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Goodチームとは?

バスケチームの運営方針はさまざまである。スポーツなので「勝ち負け」に対する考え方があるだろう。また、集団スポーツなので「人との関わり合い」に関する価値観もあるし、身体を使うので「健康」に関する方針もあるかもしれない。「学びとか成長」という側面の意味づけの違いもあるだろう。
勝利至上主義というチームもあれば、仲良く楽しくという雰囲気を重視するチームもあるだろう。健康増進のためにやっているチームもあって良いし、スキル向上のバスケ教室のチームもあるだろう。大学のサークルなどは、自分たちでチームを運営しているので「どういうチームにするのか?」は議論になりがちなテーマだと思う。
もちろん、どれが正解というのではない。それぞれの考え方・価値観・方針・意味付けは多様であって良いし、単純に白黒で二極化する話ではない。両方混ぜたグレーである場合が多いだろうし、そうなると、濃淡というかブレンド比率という話な気がする。
チームそれぞれなので、自分にあったチームを選んでいけば良いし、辞めていくのも良い。チームに入っている人はチームの構成員として、チームの方針や考え方に合わせていくのが重要だ。もちろん、構成員の変化や時代変化によって考え方を変えていく必要もあるかもしれない。

企業が掲げる経営理念

ビジネスに話を変えると、企業は、会社の方針や価値観を明示するために「経営理念」とか「企業理念」を設定することが多い。最近では「パーパス」という言葉を使われることが多い。パーパスとは日本語で「目的」であり、企業の存在意義と定義される。企業は収益を得るために存在するのだが、それは価値提供の対価であって、どういう価値を提供することで社会に貢献するのか?という目的を明確にしておくのが、パーパス経営と呼ばれる。
同じような意味で「ビジョン、ミッション、バリュー」という整理で経営理念を表すことある。ビジョンとは「実現したい世界観」であり、ミッションとは、そのビジョンを実現するための「社会に対する使命や役割」を意味し、バリューとは、それを実行するための「行動指針」と言われる。
具体的にイメージするために、リクルートのビジョン・ミッション・バリューを示す。言葉に込められた詳細な思いなどは出典先に開示されているので確認して欲しい。

ビジョン [ 目指す世界観 ] 
 Follow Your Heart
ミッション [ 果たす役割 ] 
 1) まだ、ここにない、出会い。
 2) より速く、シンプルに、もっと近くに。
バリューズ [ 大切にする価値観 ]
 ①新しい価値の創造 / Wow the World
 ②個の尊重 / Bet on Passion
 ③社会への貢献 / Prioritize Social Value

https://recruit-holdings.com/ja/about/vision-mission-values/

理念を明らかにするメリット

経営理念、パーパス、ビジョン・ミッション・バリューを明確にしておくといくつかのメリットがある。企業が目指している方向性が分かりやすくなる。多角化したり事業撤退したりなどの企業が変化する時の経営の意思決定の指針になるし、従業員の日々の行動の判断基準になる。ブランドイメージも具体化され、求職者に企業を理解してもらえるメリットもある。長く続く企業では、経営者が変わっても企業文化を継承する役割があるなどのメリットがあると言われる。

企業のキャッチコピー

各企業の経営理念まで詳しく知っている人は少ないだろう。しかし、企業CMのキャッチコピーを覚えている人は結構いるのではと思う。CMは広告であり、広く知って欲しい認知して欲しいという背景があるので、企業のキャッチコピーは、その企業の想いを表現している。リクルートでは、ミッションの「まだ、ここにない、出会い。」をCMの最後に挿入している。
有名なキャッチコピーでは、マクドナルド社の「i’m lovin’ it」。ロッテ社の「お口の恋人」、ファミリーマート社の「あなたと、コンビに、ファミリーマート」、ローソン社の「マチの”ほっ”とステーション」、コスモ石油社の「ココロも満タンに」、JT社の「ひとの 時を、想う。」、本田技研工業社の「The Power of Dreams」、ツムラ社の「自然と健康を科学する」、サントリー社の「水と生きる」など印象的だ。
どれも、その会社が大事にしていること、社会への使命、提供したい価値を表している。働かれている方の行動指針にもなっているのでは?と想像できる。

バスケチームの経営理念

企業は、それぞれの事業領域で、さまざまな価値提供をし、それを変化させながら経営をしている。しかし、バスケットボールで、大切にする考え方・理念・方針・価値観について定義したり、議論したりしているチームは少ないのではないか。バスケットボールのチームでは、企業ほどの多様性はないが、どんなことを大切するチームなのか?は明示しておくのは有効かもしれない。企業と同じように、目指す方向性が分かりやすくなると、選手だけでなくコーチや保護者も含めた関係者の日々の行動の判断基準になるし、入部を希望している人にもチームの特色が分かりやすくなる。

バスケの試合では、大団幕を掲げるチームが多い。「一致団結」「諦めるな!」「全力で」「挑戦」「走れ!」が大きく書かれている。プレーしている選手たちを鼓舞する目的で作られた旗だと思うので、チームの経営理念という意識をして作られたチームは多くないと思う。しかし、チームの団幕なので、他チームからみるとそのチームの特徴を表現している。また、選手達も、書かれている言葉を覚えているだろうから、チームの行動指針・プレー方針としての役割もあるのではと思う。

夢中になれ

私の所属するミニバスのチームは「夢中になれ!」というスローガンを大団幕に記している。僕は、この創部時に創られたスローガンが気に入っている。勝ち負けに関わる言葉でもなく、気合いの言葉でもなく、プレーに関わる言葉でもなく、なんならバスケにすら限定されていない。抽象度が高いが、本質を押さえている言葉だと思う。汎用的なので、プレーが上手な子もそうでない子も、始めたばかりの子にも、それぞれの立場で解釈できる。コーチも保護者にも言える。汎用的で抽象的だと、チームの特徴を示していないので役割を果たしていないような気もするが、他のチームで余り見たことがないので、結果として特徴的だと思っている。スローガンの割には、他チームの視点からは、勝利至上主義に見ているかもしれないが、コーチとしては「夢中になれ!」があり、結果として勝利があるという関係だと思っている。僕が「バスケを教える」のではなく「バスケで教える」と考えていることにもつながっている。

自分達で理念を決める

企業の経営理念は、創業者や偉い人が決めていることが多いだろう。チームのスローガンも創部時に決められたり、なんなら大団幕を作ろうとなった時に過去の先輩が勢いで決めた言葉かもしれない。
創られてから長じ時間が経つと、理念としての組織への浸透が薄まっていくし、変化する時代背景に合わなくなることある。企業では、一定の期間で経営理念の見直しをする。CMのキャッチコピーは、時代変化に合わせて見直していくことも多いと思う。
リクルートでは全社の経営理念を数十年に1度は見直している。また、会社単位の理念だけではなく、一定の組織単位でビジョン・ミッションを策定して、言語化している。小さな組織単位であるのと、一定期間で見直しているので、自分達で所属する組織の理念を考える機会を持てる。
「もしドラ」と呼ばれる「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎夏海著、新潮社)」でも、主人公のマネジャーが、多くの人に相談しながら野球部の「目的」と「使命」を定義しにいっている。同じようにチームの皆でチームの理念を考えてみるのは有効だと思う。

Goodチーム

日本バスケット協会の公認コーチ養成講座でも「Goodコーチとは何か?」を考えるプログラムがあった。答えのない問題であり、多くの方の話を聞くことで、新しい視点のGoodコーチに気づくことができた。これら、コーチの研修なので「Goodコーチ」なのだが、チームで理念を考える問いとして「Goodチーム」とは何か?をチームで考えることが有効かもしれない。「Goodコーチ」は個人の考えなので自分で決められるが「Goodチーム」は、チームの皆で話をまとめないといけない。それでも、自分たちで決めると考えとして大切にでき、チームとして一丸になれるキッカケになれる。一つにまとめられなかったとして「みんなそう思っていたのね?」「そういう考え方もあるのか?」など、発見があるのは間違えなだろう。

強いチームか? 仲の良いチームか?

私のミニバスのチームで、小学生に向けて「Goodチームは?」という質問をして、付箋紙に書いてもらった。面白いほどに、意見が2つに分かれた。「強いチームが良い」「仲の良いチームのが良い」と。大人だと極端な二元論ではないことは分かっているが、小学生に質問すると、思っていることをストレートに答えてくれるので非常に面白い。
そして、出てきた意見に対してどう思うか?を聞くと、「試合に勝っても仲が悪いと意味なくない?」「スポーツなんだから勝ちを目指すのが当然だよね!」という意見が出てきて、初めて複雑な問題と気づく。そこで、二元論ではなく、以下のような二軸で整理して考えるとどうだろうか?と意見を求める。

  1. 強くて仲の良いチーム

  2. 強いだけのチーム、

  3. 仲が良いが弱いチーム

  4. 強くなくチームも不仲

という質問すると、子供達は純粋なので期待通りに、「1番が良いねー。」「4番は最悪!」などと会話してくれた。

成功循環モデル

「1. 強くて仲の良いチーム」が最高だね。と結論になった後に、子供たちに次の質問をした。強くなるのと、仲良くなるのは、どっちが先か?と。

1. 強くなるのが先
2.仲良くなるのが先

どっち意見も出てくる。理由を聞くと「仲良くなれば、強くなる可能性がある」「強くなっても仲良くなるとは限らない」「仲良くなっても、強くなるとは限らない」などが、繰り広げられる。
行き詰まれば、最初の質問を利用してもう一度聞いてみた。

2. 強いチーム
3. 仲の良いチーム

「どちらが、先にできそう?」と。恐らく、仲の良いチームのになる方ができそうと答えることが多いのでは?と思う。
これは、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム博士が唱えた「成功循環モデル」という有名な組織開発理論に繋がっている。「成功循環モデル」は4つの質とその関係性を示している。仲間との関わり方やコミュニケーションといった「関係の質」が高くなると、自然と考え方も前向きになり、目的意識が高まって「思考の質」が上がる。その思考が主体性や積極性を導き「行動の質」を高める。質の高い行動によって成果が生まれて「結果の質」につながる。これが更に循環するという理論だ。循環するので、1つの質が高まれば他の質がどんどん上がっていく構造にある。そして、スタートポイントは「関係の質」と宣言している。

ダニエル・キムの成功循環モデル

これは循環モデルあること考えると分かりやすい。循環モデルなのので、好循環する時もあれば悪循環をすることがあるのだが、悪循環を断ち切るには、まずは「関係を良くする」ことから始めることが多い。
この理論では、関係の質を5段階に分けていて、1番目の要素の1つとして「挨拶」上げている。どのバスケチームでも、挨拶を重んじているコーチは多いが理論的にも説明されている。そして、スポーツのコーチが試合で結果を出したり、企業のマネジャーが売上を達成したりする、「結果」を出すためにダニエル・キムの「成功循環モデル」を意識することは効果的だと思う。

ジョハリの窓

「関係の質」は5段階に分かれ、の4つ目の段階に「率直さ」が、5つ目の段階に「信頼」という言葉がある。それぞれ「自分の考えや気持ちを率直に伝えられる」、「お互いを信じ、受容しあっている」という状態らしい。これができれば、まさに仲の良いチームと言える。この関係づくりを考えために「ジョハリの窓」を紹介する。

突然だが、私のチームでは、このタイミングで「頭の上もの文字当てゲーム」をやってみる。チームから1名の代表を決め、その人に見えないように文字を書いた紙を頭の上に掲げる。周りの人は文字が見えているので、代表の人が質問をして、書かれた文字を当てるゲームだ。これを数回やった上で「本人には見えないことがある」という説明をする。見えていないことは、誰かが教えてあげないと本人は分からないままである。並行して「秘密が多いチームは良い関係のチームか?」という質問をする。多くは、秘密がない方が良いチームと答えてくれる。これは「ジョハリの窓」という考え方で整理されている。

ジョハリの窓

横軸は「自分が知ってる」「知っていない」、縦軸は「他人が知っている」「知っていない」で分けられる。自分も他人も知っていることが「開放の窓」と呼ばれている。先の文字当てゲームは右上の「盲目の窓」であり、本人が見えていないことになる。「秘密の窓」は本人が周りに隠していることを意味している。
「仲が良い」「関係の質」の高い状態とは、この「開放も窓」が大きく開いていることだと伝えている。チーム内で秘密や隠し事は作らない。コーチの考えも隠さずにオープンに説明していく。また「盲点の窓」は本人では開けられない。周りのチームメイトが勇気をもって指摘してあげる。自分の事を棚に上げてアドバイスしてあげる。そんな関係ができることが重要だ。
仲良しというのを越えた強い関係が、それぞれの思考や意識を高め、積極的な行動・協働を導き、期待以上の結果がでる。それを目指すチームになりたい。

Goodチームを話し合う

結果を出すために厳しい練習をするのもあるし、部署の営業目標を達成するために組織で一丸となることも効果的だ。しかし、チームや集団として行動して結果を出そうとすると、良い関係を作ることは更に重要だ。
最近はリモートワークも多くなり、会社での宴会や旅行はほとんどないだろう。しかし、たまには対面で会ったり、ランチを一緒にしたりすることは関係を作るのに有効である。ミニバスチームだと、一緒にワイワイ遊ぶことも大切だと思う。皆で、花火をしたり、プールに行ったり、人狼をやったりするのも大切。
しかし、仲が良い以上の関係になろうと思うならば、話し合うという行動が非常に重要である。しかも、「どんなチームがGoodなのか?」を考えてみることはチームビルディングにおいて効果的である。実際には、さまざまな意見が出て、話がまとまらず結論に達しないかもしれない。私は、それでも良いと思う。まずは、それぞれの考えを口に出したり、他人の考えに同意できなくても気付けたりできる。
バスケでも会社でも、チームであれば「目標」について議論することはあるかもしれない。しかし「Goodチーム」について考たりすることは多くないだろう。目標は目指すべき高さや到達点なのだが、Goodチームの議論は、目標までを「どう目指したいのか?」という価値観や方針の部分の議論である。
「なぜ自分はこのチームでやるのか?」を理解する上で、「Goodチーム」の議論は重要である。まず、自分の中で考えてみることも重要であり、それらを皆で共有することも大切だ。これはどこでも使えるので、家族で「Goodファミリー」ってなんだろうって考えるのも有意義かもしれない。ぜひ、たまには仲間と話し合うことをオススメする。

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