」のブランディングの事例が載っています。病院の理念から関わるブランディングをおこなっており、単にロゴマークをデザインしているわけではありません。

博報堂デザインのブランディング

経営学の視点から見た医療

▶医療や病院のサービスについて考えるという観点からみれば、マネジメントやマーケティングの知見も役に立ちます。病院経営、サービスマネジメント、医療マーケティング、組織学習ほかの文献です。

▶病院のマーケティング、医療組織のマネジメントなどについて。

1からの病院経営

▶医療での先進的な取り組みや、デザイン思考を病院にいち早く取り入れたことでも知られるメイヨークリニックのサービスマネジメントについて書かれています。

「メイヨー・クリニック 軌跡のサービスマネジメント」

▶医療分野におけるマーケティング

「医療マーケティングの革新」

▶病院という組織のあり方、リーダーシップ、医療プロフェッショナルの学習について2冊。

「学習する病院組織」

「医療プロフェッショナルの経験学習」

医療コミュニケーション

▶冒頭にも書きましたが、医療分野と関わるきっかけになったのは、患者や家族と医療者とのコミュニケーションの問題でした。医療の分野でも様々な議論やアプローチがされています。医療者の重視していることや問題意識などを共有することで、デザインがどのように貢献できるかを考えるヒントになります。

医療コミュニケーション

患者さんに信頼される医院の心をつかむ医療コミュニケーション

対話する医療

ABC of 臨床コミュニケーション

看護に関する本

▶看護師のみなさんと知り合っていろいろ教えていただきました。患者・家族のいちばん近くにいて寄り添うのは看護師をはじめとする医療スタッフのみなさんです。専門性は違っても、人間中心の視点から考えるデザインと重なる部分も多いと思いますし、また、サービスデザインでEX(employee eperience:従業員体験)を考える際にも必要な視点です。

看護のためのファシリテーション

看護のためのポジティブ・マネジメント

看護過程の解体新書

以前からデザインの教育に取り入れているリフレクション(Reflection:内省)ですが、関連する文献では看護研究での事例が多く取り上げられていました。医療のことを学ぶ中でリフレクションともつながりました。

「看護における反省的実践」

▶多摩大学の大学院(MBA)で学んだ質的研究の方法論やグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)ともつながりました。

「データ対話型理論の発見」

医療と行動変容

▶行動経済学の視点で医療現場を見るとどのように見えるのかは興味深く、様々なデザインを提供する際に必要な考え方だと思います。患者は医師の説明を聞いて、すべて理性的、合理的に判断しているわけではないようです。治療にあたるドクターからお聞きしたお話とも符合します。

「医療現場の行動経済学」

▶医療のプロジェクトのために読んだ本ではありませんが、行動変容を考えるために必須の一冊です。
「行動を変えるデザイン」

▶医師が書いた行動変容を促すコミュニケーションの本です。医療分野ではエビデンスに基づくことが常に求められるので、どういうアプローチのしかたをするのか知りたくて探して見つけた本です。医療の専門書で難しく読み切れていませんが、評価の方法などが詳細に書かれています。

「行動変容を促すヘルス・コミュニケーション」

医療イノベーション,デジタルヘルスケア

▶コロナ禍で日本でも加速した感じがありますが、医療分野のイノベーションを扱った本をいくつか選んでみました。

医療イノベーションの本質,クレイトン・M・クリステンセンほか 著

医療4.0,加藤浩晃 著

ヘルスケアの未来 アクセンチュア 監修

デジタルヘルスケア

▶医療アプリ 平安好医生(Ping An Good Doctor)を展開する平安保険グループのイノベーションについて

平安保険グループの衝撃

医療におけるデザインシンキング,サービスデザイン

▶医療分野でのデザイン思考サービスデザインの考え方や導入事例です。

Healthcare Design Thinking

Service Design Impact Report : Health Sector(日本語版)
(pdf ダウンロード)

医療プロフェッショナリズム

▶医学部でデザイン思考の授業を担当した(聖マリアンナ医科大学 2019年度)ことがきっかけで、医学の専門家教育のことを知りたくなり本を探しました。医師の持つ専門家としての価値観や倫理観などを知ることもできます。

ABC of 医療プロフェッショナリズム

患者中心の医療,ペイシェントエクスペリエンス

今年の9月からPXE(PX Expert)2期生の講座を受講しています。患者の経験価値を測るための方法や指標について学ぶ講座です。デザインの施策と関連づけていくと(医療的な意味での)エビデンスを伴ったサービスデザインが実践できるかもしれません。

看護管理 2019年10月号 特集:ペイシェント・エクスペリエンス

ペイシェンツ・アイズ 患者中心の医療介護をすすめる七つの観点

患者の目線の医療改革

薬や製薬に関する本

▶以前、ある製薬企業から創造性についての講演を頼まれたことがきっかけで「薬」に関する本を読みました。

新薬の狩人たち

王様のくすり図鑑

トコトンやさしい薬の本

多摩大学(MBA)でナレッジマネジメント,知識創造について学んでいたときに「MRの知識共有」に関する本を読みました。読んだ時点ではMR(医薬情報担当者:medical representative)という仕事についてよく知りませんでしたが、製薬企業の方のお話を聞く機会もあり、医療現場のリアルと結びつきました。

おわりに

とりとめのないリストになってしまっていますが、自分自身の現時点での整理にはなったかなと思います。リストの散らかった感じは、まだまだ医療とデザインとの関わりが途上であることを示している気がします。様々な可能性があることを示しているのだと、前向きに受け止めることにします。
言葉足らずの点もありますが、いったんここで公開版とします(2020.10.3)


この記事がきっかけで、以下のブックリストを公開してくださった方もいらっしゃいます。インクルーシブデザイン、看護・介護、まちづくり・都市など。

2021.1.11追記:吉岡さんによる選書



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