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美しい花を美しく育てる

早いもので、信州の土地に住み始めて、ちょうど1年。
2021年は、住み慣れた東京を離れ、花農家としての準備に充てた年でした。

松本に移住したのは、具体的な展望があったわけではありません。なので、住み始めてからの数か月は、築50年の古アパートに仮住まいし、知り合いの農家さんのお手伝いを不定期にしつつ、散歩をしたり、本を読んだり、映画を観たりの日々を過ごしていました。
29歳で会社を興してからは、ほぼ毎日朝から晩まで仕事しかしていなかったので、そんな暮らしは何もかもが新鮮で、最初はそれなりに楽しんでいました。ですが、通帳(現実)と向き合うと、不安は募ります。

人生が急転したのは、桜が咲き始めた4月初旬のことです。

満開の桜とヤドリギ

ご縁から、青木村(松本市に隣接している村。松本から車で1時間くらい)にある「フラワーファーム沓掛」の沓掛さんをご紹介いただいたのです。

いざお会いすると、とても温かい人柄に惹かれ、そして何より圧倒的な植物の知識量に感銘を受けました。即日、弟子入りさせていただくことに。花農家になる具体像が思い描けるようになったのはこの頃です。

その後も、幸運に幸運が重なり、秋には安曇野で自分の畑を手に入れることができました。畑を「YARI FLOWER FARM(ヤリフラワーファーム)」と名付け、2021年11月4日に開業届を出し、花農家としての人生が始まりました(名称の由来はウェブサイトに書いたので良かったら読んでください)。

ゼロからの花作り。田んぼだった土地を花畑に変えていきます

ヤリフラワーファームは温室ハウスを持たない露地栽培が基本のため、10月下旬〜11月初旬の初霜から翌年の雪解けまではオフシーズンです。その間の畑はただの雪原で真っ新な状態になります。それにも関わらず、「ファームメンバー」というサービスをあえて11月から始めることにしました。それは花農家、もっと言うと農業という職業の既成概念への挑戦でもあります。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、「ファームメンバー」とは何なのか。ぼくの頭の整理も兼ねつつ、その経緯から書いてみます。


美しい花を、美しく育てる

ぼくが何か新しいことに取り組む時は、いつも何かしらの「夢」を思い描いた時です。
夢というほど大袈裟なものではないにしても、「こうあって欲しいな」とか、「こういう世界は素敵だな」という理想像が思い浮かぶと、それを実現したくなり、気が付いたら動き出しています。ファームメンバーを始めた時も、同じでした。

昨年の秋、安曇野で1ヘクタールの土地を手に入れたぼくは、どういう花農家になろう、どんな花を作ろうと改めて考えてみました。すると、「美しい花を、美しく育てたい」という想いが体の奥から溢れ出てきたのです。

花屋時代に出逢った、思わず息を呑んでしまうような花たちを、安曇野の大自然でのびのびと育てたい。
花屋として日々花と向き合いながら、そして、数々の農園を巡るなかで募らせていたこの想いが、実現できるチャンスだと気付いた瞬間、頭の中で一気に具体的な絵が広がりました。

燦々と太陽が降り注ぐ畑を風が心地よく吹き抜け、時には、雨が大地を湿らせる。それらを謳歌しながら思い思いに咲く花たち。日の出より早く目覚めたぼくは、自然の恵みに感謝をし、花を摘み取り始めます。

想像するだけで幸せな気持ちになれる農園を実際に創れたらと思うと、居てもたっても居られず、今のぼくにとっては広大過ぎる土地ですが、構わず動き始めました。

花を育てる過程の価値を届ける

さて、理想はあるものの、どうすれば実現できるのか。

ぼくの思い描く花作りは、育てる「過程」に重きを置いていて、日々の研究に基づいた試行錯誤や、地球環境に配慮した農法への挑戦など全て含めての成果物だと考えています。

ですが、日々の努力やこだわりも、最終的に手に取った人に目に見えて分かる価値として届けられなければ、無かったも同然。摘み取った花を差し出すだけでは思い描く価値が十分に伝わらないのです。

種から花になるまで全てを伝えたい

だからぼくは、花を育てる「過程」自体に価値付け(サービス化)しようと思いました。お花を手に取った方により豊かな気持ちになってもらえると同時に、ぼくの努力も報われる。もっと言うと、ぼくの経験が、例えばこれから花作りに挑戦しようとしている人を通して、さらに発展していくかもしれない。そう考え始めた途端に、「農業」のイメージが、希望に満ち始め、人生をかける価値を感じました。

フラットな関係で、一緒に創る

花を育てる過程に価値を付けることは決めたとしても、具体的にどのような形にしよう。
あれこれ考えた結果、「コミュニティ」という手段をとることにしました。

育て上げた花を「結果」として、一方的にお届けするのではなく、ぼくの夢に共感してくれる方を募り、カスタマー(顧客)ではなく、メンバー(仲間)という限りなくフラットな関係性で、成功も失敗も含めた「過程」を共有して、一緒に花作りしていくのです。

サービス名は「ファームメンバー」にし、価格は毎月5,500円。花のサブスクリプション(定期購入)としては、かなり高額な部類ですが、理想を実現するためには必要な価格ですし、相応の価値があると思っています。

「ファームメンバー」の特徴は大きく3つで、①YARIの花が届く、②花作りの裏側を知れる、③花作りに参加できる、になります(サービスに興味を持ていただいた方はウェブサイト見てもらえると嬉しいです)。

今日まで2か月ほど運営していての所感は、純度の高い情報を生でお届けすることに対して、想像していたより反響があり、花作りへの大きな可能性を感じています。

ある日は「植えてみたい花の球根を取り寄せてみました」と畑づくりの進捗を共有する。すると、「こんな花も育てて欲しい」など、メンバーから続々とご意見が。

通常であれば誰にも知られず、一人で悩み込んでしまう作付計画も、全てが価値を持ち始めたのです。

過程を知り、関わることで、実際に手元に届いた花に、より一層価値を感じ、愛着を持ってもらえていることを日々実感しています。

「ファームメンバー」は昨年11月に開始し、1か月でメンバー数は50名を超え、現在も順調に伸び続けています。解約される方は実質的にまだ誰もおらず、現時点では期待値に応えられているようです(慢心せず、日々改善に努めています)。

多くの方の温かいご支援のお陰で順調な滑り出しとなりましたが、ここで忘れてはいけないのが、全ては「美しい花を、美しく育てる」ため

賛同してくださる現メンバーを何より大切にしながら、焦らずゆっくりと理想の花作りに向き合いたいと思っています。

ファームメンバーは毎月1日〜25日にお申し込み可能です(26日〜月末ははシステム管理上、お申し込みいただけません)。興味のある方は一緒に未来の花づくりを考えましょう。


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