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一時のでも、永遠でも、さよならは同じかもしれない

映画『エゴイスト』のネタバレが含まれます。
観ようと思われている方はご注意下さい!



『エゴイスト』を観てきた。
観ながら、
吐くかもしれないと思っていたら、
隣の隣のひとは途中で席を立ってから戻ってこなかった。
同じ理由ではないかもしれないけれど。

主人公の浩輔は、ゲイで、田舎を出て、出版業界で働きながら服をお守りのように(彼自身は武装だというけれど、まるでつよく握りしめていないとどうにかなりそうな切実さが滲む。そんなの武装じゃなくてお守りじゃないか、と思った。)着飾って母親の命日には必ず実家へと帰る。

そんな彼が恋に落ちたのは、
個人トレーナーをしている青年、龍太だった。
彼と話をしながら、距離をつめていくのだけれど、
恋に落ちたのは本当に一瞬だったな、と感じた。

濃厚に、
容赦なく、
ふたりの関係が描かれる。

龍太は、
家族の解体があって、
母親の病気が発覚し、
高校を中退していた。
けれど、今、きちんとトレーナーの勉強をしてみたいとお金を溜めているのだという。
母親を養ってもいて、それは“いつかそうできたらいいな”というような夢なのだと。

幾度も体を重ね、幸せな時間を過ごしたあと、
龍太は唐突に浩輔に別れを告げる。
それは、
龍太の仕事に繋がる問題だった。
彼は、体を売ってお金を稼いできたのだ。
今まではそれでもいいと思っていた。
でも、浩輔と出会って、そういられなくなってしまったという。
だからもう会わない、と。
一度は吞み込もうとした浩輔だったけれど、
どうしても手放すことが出来ず、
客として彼に会う。
そして龍太に
「毎月、10万俺が出す」
「だから、残りは頑張って働いて稼ごう」
「この提案が受け入れられないなら、
今度こそ諦める」
そう言って。

浩輔も泣いていたけれど、
彼の言葉を聞いている間の、
どうしたらいいのか分からないという顔で感情が迷子になっていく龍太を追いかけるように、私も泣いていた。

世界は、自分のことなんて、自分の不幸になんて、そして自分の夢になんて、全く興味がない。
だからあっさりと諦めてきたのだと思う。
それが、こんな具体案を提示して、
それもきっと相手にとっても楽なことではない金額を提示して、
いっしょに頑張ろう、と言ってくれたことに、
断るべきだと思っていても、どうしていいか分からないくらい嬉しかったのだと思う。

私は、ふたつのバイトのを掛け持ちし、朝も夜もない状況で、
その上兄弟や母親に搾取されているとき、
ネットで出会ったNさんが送ってくれた五万円に物凄く助けられた。
それは、「もう無理」となったら夜行バスでもなんでも使って逃げておいで、と言って渡してくれたお金だった。
けして使うまい、と思いながら、
たしかに私を想ってくれている人との繋がりを、何度もにぎりしめていた。

浩輔と龍太は再び一緒にいることを決め、
龍太は昼と夜に仕事を掛け持ちすることになった。
お互いをいつも思いやり、
大切にし、
想いを伝える触れ方をして。
そんなある日、別れは再び寝耳に水にもほどがある唐突さで突きつけられる。

この時の、
龍太のお葬式で体がうまく動かせない浩輔の感覚が、
あまりにリアルに自分の中に蘇ってきて、
臓器のいくつかが捻じれているのかと思った。

大切なひとを失って、
泣き叫ぶのは、
けっこう体力が必要だよね、と思い出す。
もうここで足を止めたら、
二度と動き出せない。
そんな予感が常に頭の後ろで囁くから、
ちっとも止まれなくて、
身体が無理に壊れて止めてくれていた。

浩輔は、龍太の母親のことを気に掛け、
彼らはお互いに気にかけあうことでなんとか喪失を抱えて歩こうとする。
けれど、
そんな二人のもとに届く、次の山への招待状。


この映画は、よくご飯を食べている。
居酒屋で、
恋人と飲む淹れ立てのコーヒー、
恋人の母親と三人で囲む家庭料理、
実家に帰ったときの父との食卓、
そして、
ひとりで食べるいつかに恋人とともに囲んだ食事。
美味しそうで、切実で、食べなくてはいけないと理解して食べている。
大丈夫になるために、食べている。
これ以上、失くさない様に、食べている。
そんな光景だった。

涙がいくつもの波をもってこみ上げては、穏やかになりをくり返しながら、
映画の間中、けっこうな時間静かに泣き続けていた。

どんな映画だったのか、気持ちが散らかって、
ちっとも言葉にできないのだけれど、
どうしてもそのままを書いておきたくて書きました。


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