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【第7話】本当に春は来るのか?

こんにちは、堀北晃生です。

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やっとの思いで入籍を決めて、これからの人生を楽しもうと思った矢先。

たった3週間で、大借金を背負うことになってしまった。

「結婚したての妻には本当に申し訳ない。」

しかし、「せめて結婚式だけはさせてあげたい」

今まで何年も貯めてきた結婚資金の貯金。

しかしこれも、すべて借金返済に充てることとなりました。

有り金をすべて出すように言われて、長年結婚式のために積み立てていた
定期預金も解約し、プロジェクトの穴埋めに消えていってしまった。

残っているのは、わずかなお金と、カードのポイントとマイル。

豪華な結婚式パーティはもちろんやれないため、「せめて家族だけで・・・」という理由で、小規模の結婚式にしました。

結婚式を身内だけで行うとはがきを出しました。

親戚の子供達からは、

「どんな結婚式になるの?」

「どんな有名人がくるの?」

などと豪華な結婚式に参加できると思って楽しみにしている電話が続いた。

興奮状態で話している電話の向こう側の子どもたちの声を聞きながら、「さあ、お楽しみだね」と言いながら当日会える楽しみだけを伝えた。

まさか期待してくれた親戚の子供達に、借金まみれて生きるのも必死であることは口が裂けても言えない。

結婚式場は地元近くの小さな式場で開催することにした。

「身内だけ、小規模に」

と友人には言っていたが、本当はお金がなくて結婚式すらできないのが現状だった。

結婚式の会場を下見するということで、地元近くにある会場に行ってみると、床が擦り切れて修復していないような古さを感じる会場でした。

それもそのはず。

この地域で最も安いところを選んだため、私には選択する余地がありませんでした。

奥に行くとウェディングドレスがある部屋があるそうで、そこで待つように言われました。

妻は幼少の頃から、結婚するなら着てみたいドレスがありました。

それは、「マーメイド」というドレスです。

ボディーラインが人女のように細く、足元がふわふわに広がったシルエットのドレス。

小学校の頃に憧れて、いつかは来てみたいということを出会った時に口にしていました。

ウェディングドレスを試着する部屋には100着以上ドレスがありました。

本来であれば、「なんでもいいから好きなの選んでよ」と胸を張って言いたかった。

そんなことも言えない申し訳のない空気感が漂っていました。

ドレスの説明する女性スタッフは、キレイなスーツ姿で妻にドレスの特徴を説明していました。

私は、ドレスのことがわからないため、遠くを見つめボーっとしていました。

頭の中は結婚式のことではなく、これから返済しなければ行けない借金のこと。

このことでいっぱいでした。

私はドレスを見たり、会場を見学したふりをしながら、今の現実の苦しみを少しでも忘れようと努力していました。

30分くらい、いろいろ試着した上で、妻は一つのドレスに決めました。

そのドレスは、キレイではあるものの、なんとなく黄ばんだ感じがあり、形もよれているような気がしました。

決してこれがベストではないことは、見た瞬間わかりました。

しかし、妻は「このドレスがいいので、これで決めたい」としきりに言い出しました。

「もっといいものがあるから、たくさん見てみようよ。そんなにすぐに決めなくてもいいから」

そう妻に言いました。

しかし、妻は一点張りで、「このドレスがいい」といい意思を変える気配はありませんでした。

私は、そのドレスをもう一度見直しました。

念願であったマーメイドのドレスではない。

なんとなく古さを感じるような、ウェディングドレス。

そのドレスを手でなでた後に、「トイレに行ってくる」と言ってその席をさりました。

私は知っていました。

私が席を外している時に、妻が店員にこっそり話していたことを・・・。

私に隠れてコソコソ話している内容とは?

私には聞こえてないと思っていたが、私にはそれがどんなことなのか知っていました。

それは、「ここで一番安いウェディングドレスはどれですか?」

妻は自分が一番着たかったマーメイドのドレスは候補にも入れず、一番安いウェディングドレスを選んだ。

私がいない時に安いドレスを聞いておき、あたかも同席した時に偶然これがいいと決めたかのようなふりをしていた。

私は知らないふりをして、「じゃあ、これにしようか」といってドレスを決めた。

二人がいろいろ見て決めたという建前がここで成立した。

しかし、今の自分には何もできなかった。

大きな声で「好きなドレスいっぱい試着して選んでいいよ!」と言いたかったがそれすらできなかった。

マーメイドのウェディングドレスを着たい夢を叶えることができずに、本当に申し訳ない思いでいっぱいになった。

ドレスが選び終わると、スーツを着た女性定員はドレスのナンバーを記入し、名前を住所を記載するようにペンを渡した。

そこに、自分の名前と住所を書いているとなぜか目頭がどんどん熱くなってきた。

妻の心遣い、自分の情けない今の現状、申し訳無さとありがたさの感情が一気に吹き上がってきた。

涙が溢れそうになり、我慢できないと判断しました。

「ちょっとトイレに行ってくるね」と言いながら、妻と店員には振り返ずに
男子トイレに向かいました。

もちろんトイレに行きたかったわけではない。

悔し涙と、嬉し涙が止まらず、自分の感情を抑えることができなかっただけ。

トイレに入ってカギを掛けた瞬間、滂沱たる涙が流れ出してきました。

声を上げて泣きたかったが、幸せいっぱいの結婚式場の下見で、大泣きしている男は不自然すぎる。

事情はどうあれ、この泣いている姿だけは誰にも知られないようにしなければいけない。

口を抑え、涙が滝のように出てくる自分を、どう制御すればいいのか?

トイレに行ってくると言いながら、長い時間がかかってしまっている。

目は腫れ上がり、冷静ではない状態。

このまま、あのウェディングドレスの申し込み用紙に名前と住所は書けるのか?

妻や店員には泣いている姿を隠し通せるのか?

先行きの見えない未来に対して、胃が締め付けられるような思いでいっぱいになりました。

「本当に春は来るのか?」

続く・・・。

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次回予告
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当時の自分にできることは、精一杯行ったつもりです。

しかし、人生が空回りしているときには、何をしても無駄のような気がしました。

猫の餌も買えない男はこの後どうなったのか?

次の更新をお楽しみに。

追伸:

過去を振り返って書き出すと、当時を思い出しまた涙が出てきます。

キーボードが濡れているので、ティッシュで拭き取りたいと思います。

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投資コンサルタント堀北晃生(ほりきたあきお)。群集心理学と金融工学を組み合わせた独自の投資メソッド「堀北式株価デトックス理論」の考案者。作家、コミュニティ、通信講座を通じて次世代の投資家を増やして社会貢献を目指す活動を行っています。