思い出のキャナル

なんだか突然キャナルに行きたいと思って、というかそもそもキャナルという単語をすごく久しぶりに思い出して、キャナル、キャナル、としばらく舌でころころ味わってしまった。

キャナルを初めて知ったのは映画の中だった。
「偶然にも最悪な少年」というその映画の中で、市原隼人演じる少しイカれた在日韓国人の主人公は、自殺した姉を、生きていた時は一度もその地を踏めなかった先祖の国へ連れて行ってあげようと、車で日本の西半分を横断して行く。

すったもんだの道中のすえ、いよいよ韓国を目の前にし、胸膨らませて休憩したのが、福岡はキャナルシティーだった。

福岡へまだ行ったことがなかった私には、そこはすでに大陸の雰囲気が漂っているように映り、隣国はもうすぐそこだという予感に満ちているように感じた。

その何年後か実際にキャナルを訪れた際にはなかなか感慨深く、そしてやっぱり大陸の匂いがするなあと確認した。

そんな話をある日クラブで出会った男の子にしていたところ、

その映画見たかったんよね、
ほんと?私も久しぶりに見たくなったな
TSUTAYAいって借りる?
いいね

となって、ふらふら国体道路のTSUTAYAに行って、屋根裏部屋みたいで気に入っていた当時の私の家のソファーにて、体育座りで半分寝ながらDVDを眺め、ロフトにのぼってセックスして、
次の日昼すぎに起きて、テレビでドラマの再放送を見ながら昨日の残りのたけのこの里を齧り、

このドラマ、キャストはいいのに見終わった後話の内容がちっとも残らないんだよね

と言って私はシャワーを浴びに行き、
出てくると、ドラマが終わっていたらしく、

ほんとにちっとも残らんやった

と彼が言った。

と以上ここまで、ころころしている内にぽろぽろ思い出した。

忘れていた言葉を思い出したら、忘れていたあの日も一緒に、ひょっこり顔をだしたようだ。

#エッセイ #コラム #暮らし #小説

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