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会社を辞めた僕が、新宿二丁目で働く理由

 数々の名作や迷作を産み落としたWebマガジン『アデイonline』ですが、惜しくも休刊となりました。断続的に掲載されていた僕の雑文についても、ようやっと、こちらnoteに引っ越しまして、継続することにいたしました。

 改めまして、新宿二丁目のバー『A Day In The Life』の水曜日を担当しております「あっきー★」と申します。

 平日のど真ん中に居座りまして、早くも2年半以上が経ちます。閑古鳥とは、いったいどう鳴くのでしょうか? 客足が遠のくこの季節、心に染みて感じるくらいには経験を積みました。「カァ〜カァ〜~」などではないです。ただ、ひたすらの静寂。もう、悲しいほど無音。脳内の不安が店中に引き伸ばされたような気配の中で、たまに製氷機がゴトッと鳴って、こっちはビクッと背筋も凍ります。

 なぜ、二丁目のゲイバーで働いているんですか? よく聞かれる質問ですが、店に入った当初の返答はこんな感じでした。

「出版社時代って、いろいろな作家に会ってたじゃないですかぁ。僕が好きな作家って、一様にどっかおかしいというかぁ、一般社会にそぐわない面を持っているいうかぁ。だからこそ、みんな凄い作品が書けるんだと思うんですけどぉ。新宿二丁目も同じで、カウンターにいて人とお話すると、『わーっ!』て興奮するですよ。自分の興味が満たされて、どこか安心するんです。きっと、僕の頭の中の『ヘンな人図鑑』が更新されるんですよね……」

 なんてひどい! そんざい極まりない言い草でした。初めてお会いするお客様に対しても、「あなた、ヘンな人図鑑の1ページですよぉ!」と言わんばかりの対応でした。翻って、自分はどうなのでしょう? 一度は会社員として勤務しましたが、腰を据えることができずに退職。今は持ち前の面倒くささを発揮して、ほぼほぼニートのような生活。「先行き不安」というバッジを胸に光らせて、ただ社会から遠のくように存在しております。一流の「ヘンな人」を見てきた身においては、「ヘンな人図鑑」の風上にも置けない体たらくだったのでした。ごめんなさい。

 でもこうやって、普段は交われないような属性の方と自由にお話できるのは、バーという環境があるからです。そこには、前提に相手に対する敬意がありまして、その場に適した振る舞いと会話ができる粋な方々が集うからです。さらには、この場が成立しているのは、アデイの店主である伏見憲明さんの長い試行錯誤によることは、言うまでもありません。

 19時から朝まで営業すると、頭の中は処理しきれない情報で飽和状態です。牛が胃の内容物を反芻して咀嚼するように、二丁目で得た刺激を頭になじませるべく、他の曜日を過ごすことになります。心穏やかならぬこともままありまして、費やすエネルギーは計り知れないと思います。サラリーマンという身分と比較すると、肉体的にも精神的にもハードだとも思います。週1でこれですから、毎日のように店に立つ方の技量と許容量は、かつての上司のごとく尊敬します。

 しかししかし、ひとつ確実なことがあります。それは今の方がずっと、心の芯を刺すような、濃厚な時間を過ごしていることです。ある作家が、「読書は心のメシ」と書いていました。リアルの場である新宿二丁目では、百科事典をも軽く超えるほど、大量のメシが食えちゃいます。「食べて飲んで、ブクブク太ってしまえ!」と思います。40歳を超えて、こんな儲けものが得られるとは、ベリーラッキーでした。

 ということで、これからも僕は「人間味あふれる人図鑑」の編集者となるべく、noteなども活用できればいいですね。さらには、自らその1ページに載れるよう精進しつつ、毎週水曜日の19時より、アデイにてお待ちしております。

 よければ一緒に、飲みましょう!

A Day In The Life

東京都新宿区2-13-16 藤井ビル203

070-3352-2764

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