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ジ・エンド・オフ・コーン・ウォー③

「ハァー……ハァー……ハアー……畜生っ」

 麺棒男は右脇腹を抑え、テーブルを掴んで辛うじて立ち上がった。激闘の末、店長の女含めた二人の従業員を重金属麺棒で頭がべちゃんこになるまで叩き、タコスにしてやった。

 頭の裂傷から血が滴り、上半身に数か所に打撲痕が見られる。さっきの戦いでトマホークを模したヘラに裂けられた脇腹がやばい。出血とともに血中コーン濃度が下がり、麻薬コーン『トルナーダ』がもたらした痛覚遮断効力が消え、今にも痛くてで狂いそうだ。

 男はふらついた足取りでキッチンに入り、調理台の前に立った。台に血がついた麺棒を置き、血がついた手でダッパーからタコス用の小さめなトルティーヤを広げ、上にワカモーレ、豆、鶏肉、玉ねぎ、チリサルサを乗せた。ライスがないのは残念だが贅沢を言う場合じゃない。具を包むようにトルティーヤ巻けると、ブルトーの完成だ。

 今すぐかぶりつきたいが、男はここで重大な問題に気づいた。熱さだ、ブリトーにあるべき皮を破ると湯気と汁が迸るような熱々感がない!これじゃあコーン摂取量が半分以下になってしまう!しかしオープンで加熱しようと遅すぎる。どうすれば……男はキッチンを見回し、フライヤーを発見した。また電源は入ってる、行ける! 男は血がついたブリトーをフライヤーに放り込んだ。トルティーヤの表面は熱い油に触れた途端に泡を立てながらフライヤーのそこに沈んだ。

 揚げている間、男は壁に磁石で固定した包丁を手に取り、ガスコンロで加熱した。調理用のラム酒を数口呷ると、熱した包丁を傷口に当てた。

「ンンンッ! ンンンンッッッ!!!」

 焼着!熱した金属片が肉を炙り、無理やり失血を止めたのだ。

「ハァー……! ハァー……! ファーック!」
 
 男は毒づき、包丁を投げ捨てて、再びフライヤー向き合った。トルティーヤ見事な狐色にあげ揚げている。頃合いだ。トングをフライヤーに突っ込み、取り上げる。

 ジュー……熱気を発しながら泡立てている物体、それがブリトーを揚げて出来上がった料理、チミチャンガである。

 またアツアツのチミチャンカを男は素手で掴み取り、かぶりつく!「ほっ! ふはっ……!」アツアツが口内粘膜を蹂躙する! 涙が出る! 「んむ!?」麺棒男は目を見開いた。表面がカリカリ、中がふわふわのトルティーヤが破れ、いい具合に加熱したみずみずしい中身が溢れて味蕾に広がり、サルサは味覚神経を刺激する。かりっ、はむっ、ごくっ、一口ごとに栄養が全身を駆け巡り、血中コーン濃度が上昇。思考が再びクリアになり、活力が湧き出た。この店のトルティーヤは良い、揚げたあとも水分が残って、舌がバサバサにならない。あの女、料理の腕は相当のものだっただろう。潰すには惜しいが、タコス派は滅ぼさなければならない。男はコーンの恩恵を感謝し、最後の一口までチミチャンガを楽しんだ。

🌽

 店を出ると、道路に武装タコストラックが待ち構えていた。麺棒男は麺棒ホルダーに手を付けた。トラックのバックドアからダニー・トレホ似の強面中年男が降り、手に刃渡り50センチの肉切り包丁を持っている。袖無しのジャケットを羽織っており、はたけた胸に彫られた聖母マリアが片手にタコスを摘まんでいるタトゥーが筋肉の強張りで怒れる形象になっている。

「この店のトルティーヤは絶品だ。揚げても乾きすぎることがない。お前もそう思うだろ」

 中年は尋ねた。

「ああ、美味かったよ」

 答える麺棒男。

「それをさっき、お前がその供給を断ち切った。その罪は深いぞ」中年は肉切り包丁を構えたと同時に、フードトラックのキッチンと助手席からライフルの銃口が伸ばし、麺棒男に狙い定めた。「このまま撃ち殺してやってもいいが、お前はきれいに死なせない。麺棒を抜け、切り刻んでやる」

「オッホ」麺棒を抜き、男は不敵に笑った。「まるで自分が勝てるみたいな言い方だな」尻ポケットから小包取り出し、中身のトルナーダを指で掬い、鼻の下に運んだ。Sniff! 吸引! 戦闘的コーン粉を! 

「後悔するぜ。お前ら、ぶっ叩いてタコスの肉にしてやる」

(続く)


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