5-⑬ 春暁
より一層の高みを、無我の境地を目指すニ度目の冬。
〝心頭滅却すれば火もまた涼し〟
火炎ほとばしる中での荒行、護摩堂で
身の、心の邪神を焼き払い、また、空から降り注ぐ雪にも、厳しい冷気にも汗を滴らせ、今日も彼は早朝から一心不乱となり、自分の可能性と未知の力を見いだすための修行に打ち込んでいた。
目が覚めて、今日もまた生かされている事に感謝をする。合掌をし、心を洗浄する。身を清め、身の回りを整え、堂宇の清掃をする。心身を整え本尊様に向かい読経し、先祖の供養と生かされている者の幸福を祈る。
座禅、読経、作務、そして勤行後に行う、日に一枚の般若心経•••その枚数も既に200枚を超えていた。
心を落ち着かせ、目の前の筆と半紙に集中し、無心となり、一字一句に筆を運ぶ。
写経には、心技体、その全てが詰まっている。
そして1日を終え、心の平安を、今日1日の感謝を祈りながら、彼は眠りに就くのであった。
太陽は悲しみの涙を乾かし、喜びと笑顔を連れてくる。
やがて、寒き冬を耐え忍んだ命が芽吹く春がやって来た。
行く道の先々に命の喜びが溢れていた。
風薫り、鳥は高らかに歌を歌い、花は揺れ、その姿を煌めかせている。
一歩一歩を進めるその先から、また新たな道が彼の目の前に広がっていた。
その瞳は凛として輝き、一心に教えを学ぶかの如く、その声を聞き逃すまいとする生徒達。
彼は今、山上に建つ中学校のとある教室で、生徒達と共に僧正の説法を拝聴していた。
優しく諭すような、且つユーモア溢れるその説法に、教室は笑いに包まれた。
その若き心の中に、まるで水を吸収するスポンジのように、その教えを染み込ませるかのような若者の姿に、彼は心が温かくなるのを感じていた。
自身が四度の巡礼を通して多くの事を学んだように、この説法が生徒達の更なる成長の糧に、飛躍への一歩となるように、彼は願った。
「私は校長先生と少しお話をして、そのまま奥の院へ行きますから、このまま1人でお帰りなさい」
彼は一礼後、校長室を辞去し、職員用玄関へと向かった。
廊下で友人と談笑している生徒達が一様に頭を下げる。彼もまた手を合わせ、生徒達の未来を願う。
校庭を横切り体育館の横を抜け、校門へ向かおうとしたその時、彼は思いがけず立ち止まった。
息を呑み、耳を澄ます。
間違いない•••懐かしいメロディー。
何度も何度も練習をしたあの歌•••。
彼は目を閉じて、ただただその場に立ち尽くしていた••••••。
「お前はモテるし、歌も上手いからいいよなあ•••」
「はあ?お前の方がモテるだろうよ!チョコ10個ももらったくせして!」
「まあ•••勝負は卒業式だな!どっちがボタン何個無くなるかでな!」
「••••••」
「卒業式は俺前列だからなあ•••口パクで行こうと思ったんだけど、どう思う?」
「少々音外したって大丈夫だろ!少々ならな!」
「てめえ!」 ••••••••
耳に届く、生徒達の力強い合唱の声に
、彼は自身を重ね合わせていた。
〝はばたけ明日へ まだ見ぬ大地へ
新しい大地へ まだ見ぬ新しい大地へ
生きる喜びを 生きる喜びを
広がる 自由を求めて
広がる 自由を求めて••••••〟
力強く始まり、そしてしっとりとした曲調へと転調、やがて歌も演奏も壮大に深まっていく•••。
生徒達の心が、想いが、その歌声が昇華するかのように、大空へと溶けていった。
彼の瞳から止めどなく、涙が溢れた。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🥲次回配信は4月27日土曜日午前8時です。春の夕暮れ時の柔らかな風が、翔馬の頬を撫でるかのように過ぎ去っていきます。
もう少しです!翔馬との再会まで!
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
🐴🍀生牧草送付のお知らせ🍀🐴
🐴能登復興応援チャリティーイベント🐴
4月20日土曜日、大塚オリーブにて開催されました。能登復興応援の為に、たくさんのアーティストさんの作品が出品され、多数来客の皆さんが復興の一助となるべく、それぞれ思い思いにその作品を手に取り、素敵で暖かな空間を作り上げていました😊👍
それではまたお会いしましょう🙏
この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇