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NHK俳句への投稿作・4月号

選者:夏井いつき先生 兼題「入学試験」
弁当の具は鳥の肝入学試験
スケートの試合聴いてる明日受験
落丁の説明長し入学試験
平行に鉛筆並ぶ受験場
鹿二頭受験帰りの社道やしろみち
若草の火のとおにあり受験終る


以前に自選しますと言っときながらつい、こんなにたくさん出してしまいました。すみません。一首目は佳作に採っていただきました。組長ありがとうございます! 私、夏井さんの「組長」って呼び方がかっこよくてすごい好きなんです。

Xで4月19日にポストされた組長のお言葉です。

「選ばれた、選ばれない」に一喜一憂する暇があったら、地道な筋トレをしましょう。周りの句友と自分を比較して落ち込んだりすることほど勿体ないものはない。そんな時間があれば、生き生きと一人吟行をし、コツコツと投句を続けるのです。続けていれば、俳筋力は身に着くのです。

こうピシッと言ってもらえるのがありがたいです。鍛えます、俳筋力。これで思い出したのが、年末あたりに見かけたある方のポスト。「秀作じゃなくて佳作だったのは句作やめろってことかな」と…。そ、そんなあ。思わず「載ったのだから佳作でもいいじゃないですか」とコメントしそうになってやめました。たぶん、私の考えてるレベルで句作されてないのだろうと思ったから。
でもさ、佳作と没では大きい違いですよ。佳作は載って多くの人の目にふれて、これ佳作だけどなかなかいいやんって思ってもらえるかもしれないけど、没は載らないんだから。載らないから、こうやって自分で載せるしかない(笑)。こんなヘコ句、ヘコ歌なのに読んでいただいてる皆さん、ありがとうございます。
お名前忘れてしまいましたが、あの方、まだ句作続けておられるかなあ?


選者:山田佳乃先生 兼題「針供養」
ボタン裏マジックテープ針供養
お針子の子は不精なり針供養
寺尾逝くあしたの報や針供養

志高く高くと初蝶来  山田佳乃

青虫がどういう仕組みで蝶になるのか、未だはっきりとは解明されてないらしいんですけど、蛹のなかでいったんどろどろになって、そこから触角とか鱗粉が形成されていく。青虫が、美しい蝶になる。これって、誰が、なぜ、どうやって決めたの!? 模様のデザインも完璧ですやん。わたし特に信仰してる宗教ないんですけど、やっぱり神様の遊び心としか思えない。青虫はなんで蝶になるのか。狭い土地を出ていろんな花の蜜を吸いたいからです。蝶も志高く。


選者:村上鞆彦先生 兼題「海苔」
灯台に海苔売る海女の皺深し
折紙の大きさ齧る宿の海苔
粗漉の海苔や舌打つ塩の粒


枯蟷螂人間をなつかしく見る  村上鞆彦

枯蟷螂がふと、頭をもたげて自分を見た。じいっと見詰めるその顔は無表情ながら何かの意思を宿しているようで、何代か前は人間だったのかもしれない。もしかすると自分が次の代は蟷螂になっているかもしれない。

吊革のしづかな拳梅雨に入る  村上鞆彦

最近は吊革につかまらない人も多いのですってね。誰が触ったか判らないから気持ち悪いのだと。へっ? 揺れてこけたらあぶなーい! それ言うならお金も黴菌だらけやで?(笑)
通勤電車に並ぶ拳。めいめい静かにスマホしたり目を閉じている。静かな日本人、静かに梅雨に入る日本の夏。


選者:高野ムツオ先生 兼題「バス」
百円のバス長閑なり若草山
小晦日空港バスの膨らみぬ
阪神忌宙ぶらりんのバス去らず

陽炎かげろうに浮いたバス来るそれに乗る
埼玉県 持塚悦夫さん(4月号)

これはすごい。ためいきでました。地味な句だし(ああ、すみません!)、簡単な言葉だけで構成され、すごい修辞があるわけでもない。しかしこの、じわぁ~っと来る感じ、なんなんでしょうか。
代名詞「それ」って字数の限られた俳句で使うのってすごく難しいと思うんです。二字も使うのもったいない。でも、この句の中ではめちゃくちゃ自然。「かげろうに浮いたバス来る。それに乗る。」ぽつ、ぽつ、と、ひとりごと呟いてるような。
陽炎に浮いたバスに乗ったら、そのままどこかこの世にあらざる土地へ連れてってくれる気がいたします。誰にでもわかる言葉で極上の詩を編む。兼題「バス」の特選一席です。頷けます。

同じページの最後、こちらも好きな句。

春の夢キリコの街をバスに乗り
滋賀県 星野曉さん(4月号)

キリコの不思議な絵はたしかに季節でいえば春、それも夢の中。「バスに乗り」ってぷつっと切れる締め方がまた、浮遊感出ていていいですね。「たとえ絵の中でもバスに乗ったら元には戻れないだろう。」高野さんの評も詩的で美しい。