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個人的な2022年おすすめデザイン系ポッドキャストエピソード3選

リモートワークが始まってからの約3年が経とうとしている中で新たに生まれた習慣として、ポッドキャストを視聴するようになったことがあげられます。散歩をしたり、ドライブをしたり、頭を使わない作業なんかをやっている時にはもってこいのなのが、このポッドキャストという音声メディアだと感じます。

本記事では、個人的に非常に印象に残っているエピソードを紹介したいと思います。

デザイン系ポッドキャストとの出会い方

ポッドキャストというメディアは、音声であるが故に、個人的には最も話し手の伝えたい内容をリアルな表現・トーンで聞くことができるという強みがあり、また、聞き流しながら別のタスクをこなすことができるという特性があるため、他のメディアと比較した際にかなり興味深いポジションにあります。

また、ポッドキャストは、現在進行形でその普及率が上昇しているメディアです。Demand Sageによるポッドキャストに関する統計によれば 、2022年11月時点で、世界中で3億8370万人もの人々がポッドキャストを聴いており、240万もの番組と6600万以上のエピソードが存在するそうです。また、アメリカには1億人近いリスナー人口が存在し、普及率は北欧が最も高いということでした [1]。

このような状況の中で、いきなり自分にフィットする番組・エピソードを発見することは難しくはありますが、個人的には次のような方法で、新しい番組・エピソードと出会うようにしています。

興味があるカテゴリから選ぶ

王道中の王道ですが、まずはカテゴリ検索です。Apple Podcastのアプリを利用している場合は、「検索」のタブを開くとキーワード検索と共に、カテゴリ一覧が表示されています。そこから、自分が気になるものを選択するといくつか番組が表示されてくるので、選んでいくつか聞いてみるといいでしょう。ちなみに私自身が興味のある「デザイン」のカテゴリは、アートのサブカテゴリとして存在しているので、ちょっと探すのに苦労しました。笑

興味がある人の名前やキーワードから選ぶ

これはもしかしたら私自身が英語のポッドキャストを多く聞いているからかもしれませんが、特にデザイン関連のものについては、知っているデザイナーの名前やキーワードなどで検索をすると多くの場合、探していた人が出演、または、ホストをしている番組やエピソードに出会うことができます。先ほど紹介したカテゴリ検索をしてしまうと、少し粒度が荒いデザインの番組と出会うことが多くありました。一方で、名前で検索をするとデジタルデザイン、UX、サービスデザイン、プロダクトマネジメントといった自らの文脈とあったデザイン系の番組と効率よく出会うことができました。

番組やエピソードの概要欄やSNSから選ぶ

このアプローチはかなり上級です。私が聞いているポッドキャスト番組の多くは、ポッドキャストの音声だけではなく、別のウェブサイトが存在し、各エピソードの文字起こしが用意してあります。また、より親切なものでは、ゲストの情報や関連番組・エピソードまできちんと整理してくれているので、より深掘りしたい時には非常に役立ちます。ここまでくると、気になっているテーマや人のブログや書籍にたどり着き、気づいたらポチっているという状況に落ち着きます。

2022年おすすめデザイン系ポッドキャストエピソード3選

本題に入らずに長々とポッドキャストの出会い方について書いてしまいましたが、ここからは今年個人的に印象に残っているエピソードをご紹介していきます。

ランキング形式ではなく、3つ全部いろんな意味でとても面白かったものとして紹介します。また、2022年と記載していますが、紹介するエピソードが、必ずしも2022年に公開されたわけではなく、私が2022に聞いたエピソードであるため、あらかじめご了承ください。

28—The Leadership Ceiling (ft. Tim Kieschnick) on Finding Our Way

こちらのエピソードは、『The Elements of User Experience』の著者であるJesse James Garrettと『デザイン組織のつくりかた デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド』を著者であるPeter Merholzがホストを務める「Finding Our Way」というデザイン組織、デザインリーダーシップ、デザインコーチングなどのテーマを深掘りする番組で、2022年4月29日に公開されたエピソードです。

ゲストで登場したTim Kieschnickは、アメリカの三大健康保険システムのひとつである健康維持機構で最大の組織であるKaiser Permanenteの元UXリーダーであり、Peter Merholzの元同僚ということでした。

エピソード内では「Leadership Ceiling(リーダーシップの天井)」という組織における変革を発揮するためのTim Kieschnickによる個人的な経験則に基づくフレームワークの紹介でした [2]。Ledership Ceilingのフレームワークによれば、企業や組織には次の3つの天井が存在します [2,3]。

  1. パーパス:企業や組織の存在意義

  2. 人々:企業や組織に所属する人々のスキルレベル、関係性、文化

  3. プロセス:企業や組織で物事が遂行される方法、品質、パーパスとの接合性など

これら3つの天井は、相互に作用しながら、企業や組織の推進力や射程を規定するとされており、特に、いずれかの天井の一番低いレベルに収束してしまうというのがこのLedership Ceilingの考え方です。そして、これら3つの天井を上げないことには、企業や組織の変革をできず、組織的な抵抗に揺り戻されてしまうというのもこのLedership Ceilingの考え方です。

例えば、声高らかにパーパスを掲げたとしても、第2の天井である所属する人々の中に、そのパーパスが浸透しなければ、完全なる空言になってしまう可能性があります。自らの組織の天井がどこにあるか見極め、天井を無視して飛び越えるのではなく、天井自体を変えていくことが重要になってきます。

このエピソードの中で、Tim Kieschhnickは、組織の天井を変革するアプローチとして「信頼関係を構築すること」とを強調しています。非常3つのシンプルなステップで構成されており、まず「自分が貢献できることを証明すること」、次に、「協力関係を構築すること」、そして最後に、「変革のためのイニシアチブを取ること」であるとしています [2]。この信頼関係があるかないかで、自ら所属する企業や組織の中で、チェンジメーカーになることができるか、それともトラブルメーカーとして終わってしまうのかの境目があると感じました。

いろんなところで使うことができると感じたこの考え方は、2022年に登壇したテーマとも合致していたので、紹介しておりますので、興味があればご覧ください。


#210 Embedding service design with Marc Stickdorn on UX Podcast

「UX  Podcast」は、2011年から現在まで10年以上に渡り続いているスウェーデン在住のデザイナーであるJames Royal-LawsonとPer Axbomによるデジタルデザインのポッドキャストで、非常に幅広いテーマとゲストを招いたデザインに関する話が展開される番組で、個人的にはかなりの頻度で聞いています。

2019年に公開されたこのエピソードは、「This is Service Design Thinking」の著者であるMarc Stickdornがゲストとして出演した回でした。

テーマとしてタイトルにもあるようにどのようにサービスデザインを実装していくかという内容の中で、メインのインタビュー自体も非常に面白かったのですが、個人的に1番印象深かったのは、収録後にJamesとPerが2人で振り返りをしている時間で、Marcのサービスデザインの12のポイントを読み上げているシーンでした [4,5]。

1 – call it what you like, use the language you want to use.
(サービスデザインを)好きなように呼ぶ。自分が使いたい言葉を使うことです。

2 – make shitty first drafts.
ひどいドラフトを作る。

3 – you are a facilitator.
あなたはファシリテーターです。

4 – doing not talking.
おしゃべりではなく、やること。

5 – ‘yes, but’ and ‘yes and’.
「イエス・バット」と「イエス・アンド」

6 – find the right problem before solving it.
解くまえに正しい問題を見つける。

7 – prototype in the real world.
リアルな世界でプロトタイプする

8 – don’t put all your eggs in one basket.
ひとつの選択肢だけに全てをつぎ込まない。

9 –it’s not about tools. It’s about changing reality. We are change agents, not creators of beautiful tools. 
ツールの話ではなく、現実を変えること。私たちは、変化の主体であり、美しいツールのクリエーターではない。

10 – plan for iteration then adapt.
反復の計画を立て、そして適応する。

11 – zoom in and out.
拡大と縮小

12 – it’s all services, societies are total service system.
全てはサービスであり、社会は完全なサービスシステムである。
「https://uxpodcast.com/embedding-service-design-marc-stickdorn/」
より一部抜粋、翻訳は筆者による

これらのポイントは、デザインをチームスポーツとして捉え、企業や組織の中に根付かせていくという観点から非常にあたりまえですが、重要な示唆に溢れていると思います。特に、一番最初のポイントである「(サービスデザインを)好きなように呼ぶ」というは、繰り返し伝えても、伝えきれないと感じます。

デザインは、大切です。一方で、デザイナー以外の他の専門家と協力しながら、全体のシステム、サービスを形作らなければならない中で、デザインが主語になるわけにはいきません。デザインの本質を活用するために、組織、チームで利用されている言語に翻訳して、その価値を発揮していく必要があるのです。

また、12のポイントにも表れていますが、Marc自身のサービスデザインへのアプローチは非常に実践的、かつ、内省的です。特にこれまでのサービスデザインが「ビジョンや方法論についての言及は多いが、デザインフェーズ以降の実装が得意ではない」という点について、議論もこのエピソードの中で行われており、4つ目のポイントにもあるように「おしゃべりではなくやること」として、どのように実践と実装に注力していくべきかというサービスデザインという領域自体にも変化を促す提唱をしています。

2019年といえば、自分自身もちょうどサービスデザインへの理解と実践を繰り返していた時期でもあるので、その数十年先をいっている最前線の方の現在地(といっても2-3年前)の方向性が自分の見ている世界と近いことである種の確信に繋がったことを覚えています。

20—The business model is the new grid, and other mindbombs (ft. Erika Hall) on Finding Our Way

最後に紹介するのは、「Finding Our Way」の番組の他エピソードで、A Book Apartシリーズの『Just Enough Research』や『Conversational Design』などの著者でMule DesignのErika Hallによる「The business model is the new grid, and other mindbombs」という回です。

「ビジネスモデルは、新しいグリッドである。https://twitter.com/mulegirl/status/1218596274162651137?s=20&t=VJkVFqYRM8e4CS7d22He1Q
「ビジネスモデルは、新しいグリッドである。」
https://twitter.com/mulegirl/status/1218596274162651137?s=20&t=VJkVFqYRM8e4CS7d22He1Q

以前別にすでに公開しているnote記事でも書いているのですが、「デザイナーにとって、ビジネスモデルこそが新しいグリッドシステムである。」というコメントの意図、これからのデザインコンサルティングとデザインの内製化、いろいろ先見性とトレンドが整理されていて非常に興味深いエピソードとなっています。

Erika Hallによれば、デザインには、CriticismとCreationの二つのダイアログがあり、デザイン機能・業務の内製化においては、このCreationの部分が事業会社内のケーパビリティとして取り込まれてつつあるというのがまず1つ目の業界トレンドということでした [6]。

元ネタは覚えていないのですが、以前Twitterを眺めていた時に、会社の規模が大きくなるとデザイナーの役割が小さくなる的な記事を発見したことがあります。個人的には、その背景には、事業会社内でCreation部分におけるデザインが内製化されると、それは製造工程におけるプロセスが経済合理性を求めて最適化を求め続けるからという当然の流れからとして捉えることができるのかもしれないと考えています。

また、デザイナーはしばしば「ユーザーの代弁者である」という役割があるとされ、ユーザーのニーズのみを追い求め、ビジネスのニーズを諸悪の根源のように取り扱うという対立構図を生み出してしまうこともデザインの社会的認知度が漠然と高まってくる中で、あったと個人の体験を通じて感じています。このような状況は、結果として、企業や組織におけるデザインとデザイナーが影響を与える領域を狭めてしまうことになる可能性があります。Criationの最適化が進む中で、Criticismをうまく機能させるためには、より大きな視点から物事を捉えることが必要です。

2つ目のCriticismの論点は、主にデザイナーが真にデザインすべきものであるとErikaが言う「ビジネスモデル」に関する議論となっています。既存のビジネスモデル(グリッドシステム)の中で、「ユーザーのために」という名目の元どのように試行錯誤したところで、それは既存モデルのデコレーション、または、最適化だけでしかなく、真に「ユーザーのために」もとい「社会のために」デザインを活用するのであれば、このグリッドシステムそのものを再定義する必要があるというのがErikaの意図となっています [6]。

これには正直面食らってしまいました。ぐうの音も出ません。例で考えるならば、世界をサステナブルにしたいと言うビジョンがあるなら、そもそもサステナブルではない既存のビジネスモデルの中で、なんちゃってサステナブルをするのではなく、最初からさまざまな観点においてサステナブルなビジネスモデルをデザインするべきということです。つまり、私たちは、現在のビジネスモデルが再定義をする必要があるということです。そして、それは「なぜ」について問いを立てる行為につながってくるのです。

このような本質的で広域な問いは、Creationに最適化した領域のデザインでは非常に難しいように感じます。なぜなら、「最適化」は既存の枠組みが確立しているからこそ取れる手段です。本質を問う行為は、その枠組みを揺るがすことになります。そして、そのような問いを許容でき、客観的な視点から本質を見つめる時間と空間を生み出せるのは、外部要因的に経営者レベルにCriticismをぶつけることができる存在なのではないかと個人的には感じています。つまり、これは今後のデザインコンサルティングのあり方でなのではないかということです。

私にとって、このエピソードは、上記の非常に重要な仮説を得ることを可能にした回となりました。

おわりに

いかがだったでしょうか?たった3つのポッドキャストのエピソードを紹介するのに、非常に多くも文字数を使ってしまいましたが、私自身が「コレキタ」と感じた瞬間を少しでも共有することができていれば嬉しいなと思います。

これからも定期的に気になるポッドキャストのエピソードがあれば、メモ的に記事として言語化していければと思います。

P.S.

今年から、「ゆめみアートxデザイン」というタイトルで、自分がホストを務めるデザイン系のポッドキャスト番組を運営しています。今紹介したような自分が聞いたポッドキャストでの学びも諸所に織り交ぜて話しているので、もしご興味あれば、一度ご視聴ください。


参考・引用文献・資料

[1]
Daniel Ruby. 
"39+ Podcast Statistics 2022 (Latest Trends & Infographics)," Demand Sage.

[2]
Jesse James Garrett. & Peter Merholz.
"28: The Leadership Ceiling (ft. Tim Kieschnick)," Finding Our Way.

[3]
Peter Merholz.
"The Leadership Ceiling: a framework for diagnosing your situation"
https://www.petermerholz.com/blog/the-leadership-ceiling-a-framework-for-diagnosing-your-situation/

[4]
James Royal-Lawson. &Per Axbom.
"#210 Embedding service design with Marc Stickdorn", UX Podcast.

[5]
James Royal-Lawson. &Per Axbom.
"Embedding service design with Marc Stickdorn (Transcript)," UX Podcast.

[6]
Jesse James Garrett. & Peter Merholz.
"20—The business model is the new grid, and other mindbombs (ft. Erika Hall), " Finding Our Way.


基本的に今後も記事は無料で公開していきます。今後もデザインに関する様々な書籍やその他の参考文献を購入したいと考えておりますので、もしもご支援いただける方がいらっしゃいましたら有り難く思います🙋‍♂️