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短いお話

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短い、小説になりきらないものを、載せていきたいと思ってます。
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記事一覧

『花の娘の園』(短いお話)

 私が越してきた地域には、不思議な土地が存在する。 その土地は私の暮らすアパートのすぐ隣…

とし総子
2日前
9

【そのちゃんはびっくりしてしまう】(絵本にしたいなぁと思っている短いお話)

                              そのちゃんは、ちょっとびっく…

とし総子
1か月前
10

「茫洋」(私小説?)

 心療内科の待合の時間、私は茫洋となる。これが果たして暗喩としてなのか自信もなくなるほど…

とし総子
2か月前
9

「素敵な姉さま」(ちいさなお話)

 私には素敵な姉が居ます。姉は黒と赤のドレスを持っていました。たくさんのリボンが波のよう…

とし総子
2か月前
14

【天使の一生】(みじかいお話)

 天使の作り方は、まず、つるりとした人型の入れ物の、頭の丸みから動きを吹き込みます。それ…

とし総子
3か月前
5

「あたらしい朝に」(ちいさなお話)

 おばあちゃんは、毎日何かを書いていた。それはどこにでもあるような薄い青色のノートで、い…

とし総子
4か月前
57

「いつか君が恋をして」(ちいさなお話)

 君が好きになったものは、全部覚えているんだ。 それは菫色の雲の棚引く時間。君が好きになった背の高い男の子は、眼鏡が似合っていて、焦げ茶色のベストをよく着ていた。あの公園のベンチは座る部分が木製で、雨が降るたびに弱くなっていくような時期があった。そんなベンチに座って、男の子は文庫本を広げていた。革のブックカバーは使い込まれていて、小さな金色のアルファベットが二つ、くっつけられていた。傾いた日がその金色に触れると、まるで音楽のような瞬きを生んだこと。君は、それを遠くから見つめ

『木になる』(小さなお話)

 朝起きると、まず私は歯を磨く。きれいに磨いた歯を鏡で確認し、顔を洗う。保湿液を塗り込み…

とし総子
6か月前
9

【揺れていたもの】(短いお話)

 あの木の陰に揺れていたものが、目の中で僕に顔を知らせようとしていた。それを必死で拒絶し…

とし総子
6か月前
7

【星が瞬く遠く】(ちいさなお話)

 ねえ君、今もお利巧にしているでしょうか。私のことは、もうそれほど覚えていないかもしれま…

とし総子
8か月前
9

「変化する目をもつ少年の話 ながい終わりまで」

この続きです。 父さんは、おれの手をとった。 よく冷えていた缶の冷たさが、父さんの体温の…

とし総子
8か月前
8

「変化する目をもつ少年の話  暗い夜中と明るい階段のこと」

このお話の続きです。 目の前が真っ暗だ、と思って、それはそうだと切り返す。 今は夜中で、…

とし総子
8か月前
7

「変化する目をもつ少年の話 あの日の夢のはじめのこと」

このお話の続きです。 いづるが帰ってしまってから、 おれは食卓に着いていた。 父さんが用意…

とし総子
8か月前
5

「変化する目をもつ少年の話 雪の次の日のこと」

この続きです。 母親が溶けた。 その様子を思い出そうとすると、目が疼くような、痛むような、何かのきっかけで自分の眼玉をほじくり出してしまいそうな恐ろしさが湧いてくる。 母親は、きれいな液体になった。 溶けるようすは一瞬で、少しも苦しそうではなかった。 どこかほっとしたような、安堵したような様子でさえあった。 どこまでも母親の顔のまま、その白い身体は溶けた。 おそらく同じ分量になるのだろう液体は透明で、少しだけとろりとした重さがあったことを、鮮明に覚えていた。 今、おれは父