Jリーグ Project DNA:「U-18→U-21」で広がる未来を考える

先日、複数メディアからこんな記事が出ました。

現在は18歳(高校年代)までで区切りとなっているJクラブの下部組織、いわゆるユースチームの年齢上限を21歳まで引き上げよう…という「Jリーグ Project DNA(Developing Natural Abilities)」が発表されたそうです。

なぜJクラブのユースは18歳で区切りなのかと言われれば、高校を卒業するタイミングだからというのが一番でしょう。トップチームに昇格する選手、進学して大学サッカーの門を叩く選手、そしてサッカーを離れる選手…といろいろな進路があり、それはまさしく今の時期の風物詩ともなっています。

そんな育成システムの年齢上限を21歳に引き上げるとすれば、いろいろな要素を考慮する必要があります。本稿では海外の事例を取り上げたり、近年のJリーグで起こったことから課題を拾ってみたり、その上で思いつくアイディアをまとめてみようと思います。以下長くなりますが、よろしければどうぞお付き合いください。

海外の事例:プレミアリーグ2(イングランド)

「育成システムっていうけど、Jリーグが始まる前からプロリーグがあった海外ではどんな感じなのよ?」ということで、筆者が覚えていた事例である「U-21プレミアリーグ」を調べてみました。しかし、2016−17シーズンから「プレミアリーグ2」に名称変更され、なんと年齢制限も23歳以下まで引き上げられていました。初っ端からつまづいております…申し訳ありません。

ただ、せっかくなのでちょっぴり見ていきましょう。名称とは裏腹に、プレミアリーグ2にはプレミアリーグの全クラブが参加しているというわけではなく、現在はプレミアに所属していないクラブも合わせて24クラブが参加しています。Jリーグで例えるとすれば、かつて存在した「サテライトリーグ」が2部制になっている感じです。

こちらのリリースを読む限りでは「選手の技術面、フィジカル面をトップチームに近いクオリティで向上させること」といった旨がプレミアリーグ2の目的として挙げられていますが、一方でオーバーエイジ(24歳以上)の選手登録が認められており、ゴールキーパーは無制限、フィールドプレイヤーは3人まで出場することができるようになっています。

これらを踏まえると、プレミアリーグ2はサテライトリーグに年齢制限(+オーバーエイジ枠)を含めたような構成になっていることが分かります。もう少し面白いルールとして、

・少なくとも3試合以上のホームゲームはクラブのメインスタジアムで行うこと
・練習場または育成機関の試合会場でのホームゲーム開催は3試合までとすること

というものがあります。前者は「トップチームに近いクオリティ」を雰囲気込みで体感させるための良い施策ですね。ちょっと前のものですが、リヴァプールU-23とマンチェスター・ユナイテッドU-23の試合がアンフィールドで行われたときの動画があったので載せておきます。

こんな具合ですね(リバポ好きとしてはもうちょっといい感じ動画を載せたかったんですが、なかなか見当たらなかったので…)。よーく見るとKOPスタンドの半分弱がファン・サポーターで埋まっているのが確認できるあたり、それなりに集客力があるのだろうと察します。

そして、このレギュレーションはプレミアリーグ2自体の存続を守るために考えられたものなのではないかとも思えます。ここでサテライトリーグのことを考えてみますが、サテライトリーグの試合はトレーニングマッチとの差別化が曖昧でした。事実、例として2016年の日程を挙げますが、多くの試合が練習場で行われていました。

普段の練習は無料開放してるのに、試合観戦を目的として整備されているわけではないグラウンドで入場料を取れるのか…と言われればやや心苦しいところがありますし、一方で試合の運営にはそれなりにリソースを割く必要があります。こればっかりは各クラブの台所事情にも関わってきますが、サテライトリーグの試合で入場料を取れないとすれば、あまり力を入れられないクラブが多数派だったのではないかと思います。

これが普段のリーグ戦が行われているスタジアムで、かつ将来トップチームに昇格するかもしれない選手たちを観られるとなれば、サポーターに「ちょっと行ってみようかな」という気持ちが芽生えやすいでしょう。そして、そうした心理を促進するために「練習場での試合は3試合まで」と制限しているのではないかと考えられます。マネタイズも含め、実益を求めた結果のレギュレーションではないでしょうか。

JリーグへのU-21導入に際した課題:「ガンバ大阪U-23」という事例

…と、プレミアリーグ2の制度について見るのはこの辺りにしておいて、そろそろ本題に戻りましょう。日本の下部組織における年齢上限を18歳から21歳に引き上げることで起こり得るのは次のことです。

・U-18→U-21に昇格した選手たちがトップチームに昇格できなかった場合の進路
・試合を行うための人数確保

他にもいろいろありますが、大きなところでこの2点について考えてみたいと思います。

・U-18→U-21に昇格した選手たちがトップチームに昇格できなかった場合の進路
現行の制度が18歳までになっている理由は冒頭に述べたとおりですが、U-21に昇格した選手(以下、U-21選手)がトップチーム昇格を逃した場合、その行き先が限定されてしまうのを危惧している方が多いことと思います。

21歳といえばおおむね大学3年生に当たる年齢で、これが終わった後というと大学4年生の代になります。ここから大学サッカーに行くのも、あるいは社会に出るのも、その先の生活を考えると現状ではなかなか厳しいところがあるでしょう。

Jリーグ参入を目指すクラブが全国各地に増えており、ある意味では選手の受け皿的な役割を果たしているわけですが、そうしたクラブにおいてサッカーだけに専念できるプロ契約の選手は少ないようです。サッカーと仕事の二足のわらじを履く選手が多数派を占めているのが現状となれば、そうした選手を今よりもさらに増やすような制度はどうなのか…という意見が出てきてもおかしくはありません。

・試合を行うための人数確保
続いて、試合を行うための人数確保についてです。現状をケースとして考えるべく、少し前のものではありますがこちらの記事を取り上げてみたいと思います。

ざっくりまとめると、当時のガンバ大阪U-23はU-18チームの選手(以下、U-18選手)とトップチームの選手で構成されていたわけですが、それぞれ“主戦場”がある身であって、あくまでその“主戦場”が優先されていたために、U-23チームとしての継続性がなかなか作れなかった…という旨を宮本恒靖監督(※当時)は述べています。

トップチームに所属するプロ選手を多く保有できない金銭的な事情がクラブにあるとすれば、“より高いレベルでのプレー経験”との引き換えはあるにせよ、いわば穴埋めとしてU-18選手を起用するのは最もあり得る流れです。

ただ、U-18選手はU-18選手で同年代のリーグ戦があるし、トップチームもトップチームで然りです。そうなれば、どちらにも影響がない選手たちを都度寄せ集めてなんとか試合を行うしかない…という厳しい状況になるわけです。そして、そうした状況がトップチームの強化につながっていくかというと、疑問符がないわけではありません。

考えられる改善策・打開策

「難しい、厳しい」とばかり言ってても仕方ないので、ジャストアイデアながら改善策・打開策を考えてみたいと思います。パッと浮かんだのは以下の通りです。

・U-23チーム→U-21チームへの移行
・U-21チームにおける選手登録制限の設定
・特別指定選手の活用

ひとつひとつ、サクッと見ていきましょう。

〜 〜 〜

・U-23チーム→U-21チームへの移行
「寄せ集めチーム」という状態を極力小さくするため、そして“トップチームから見たリザーブチーム”としての性格をより強める意図が含まれます。また、「下部組織の年齢上限の引き上げ」という主目的との整合性を図るためでもあります。

・U-21チームにおける選手登録制限の設定
U-21選手に関しては、トップチームの練習への参加は認めるものの、J1・J2・J3の各リーグ戦やJリーグカップなど公式戦への出場は原則として認めないこととします。伴って、U-18選手はU-21チームへの帯同(練習参加、公式戦でのメンバー入り)は一定以下の人数において認めるものの、トップチームへの帯同は認めないこととします。
また、Jリーグにおける現行の選手契約形態にはA契約・B契約・C契約がありますが、A契約選手に関してはU-21チームへの関与を制限(例:帯同期間は原則として年間○○ヶ月まで、U-21チーム公式戦出場は△△試合まで etc.)してはどうだろうか…という案です。

・特別指定選手の活用
前項と若干重なりますが、特別指定選手の継続的なチーム参加を促進することも含め、長期間の登録を認める代わりに、所属する大学のサッカー部よりもU-21チームへの帯同を優先させるような条項を盛り込んではどうか…というものです。

〜 〜 〜

U-18チームから昇格させるU-21選手はトップレベルでもプレーできる見込みがある選手に限られ、そうした選手をトップチームの公式戦に出場させるためにはプロ契約を結ぶ必要があるような仕組みにします。

とはいえ、それだけでは試合を行うための人数が確保しづらくなりそうなので、U-18チームにもトップチームに対してもできるだけ負担を減らしつつ、あくまでもU-21選手を中心としたチーム編成になるようなレギュレーションを設けます。

「特別指定選手の活用」項については、現状確立されつつある「ユース→大学サッカー→トップチーム」という流れを意識しつつ盛り込んでみました。「社会に出るための素養を身に着けながらプロを目指す」という選択肢に対して今以上に真剣に向き合うためのアプローチになれば…と思いますが、この案を実現させるためには各大学チームとの協力が必要になってきますし、大学スポーツも「日本版NCAA」創設に向けて動き出しているようなので、どのような連携を図るかが大きなポイントとなってくるでしょう。

おわりに:なにより“一貫性”が問われるU-21チーム導入

以上、筆者の思いつきをポンポンと並べただけに過ぎませんが、これだけのことを実現しようとすると、クラブには経営的な体力のほかに“クラブとしての一貫性”も求められます。

U-18チームからU-21チームに引き上げられる選手はトップチームのサッカーに順応できるような選手が選ばれていくことになるでしょうし、U-21チームで行われるサッカーも自然とトップチームを意識したものとなっていくと思います。つまり、下部組織とトップチームの間に本来あるべき関係性が更に具現化されていくのではないか…と思うわけです。

もっとも、下部組織の年齢上限を21歳に引き上げることが現段階で決まったわけではなく、仮に今後決まったとしても筆者のアイディアのような施策が取り入れられるかどうかは全く定かではありませんし、むしろもっとブラッシュアップしていく必要性を強く感じています。しかし、これから行われていくであろう議論がより活発になれば…と思い、ラフな状態のままで書き出してみました。

日本における現行の制度もそれはそれで利点があるので、良い点とそのエッセンスをよく吟味しながら、そしてプレミアリーグ2に見られるような海外の事例も考慮しながら、日本サッカーの発展に向けてより良い方向に進んでいけばいいなぁと思う次第です。

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