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『ROMA』:知らないはずなのに懐かしい【1/2 an Hour Challenge Essay】

※キャプション画像はもう一つの公式トレーラーより

ツイッターで「良い!」の声が多く聞こえてきたので、まぁ観てみますかくらいのテンションで観たらまぁ…。数多くの人の「2018年ベストムービー」にすべりこみでランクインすることが確定しそうな良作。もちろん、私のベストムービーにもイン。

監督は『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン。2018年のベネチア国際映画祭では最優秀作品賞にあたる金獅子賞を獲得、東京国際映画祭でも上映された。
日本においては、東京国際映画祭での上映をのぞいて劇場でかかることはなく、Netflixのみでの公開となった。(*1)

【あらすじ】
物語はメキシコシティのローマという地区で中流階級の家庭に奉公する若い家政婦クレオ (ヤリツァ・アパリシオ) を中心に展開する。自分を育ててくれた女性たちへの想いをこめたキュアロン監督のラブレターともいうべき本作。少年時代の記憶をもとに、政治的混乱に揺れる1970年代の家庭内の衝突と社会的階級を鮮明に、そして感情豊かに描き上げる。
東京国際映画祭公式サイトより)

【ゆったりとしたメキシコの風景と、ありえない完成度の構図】
カメラマン志望の方は必見の美しすぎる構図の洪水。これで写真集一冊作れる、というかあるなら欲しいとはっきり断言したくなるほど「練られた画」が特徴的だった。
あとは切り返しがわりと少ない、もしくはドーリーを使ったなめらかな動かし方がすごく良い。人の視野に近いムードで落ち着いて観ることができた(カメラ酔いしやすい人にとっては、これって結構重要だよね)。
とはいえ、切り返しがないとテンポが作れず、ものすごくダラダラと退屈な映像になってしまうこともしばしば。ただ、そこは完璧な数々の構図の力によって、美しい絵画を鑑賞しているかのような豊かな時間を与えてくれた。
個人的には、映画館のシーンとあられが降るシーン、そして荒波のシーンの構図が好きすぎて部屋にポスターとして貼りたいくらい。これ大スクリーンで見られないなんてもったいなすぎるよ(涙)

【わかりやすい人間像はなし!複雑で豊かな人々の多面性が浮き上がる】
淡々とした物語の中で、ここまで人間の複雑な豊かさを表せる脚本に驚かされた。序盤にこいつ嫌な人だな〜と思いきや、後半には良い人に見えたりする。逆も然り。
つまらない物語にありがちな、分かりやすいキャラクターづけがないので、様々なミニドラマの中で彼らがすごくリアルな人間に見えてくる。

同一人物を見ていても、嫌な人だなとも優しい人にも感じられるのだ。環境や状況によって、人っていろんな面を見せるじゃない?そんな複雑さ(豊かさでもある)を2時間半で見せられる脚本の出来の良さよ。嘘くささがまったくない。
なにかちょっとした恥ずかしい事件が起こった時も、登場人物たちそれぞれの対応にものすごく納得してしまうのだ。それは私がきちんと彼らの人間性を理解しながら映画を見れていた証拠だと思う。この人ならこういう反応するだろうなというのが予測できてしまうなんて。たった数時間の付き合いなのにね。

【初めて見た光景なのに、なぜか懐かしいにおいがする】
主人公と、雇用主の家族との付かず離れずの仲の良さがなんだか不思議だった。でも、なぜかこの世界を知っているような、懐かしい空気が心がやわらかくなる。
初めて観たのに懐かしい気がした。これはプレステ名作ソフト「ぼくのなつやすみ」と同じ匂いがするぞ!(注:田舎で夏休みを過ごす日々を追体験できるゲーム。私にはそういう田舎はないが、プレイしていると懐かしさがなぜか込み上げてくるマスターピース)

人生の中でほんのいっときでも、こんな時間を経験できたらどれだけその後の日々の救いになるだろう。この物語の主人公は一応家政婦なのだが、子どもたちの存在感があまりに眩しい。

最近、子どもの存在がいかに大人たちにとって救いになるかということについてよく考える。大人だらけの世界は嫌だ。
年を重ねると、人生に起こる何もかもは中途半端に新鮮で、わかるようなわからないような、それでも遠くまで予測できてしまうような気分になる。

だけど、子どもたちの真剣な喜びは、耐え難い怒りは、天地がひっくり返るような恐怖は、すべて大人たちを揺さぶってくれる。その存在だけで、大人は大いに救われる。あの頃は、私たちもあんなふうに懐かしい風景の中にいたんだろうね。

ありふれた日常のなんと愛に満ち溢れたことよ。そして、日々の中にいかにドラマが眠っていることだろう。淡々とした生活の中に、その種がふんだんにまかれている。順に小さな芽が出て、私たちの予想もつかないような物語が次々に始まるのだ。

(*1) https://this.kiji.is/423003286501770337?c=39546741839462401

Netflixでの視聴はこちらから


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