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投資狂騒曲の渦中にある半導体ビジネスとは?

 

 半導体ビジネスは、現代社会において欠かせない存在となっています。そのビジネスモデルは、もはやシリコンウェハー上にチップを製造するだけではなく、顧客で利用される最終製品(例えば携帯電話)からの要求を達成するための回路設計から、出来上がったチップのテスティング、ダイシング、パッケージングへの組み上げ、品質保証に加え、顧客利用場面での長期的な動作保証という観点から、総合ビジネスとしてのすべての機能フローを整備する必要性があります。

半導体製品の製造と最終製品への組み込み

 まず、半導体ビジネスでは、出来上がったチップを利用する顧客である電子デバイスメーカーの存在と、実際に製造を担う半導体製造から流通業まで、多様な業種が関与する複雑な産業です。その中心には、やはり半導体製造が位置づけられ、その周辺には。自動設計ツールベンダー、マスクベンダー、特殊材料メーカー、半導体製造装置メーカー、テスターメーカー、ダイシング装置及びパッケージング装置メーカー、半導体商社といった企業群が存在します。これらの企業群はそれぞれが密接に関連し合っており、それぞれの専門性を活かしながら協力して半導体製品の市場供給に寄与しています。

半導体製造に係わる企業群

 次に、半導体ビジネスでは、技術の進歩とともにそのビジネスモデルを進化させてきた経緯があります。かつては、半導体を組み込んだ電気・電子製品を、最終顧客向けに製造していた総合電機メーカーが、自身の製品の一部として、その性能を担う半導体デバイスを、一貫して企画から製造を行って、立ち上がってきた経緯があります。一方、半導体製造ラインで余った能力で汎用の半導体を製造し、他のメーカー7に半導体デバイスまで販売までを行っていたIDM(Integrated Device Manufacturer)が25年程前までは主流でした。

IDM(Integrated Device Manufacturer)の姿

しかしながら、技術革新のスピードが非常に早く、革新された技術に対応した設計資源、製造投資が、総合電機メーカーにとっては重荷となってきたことから、近年では設計専門のファブレス企業、前工程専門のファウンドリ企業、後工程専門のOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業といった水平分業型のビジネスモデルが主流となっています。因みに、IDMというのは、この水平分業型の構築の中で、ビジネスモデルの形態の論議で、創造された名称であると思います。この水平分業化された体制は、技術革新を個別に特化した分野で発揮することを目的としており、限られた経営資源を有効に活用できる体制になりました。即ち、分業化により各企業は自社の強みを活かしながら、より効率的に半導体製品を製造し、市場に供給することが可能となりました。

現在の水平分業のフロー

この水平分業型の半導体ビジネス展開の中で大きな存在に成長したのが1987年に設立されたTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)です。僅か30年の間に半導体ビジネスの長者となりました。ただし、TSMCでは、完成品であるチップ全体の回路設計は行いません。これがTSMCの社是であると聞いています。チップ設計に必要な回路モジュール、例えば、内部メモリー、データーの入出力インターフェースやクロック生成回路等の設計は、顧客に提示するために開発する体制はありますが、TSMCで製造されたチップをパッケージに込みこんだ上で顧客製品に提供するのは、設計専門のファブレス企業が中心となります。多くの独立した企業が分業している水平分業型の半導体生産では品質保証のレベルが心配されます。即ち、筆者が育ったIDMでは、半導体の設計仕様の把握から、回路設計への落とし込み、実際のシリコン製造プロセス管理、チップ出来栄えのテスティング、パッケージング後の出来上がりチェック、顧客リリース後の品質モニタリングと、一つの企業内で一元管理されていました。半導体製品では、最終顧客での発生不良とこれらの多くの工程での実施された作業に関連があることが多く、品質の確保のためには、統合的なアプローチが必要であった経験からの危惧です。

水平分業における品質管理体制

 一方、水平分業体制では、設計専門のファブレス企業が中心となり、顧客からの要求を具体的なデバイス設計に落とし込み、その設計を元にチップを製造するための回路設計を行います。次に、チップの回路としての出来栄え確認は、前工程専門のファウンドリ企業が担当します。ファウンドリ企業は、ファブレス企業から提供された設計を元にシリコンウェハー上にチップを製造し、その出来栄えを確認します。その後、出来上がったチップのテスティングとパッケージングへの組み上げは、後工程専門のOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業が行います。OSAT企業は、ファウンドリ企業から提供されたチップをテストし、問題がなければパッケージングを行います。この様に、品質保証については、各工程の分担する企業がそれぞれの工程で責任を持っています。設計段階での品質・信頼性の作り込み、製造工程での品質・信頼性の作り込み、異常検出力および解析力向上による品質の改善、顧客サービスの充実など、各企業は自社の強みを活かしながら、製品のライフサイクル全体をカバーして品質保証を行っています。このように、水平分業化された半導体デバイス製品の製造では、各企業がそれぞれの専門性を活かしながら、製品のライフサイクル全般にわたる品質保証を実現しているようです。何れにしろ、現在の半導体製品は、多くの場合、この水平分業型のビジネスフローで提供されているわけで、完全ではないにしても、最終顧客を満足する製品が提供されていることは紛れもありません。要するに上手く行っているということが結論です。

ご参考までに、下記 Rapidus投資への評論に続く・・・・


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