本当にくだらない一日だった

　一日というのは二十四時間しかない。誰がいつどのタイミングでそう定めたのかは分からないし、仮に知ったところで今更咎めようはない。そもそも、一日という概念は日の出から翌日の日の出までを現すものであって、それを単に二十四分割したに過ぎない。ともすれば、この一日の長さを決めた最初の存在は神ということになるだろう。
　さて、小生は傲慢の罪を背負って生きると心に決めているから、今この場で地球の一日を定めてしまった神という存在に対してクドクド愚痴を零すことだってできただろうが、それはあまりにも生産性のない行為であるから、今日のところはここで勘弁してやることにした。
　神もきっと今頃、小生の小言を聞かされなくて済んだと安堵の笑みを浮かべていることだろう。
　さて、今日という一日を思い返してみれば、何ともまぁ、つまらない一日だった。もし仮に小生の丸一日を監視カメラで覗いているもの好きなストーカーが居たのならば、その退屈さに転寝どころか本気で夢の中へ落ちてしまっていることだろう。
　というのも、小生は本日三月二日土曜日、ついに一度も部屋から出ることなく過ごしてしまったのである。
　原因はハッキリしている。昨晩の夜更かしゲームだ。金曜の夜だと息まいて、朝日が昇るその瞬間まで延々とゲームをしていたのだ。それもこれも、つい最近ハマってしまったLeague of Legendsというゲームのせいだ。通称LOLとも呼ばれている、５対５のマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ。こいつが原因で、すっかり寝ることを忘れ延々と遊び惚けてしまったわけである。
　さて、このゲームの何が難しいか。それは立ち回りである。立ち回りというものは人生において最も大切な技術であると言えるだろう。学校、職場、社会、近隣付き合い、恋人、家族、ありとあらゆる場面において、完璧な立ち回りが要求される。些細な失敗が命取りとなり、下手すれば地獄を見るだろう。
　さて、このゲーム。全員がレベル１の状態でスタートするのだ。ともあれば、全員ぶつかり合ったところで大差ない。赤ちゃん同士のよちよち相撲だ。誰が勝とうがその辺は運任せなところとも言える。
　いいや、それがそもそも認識の過ちであった。というのもこのゲーム、なんと初手の立ち回りこそが大事なのである。誰よりもうまくお金を稼ぎ、そして誰よりもうまく経験値を稼ぎ、いち早く上等な装備を整え、いち早く上位のレベルにのさばり、いち早く誰よりも多く敵を倒す。つまるところ、人生における競争と全くそっくりなゲームなのである。
　そんなゲームにのめり込んでしまった小生は、それはもう最悪な一日を過ごす下準備はばっちりであった。誰よりも上を目指したいと画面に向かってひぃひぃ息を切らそうものなら、その分だけ時間が通り過ぎていく。刻一刻と朝が近づいてきて、窓の外ではついぞカラスが早朝出勤を始めたではないか。
　カァカァという声を聞いて朝を確信した小生は、ゲーム画面をそっと閉じて、そのまま眠りについた。そして目が覚めたのは夜の七時。そう。丸一日を無駄にしたというわけである。これほどまでに絶望的な休日の過ごし方をしたのは初めてだ。
　と言いたいところだが、ここ数日間の小生は似たようなことの繰り返しである。もう昼夜逆転が染みついてしまった。このままではヴァンパイアにも似た生活だ。きっと近い内に血相が悪くなり、鏡にも映らなくなってしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。
　とまぁ、今日一日のことをつらつらと否定的に並べた小生ではあるが、そんな小生にも一つ、どうしても大切な日課があるのだ。それは、小生の人生を華やかにし、幸せにするのに必要なこと。すなわち、『小さな幸せを一つ見つけること』である。

小さな幸せを一つ見つけよう

　人生というものは山あり谷ありだと、古来より多くの人が口にしてきた。それもそうだろう。この世界が平たんなもので満ち溢れていたら、きっとつまらないはずだ。マインクラフトというゲームがある。基本的にはPC上で行う積み木のようなゲームだ。フラットモードみたいな名前のゲームモードにおいて、プレイヤーは延々と広がる更地に好きなブロックを積んでいろいろな建造物を作ることができる。
　もちろんそれも面白いだろう。中にはディズニーランドを完全再現したものもお見受けしたことだってある。しかし、それはあくまで創造という分野で楽しいのだ。もし仮に、真っ裸でチートも使えぬ状況で、何もない更地にぽんと投げ出されてしまったらどうだろう。しかもサバイバルモードだ。クリエイティブモードに切り替えることも許されない。プレイヤーに求められるのは、ただ永遠と緑の更地を歩くことだけ。それほどつまらないゲームは無いだろう。だからこそ、あのゲームにはサバイバルモードがしっかり備わっている。自動生成された山や海を探検し、様々なMOBやブロックをかき集めていく。その中で新しいものを建造し、友達に自分自身の成果を自慢することだってできる。つまり、山あり谷ありという言葉は、人生を楽しく彩るのに最も必要な表現ともいえるだろう。
　さて、そんな山や谷には、地形に見合った動植物が咲き乱れることだろう。花の蜜を吸いに訪れる小さな昆虫、それらを狙う小鳥たち、大きな獣が時折徘徊し、もし目を合わせばどんなことになるやら想像すらつかない。人生はそれほど様々なカオスに満ち溢れているのだ。しかし、それを恐怖したり、卑下したりでは楽しくない。
　そこで小生は人生において一つルールを決めているのだ。それは、必ず一日の終わりに、小さな幸せを一つ見つけようということである。
　さて、本日の小さな幸せ。それは今日の朝食だろうか。
　小生の趣味の一つにカレー作りがある。スパイスから時間をかけてカレーを作り、それを楽しむのが好きなのだ。なんと小生、昨晩カレーをこしらえており、今日まで冷蔵庫で休ませていたわけだ。
　さて先ほども述べたように、朝まで延々とゲームをしてきた小生ではあるが、さすがに寝る直前にもなれば空腹で腹がグゥグゥとうるさくてかなわなかった。ということで、冷蔵庫の中で眠っていたカレーを取り出し温めて食べたわけだ。
　それがもう、何とも言えぬほどの絶品。これまで作ってきたカレーの中でも一番おいしいと言っていいかもしれない。それほどおいしく仕上がっており、小生は満足感に満たされたまま夜までぐっすり眠れたというわけだ。
　うん、やはり人生を豊かにするのは食であると言えよう。美味しい食事にこそ、幸せが詰まっている。
　明日は何を食べようか。
　さて、ここまで読んでくれた諸君は、今日一日何か幸せな出来事、あったかな？