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埼玉県議会の自民党はなぜ「子ども放置禁止」条例なんてばかげた条例案をつくったのか?

 埼玉県議会は10月13日の本会議で、自民党が提出していた児童虐待防止条例改正案を正式に取り下げました。いわゆる「子ども放置禁止」条例案です。以下が条例案の抜粋です。

第6条の次に次の1条を加える。
(児童の放置の禁止等)
第6条の2 児童(9歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。
2 児童(9歳に達する日以後の最初の3月31日を経過した児童であって、12歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。
3 県は、市町村と連携し、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずるものとする。

埼玉県の「こども放置禁止」条例は史上最悪

 罰則規定こそないものの、子どもを放置することを児童虐待と位置付けて禁止しています。しかも、県民には通報義務を課しています。さまざまな自治体の議員提出条例を見てきましたが、記憶の限りでは、史上最悪の条例案です。

 第一に、現代の家庭における子育て環境をまったく理解せず、条例で禁止すれば「放置」がなくなると思っている点です。脳内が〝お花畑〟としか言いようがありません。

 第二に、行政の責任を放り出して、両親や家族、子どもの周りの大人たちに子どもを守る責任を押し付けている点です。

 第三に、子どもの放置を県民の通報によって見つけるという〝監視社会〟をつくろうとしている点です。まるで戦前のようなおそろしい世界観です。これでは逆に、本来告発されるべき虐待が家庭内で隠され、ブラックボックス化してしまうに違いありません。

 ちょっと頭を使えばわかりそうな鬼畜条例案を平気で議会に提出する感覚が理解できません。しかも、委員会審議では提案者である自民党だけでなく、公明党まで賛成したというのだから、目も当てられません。公明党は衆院選で、自民党と心中するつもりなのでしょうか。

 埼玉・自民党はなぜ、こんな条例案を出してきたのか。本人たちもあまり気づいていないであろう点を指摘しておきたいと思います。

①議員提出条例を提出することが目的化していて、成立したあとのことを考えていない

 平成以降、地方分権の進展に伴い、地方議会は単に首長提案の議案に賛否を示すだけではなく、政策提案型の活動をしようという機運が高まっています。成立するか否かにかかわらず、議員が条例案を提案し、政策実現を迫るのはあり得ることです。ところが、議員提出議案を出すことが自己目的化していて、政策効果が望めない条例や単なる理念条例となっているケースが増えてきました。成立したあとのことを考えていないのです。

②議会には予算提案の権限がないので、予算が伴う条例を出すことができない

 地方自治法では、予算の提案権は長に専属するものと規定されています。だから、議員提出条例は、どうしても理念条例になりがちなのです。これは現行の地方自治法の枠内では仕方ないことでもあります。

③埼玉県には、さいたま市という大きな政令市があって、広域自治体である県の仕事があまりない

 政令市には、県の広域事務が一部移譲されています。選挙では多くの候補者が市民の医療・福祉、まちづくり、教育といった身近な政策を公約に掲げることと思いますが、多くの事務は基礎的自治体である「市」が請け負っています。たとえば、児童虐待防止の所管である児童相談所は、さいたま市のエリアでは「市」が担当しています。こうなると、県議会が議員提出条例を出そうとしても、県は所管外だったりするわけです。

 したがって、県議会は必然的にしょうもない条例しか実現できないのです。

 というか、しょうもない条例しかつくれないからこそ、とんがった主張を取り入れて目立つことでしか、議員提出条例の真価を発揮できないと言ったほうがいいかもしれません。ありきたりの普通の条例では、首長提出議案で十分ですから。

埼玉県の「エスカレーター条例」という前科

 その典型的な代表例が、「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」です。コロナ禍真っただ中の2021年3月に成立した議員提出条例です。要するに、エスカレーターには立ち止まって乗りましょうという条例です。

 知っとるわい(笑)

 地元の自治体がこんな条例をつくったら、おそらく、こう突っ込みを入れるのではないでしょうか。

 駅やデパートのアナウンスで、「エスカレーターには立ち止まって乗りましょう」と耳にタコができるほど聞いているはずです。条例なんかで決められなくても、誰でも知っています。知っているのに、歩くのです。

 しかも、埼玉県のエリアだけエスカレーターでは立ち止まれというのです。どうでもいい条例の典型です。

 こういう条例をつくって、ドヤ顔しているのが、埼玉県議会の多数派である自民党なのです。

埼玉県を笑っている場合ではない

 このご時世、地方分権の成果とはいえ、都道府県という広域自治体の役割は少なくなっています。例外がコロナ禍でした。新型インフルエンザ特別措置法は知事の権限を強化していますから、全国の都道府県知事が対策の立案や情報発信で活躍しました。しかし、それを除くと都道府県の権限は減ることはあっても、増えることはありません。それが地方分権の宿命です。

 そういうなかで、都道府県の議会の役割も問われてきます。

 大きな政令市を抱える道府県なら、なおさらです。

 だから、今回の件は、埼玉・自民党県議団の政策提案能力だけを非難するわけにもいかないと思っています。

 ぶっちゃけ、大きな政令市を抱える県議会は、やることがないんです(笑)

 神奈川県はさらに深刻です。黒岩祐治知事が「未病」「ライドシェア」だとか、地に足の付かないことばかりやっているのは、黒岩知事がアホだからではなく、県に仕事がないからです。住民に身近な医療や福祉、まちづくりはほとんど政令市に奪われていて、やることがない。だから、ヘンテコなパフォーマンスで目立とうとするんです。

 県議会は深刻です。そもそも、目立とうとすらしない。共産党の議席が少ないのをいいことに、ふんぞり返って仕事していません。埼玉県を批判できる立場ではない、ということは指摘しておかねばならないでしょう。

 皆さんの県議会は、ちゃんと仕事していますか?



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