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ビニール袋の千羽三角折り

※この話は、フィクションです

昼飯時、休憩室のテーブルについて
この世で1番どうでもいいことを話しながら
弁当をつつくのが、同僚たちだ

お前の子どもの水泳の順位など
僕の鼻くそよりも価値がない

お前の嫁のカレーライスが
ひとつのルーしか使わないから
恐ろしくマズい、というなら
お前が作ればいいだけの話だ

などなど

本当にどうでもいい話題で
口から米つぶを吐き出して笑っている

なんて汚らしく
意地汚い人間どもだ

僕は

無表情でその話を黙って聞く
お前が先に席から去ろうとも
お前が後から席につこうとも
何の躊躇もなく
僕は無表情でお前たちの話を
聞いてやっているのだ

メンバーの中には
必ずコンビニおにぎりで
済ますヤツがいるので

僕は、そのコンビニの袋を奪って
三角折りをはじめる

ちょっとぉ
それゴミ入れにするんだから
やめてよ

と、言われた後
なんかさぁ、気味悪いよ
とも言われた

習慣だから、やらないと気分が悪いんだ
1番最初の職場の上司から怒られたんだ

とかとか

もう言われ慣れているので
そんな言い訳をする気力もない

だから僕は
嫌がる同僚を無視して
ビニール袋の三角折りを続ける

それでもやめろと言われた時は

ゴミ入れにするなら
また解けばいいじゃん
解いても、また三角に折るけどね

そう言い返すと
それ以上は絡んでこない

僕はお前らのつまらない話を聞きながら
ビニール袋を三角に折り続けるのだ

会社の社員として
やっと一人前になった20代の終わり

1つ下の同僚が
ビニール袋の手さげの部分をフックに吊るし
ビニール袋の中に
ひとつぐるっと縛ったビニール袋を
大量に詰めていたので

ビニール イン ビニール
と僕は笑って言ったら
それ以来、仲が急速に冷え切った

細かいこと、いちいち指摘するなよ
というのが
今なら理解できるが
その当時の僕は、お前は本当にだらしないな
というオーラがあふれていたのだろう

ある日、そのビニール袋を
全部、三角折りにして
そいつの机の上に置いてやったら

ほどなくして
職場を辞めていった

上司に呼ばれ
個室で延々と嫌味を言われてる中
僕は何てすごいんだ、と感動していた

上司の話によると
僕のしでかしたビニール袋の三角折りは
彼の辞職の直接の原因ではなかったにせよ
彼の辞職に王手を打ったのは
紛れもなく
ビニール袋の三角折りだったらしい

いや、違うだろ

アイツはビニール袋のせいにして
もともと辞めたかった思いに
アクセルを踏み込んだのだ

あの事件以来、僕は
ビニール袋の三角折りには
並々ならぬエネルギーがあることを悟った

それから僕は
ビニール袋への敬意と
彼への弔いをかねて
毎日毎日ビニール袋を三角に折った

ちょっとぉ
また解くの面倒じゃない
もういい加減にしてよ

しわくちゃが若作りして
パリパリおにぎりを食い終わったか

僕からビニール袋の三角折りを奪い返し
一度噛んだ米つぶを唇につけ
会話に夢中になりながら
解いていく様は

まさに、バケモノだ
人喰いのバケモノだ

それでも僕は無表情のまま
お前の息子のエロ本の隠し場所を
黙って聞いてやっている

おい息子
ベッドの下じゃない
ベッドマットの間に隠すんだ

世界は、美しい

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