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時代の雰囲気を感じさせる短詩作品──かばん7月号をきっかけに

今日、8月9日は「かばんの日」だそうです。89(バッグ)の語呂合わせから来ているとか。

かばんと言えば、2023年7月号の歌誌「かばん」には、今年4月に他界された山下一路さんの追悼ページがあります。山下さんは「川柳スープレックス」にも「部活で抱かれる」という川柳作品を書いてくださいました。

部活で抱かれる

追悼ページには私も「山下さんの社会詠」という文章を寄稿し、そこで以下の歌を引用しました。

この星に投身をする少女のように海底へ降りてゆくレジ袋  山下一路

プラスチックごみ、特に海洋プラごみの削減などを理由にレジ袋が有料化されたのは記憶に新しいですよね。上掲歌は有料化の少し前に提出された歌。レジ袋じたいに社会性が張りついていた時期と言っていいでしょう。その意味では時事詠的です。にもかかわらず、「この星に投身をする少女のように」という寓意的表現によって、ジャーナリスティックな感じがあまりしません。そのかわり、一首全体からは、今の「時代の雰囲気」がひしひしと伝わってくるのです。

そう、「時代の雰囲気」という抽象的な領域を表現できるのが「文学の特長」だと思うのです。具体性やデータを重視するジャーナリズム(社会科学)では、どうしてもそこが掬い切れない。

ちなみに、「文学の特長」ということは、詩文芸にかぎらず小説にも同じことが言えます。ここでは詳しく述べませんが、太宰治の『トカトントン』などはその好例でしょう。

最後に、川柳からも、「時代の雰囲気」が強く感じられた作品を挙げたいと思います。作者がそのつもりだったかは知りません。それぞれ『転校生は蟻まみれ』(編集工房ノア・2016年)、『スロー・リバー』(あざみエージェント・2016年)より。

明るさは退却戦のせいだろう  小池正博
世界からサランラップが剝がせない  川合大祐