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ANTIBODY(戯曲)

2019年の作品です。この作品でやっと戯曲というものが少し掴めたのかな、と思います。20分の短編です。
初演:在り処 5th place(新栄トワイライトvol.31「Wでお得な3月公演!!」参加作品)

【登場人物】
・若葉(わかば)
・常盤(ときわ)
・ワカバ
・トキワ


 舞台上には二人の女性。

常盤   文字書いてるとさ、他のこと忘れちゃう。なんか、ぎゅーってなる。世界が画面だけになるというか。
若葉   視野が狭くなるってこと?
常盤   そうかも。視野というか、世界が狭くなる。世界には私と文字しかいなくなるの。
若葉   へえ、作家みたい。
常盤   そんなんじゃないよ。
若葉   あ、新作見たよ。この前の。やっぱ面白いね。
常盤   本当に?
若葉   私は好きだった。
常盤   ありがとう。でもさ、私はすごい悔しくて。やっぱり下手だなって思ったし、早く上手くなりたいなって。圧倒的に技術不足だから。
若葉   そうかな。好評だったじゃん。
常盤   あー……なんかバズってたね。
若葉   盛り上がってた。
常盤   キモくない?
若葉   え、どういうこと。

 トキワが現れる。種を蒔く。

常盤   なんか、現実ではそんなことなかったのに、ツイッターだけ異様に盛り上がってたじゃん。なんかすごい……キモいなって。なんか、大したことないのに。やっぱ大人が話題にするとみんな褒めてくるよね。
若葉   話題になるだけいいじゃん。褒められたら素直に喜べばいいと思うよ。
常盤   うーん。でも、なんかバズってるからって褒めてほしくない。だってそれ嘘じゃん。ツイッターなんて嘘じゃん。
若葉   ……面白かったのは本当だよ。
常盤   ありがとう。
若葉   そんなに不満かなあ。注目されるのはいいことだと思うけど。
常盤   私はさあ、インターネットミームになりたいわけじゃないんだよ。便利なモノになって消費されてたら負けだもの。私は主体的にならなきゃ。画面の向こうのやつらを引きずり出さなきゃ。

 常盤、その場を去る。トキワは水やりを始める。
 若葉はおもむろに種を手に取り、飲み込む。
 ワカバが現れる。煙草を吸っている。

ワカバ  よくそんなもの飲めるよね。
若葉   ……うるさいな。
ワカバ  あんたも人のこと言えないね。
若葉   あんたには関係ないでしょ。
ワカバ  どっちでもないかな。
若葉   なにそれ。
ワカバ  だって効かないから、毒。
若葉   なるほど。

 間。

ワカバ  あんたと同じ名前の煙草があるの、知ってた?
若葉   知ってる。
ワカバ  いくらだと思う?
若葉   は?
ワカバ  いくらだと思う、それ。
若葉   知らない。
ワカバ  360円。
若葉   へえ……それって安いの?
ワカバ  安いよ。かなりね。
若葉   そうなんだ。お似合いじゃん。
ワカバ  あんたそっくりだよ。

 間。

ワカバ  それ、楽しいの?
若葉   楽しくないけど。
ワカバ  苦しいでしょ。
若葉   苦しいよ、毒だもん。
ワカバ  じゃあ飲まなきゃいいじゃん。
若葉   飲まなきゃいけないから。
ワカバ  なんで。
若葉   なんでって。
ワカバ  誰も強制してないでしょ。強迫観念?
若葉   そんなんじゃないよ。
ワカバ  じゃあなんで。
若葉   ……抗体をつくらなきゃ。
ワカバ  抗体?
若葉   苦しいけど、吐いちゃいたいけど、抗体をつくれるから。そうすれば、後が楽だから。
ワカバ  ふーん。
若葉   だから今は我慢しなきゃ。
ワカバ  ふーん。
若葉   ……満足した? この回答で。
ワカバ  吐いちゃえよ。
若葉   え?
ワカバ  吐いちまえ。
若葉   ……。
ワカバ  あいつみたいに。

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