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読書記録#7 『神様のカルテ』

文学作品ですが、医療業界を知るということでビジネス基礎として読んだ、現役医師の夏川草介さんの『神様のカルテ』(2024/01/27読了 ビジネス基礎)

医療従事者の地域偏在が顕著となる昨今、地域医療の最前線で過酷労働に耐えながらも、患者に寄り添う医師の心理描写がとても丁寧で、且つ温かい。描かれている現実は、過酷労働に耐える医療現場と最期を迎える患者と、どちらかというと目を背けたくなる内容だが、出てくる登場人物がみんな温かいので、ふとしたときにうるっとしてしまう。通勤電車では読んではいけない。

勝手なイメージで、第10回小学館文庫小説賞受賞作品であり、万人受けしそうな装画が施されているので、現実離れしたスーパードクターが大活躍するライトノベルみたいな感じかなと、敬遠してしまっていた。そんな過去の私を殴り飛ばしたい。なんでもっと早く読んでくれなかったの!もう続編はもちろんのこと、夏川草介さんの他の作品も読み漁る所存だ。

子どもが医師や看護師をはじめとする医療従事者になりたいと言われたら、まずは本書を勧めたい。医療従事者のやりがいと現実としっかり向き合いつつ、他人とどう関わるべきかを考える助けとなるだろう。素晴らしい作品は答えではなく、人生が豊かになるような疑問を提示してくれる。いかん、気持ち悪いくらい熱く語りすぎた。

今の私に響いた言葉のメモ

そして回り続けて、自分がどっちを向いているのかわからなくなっているのが、今の世間というものだ。こういう時、自分だけ回るのをやめると世人からは変人扱いされる。別に変人扱いされたところで私はなんら痛痒を感じないが、細君には迷惑をかけたくのいので、とりあえず一緒に回ることにしている。きっと世のほとんどの人間がそうやってぐるぐるぐるぐるやっている。いろんな不満や不安をかかえながら、ぐるぐるぐるぐるやっている。

夏川草介さんの『神様のカルテ』から

長い物には巻かれろ。世の中という大きなものに巻かれることに疑問を感じ、自分の立ち位置を確認できる人って、どのくらいいるのだろう?時には流れに身を任せることも大事だが、そこに自分の意思はあるのか。時折立ち止まり考えられる勇気を持ちたい。

"一"と"止"という字をそのままくっつけると"正"という字になる。父の遊び心である。安曇さんは感慨深げな面持ちで、じっとメモ用紙の文字を見つめている。
「一に止まると書いて、正しいという意味だなんて、この年になるまで知りませんでした。でもなんだかわかるような気がします。人は生きていると、前へ前へという気持ちばかり急いて、どんどん大切なものを置き去りにしていくものでしょう。本当に正しいことというのは、一番初めの場所にあるのかもしれませんね」

夏川草介さんの『神様のカルテ』から

初心忘るべからず。はじめたときのことを忘れないでいたい。何かを新たにはじめるときは、感動がそこにある気がする。その感動を忘れずにいたい。

あたたかい登場人物が多い作品が好きだ。読んでいて、安心する。作者の夏川草介さんも、そんな素敵なお人柄なのかな、と。この寒い時季に、主人公の一止先生よろしく、たっぷりのミルクを入れたイノダコーヒーをお供に読んでほしい。とりあえず、次回作を読みはじめる前に、イノダコーヒーを買おう。

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