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Endless Valentine’s Day 〜ムジナが如く〜


また、バレンタインデーがきます

初々しいイザナミ(女)が
若々しいイザナギ(男)に声をかけ
甘美にちちくり合う日のことです

しかし

我が国の古文書、古事記では
女から男を誘う
ということは
罪深いことだと、書かれています

この世で初めて
性別をもった母神イザナミですら
自ら男に声をかけてしまったばっかりに
手も足も目も耳もない
ヒルのような子供をみごもってしまったのです

そう考えると

ここ日本で
バレンタインデーは罪深き邪悪な日
ということになります

そう、俺も若きし頃より
バレンタインデーなんか
なくなってしまえばいいのに
なんて忌々しい儀式なんだ、と
憎んでいました

なんでこんなに憎いのか
その当時は分かりませんでしたが
俺が生粋の日本人だったから
なのかもしれません

夢の中では
チョコをくれる女性が
500000人くらいいた
列をなしてた


バレンタインの思い出は?
と問われたら
我々バブルの燃えカス世代は
恋に焦がれる学生のころ、と言うでしょう

そう

男どもは獲得したチョコの数で
その後1年間の存在価値が決まる
聖なる勝者なのか
邪悪なる敗者なのか

聖戦の日だったわけです

自己申告制ながら
どの女からもらったのか、裏まで取られ
不正は絶対に許されませんでした

中には、勝者になりたいがため
母や姉からもらったチョコまでも
カウントした者もいます

がしかし、審査はそんなに甘くない
3等身まで、ノーカン

不正が見つかると、問答無用で失格
卒業したあとの毎年のクラス会まで
全員から塩対応されるのです

母と姉のチョコをカウントするなんて
ゲスい、なんてゲスいヤツなんだ、と

そんな聖なる戦いの日までは

『実際モテない俺ら族』と呼ばれた俺たちは
自ら硬派を名乗り、必死で
自分のアイデンティティを守ってきたのです

サッカーもバスケもできない
かと言って、歌もギターも大して上手くない
我々、軽音・文化系の種族にとって
この聖戦は
公開処刑日のようなものだったのでした

現実はとても辛い、学生時代だった


バレンタインが近くなると
女に異常に優しくなるヤツや
反対に、危険なほどツンデレになるヤツもいて
『あきらかに意識してるだろ族』が現れます

その代わりように
見ているこっちが恥ずかしくなりますが
実際モテない俺ら族よりは
まだマシです

男を極めたヤツらは
バレンタインを機に
女を乗り換えようとします

新しい恋がしたいオーラのもと
既存のカップルが次々と別れてゆく
『ハイスペック族』も現れました

明らかに意識してるだろ族と
ハイスペック族の笑い声は
実際モテない俺ら族からすると
自信のある者しか許されていない
勝利の雄たけびのようでした

アイツらのことを
ずっとこう思って
生きていました


ところが、高2の時

実際モテない俺ら族のひとりが
チョコを2個、獲得するという
奇跡が起きてしまうのでした



おお

おまえぇぇぇぇーッ!

ベースのくせに、なに調子のってんだ
袋だ、袋にしてやる
お前なんか一生ベースで死んじまえ

反町のポイズン、延々と聞かせてやる
(ひどいw)


もちろん
仲間たちの厳しい取り調べが始まりました

母ちゃん、ノーカン
姉ちゃん、ノーカン
義理ノーカン
裏工作ノーカン

本命2個、確定!

判定、勝者!

どこからかともなく光の筋が現れて
天の声が聞こえてくる:

ウー(光の音)ー ♫
脱、実際モテない俺ら族、おめでとう
聖戦の勝利者よ
今日から、パラディンを名乗りなさい

こんなんから
これになった感じ


が、しかし
残された族どもは怒り狂い
闇の力をゆるめませんでした

せっかくパラディンになったのに
族どもが群がり、彼を奴隷にしたのです

裏切り者、反逆者
女に魂を売ったハンパもんなどとして

実際モテない俺ら族の族たちが
あろうことか、その奇跡のチョコを
喰い散らかしてしまったのです

つまりはこういうこと

実際モテない俺ら族が
万が一にモテたとしても
所詮、同じ穴のムジナ
底辺に変わりはないということです

いや

モテてしまったばかりに
より深き底辺を這いずって
生きなければならなくなったのでした

身分相応
自分をわきまえる
貧しくとも、つましく生きる


この星は、階層で出来あがっている
その階層に生まれたものは
そこを越えて生きることは
許されていないのです

高層マンションは
低層階より高層階の方が値段が高いのは
なぜか分かりますか?

マンションの1階で
高層階の住人と低層階の住人が
エレベーターに乗った時

はじめに降りる低層階の住人は
あ、この人は3階の人なんだ、と
高層階の住人は知り得るけど
低層階の住人は、この高層階の住人が
何階に住んでいるのかなんて
この先死ぬまで知ることはないのです

そんな階層の中で、我々は生きている

この世知辛い世界の摂理を
我々はバレンタインデーから
学んでいたのでした

なので

実際モテない俺ら族の我々は
大丈夫

大人になって
人間関係なんかで悩んだりしない

だって、底辺
いつも、クズ

されど命までは、とられない

それが俺たちの宿命なのだから

そのことを熟知しているから
強く生きていられるのです

ムジナが如く

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