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【有料連作小説】現代恋愛ファンタジー小説:花屋elfeeLPia 恋をしませんか? 第4話 朝顔の物語

 ここに小さな花屋がある。花屋elfeeLPia。妖精の感じられる場所という造語である。今日も店主の一樹と小さな店員、向日葵がいる。ちょうど今は、八月。暑さが身にしみる。しかし、店内は涼しく、涼を求めて向日葵のファンの客がやってきていた。
 
「ひまちゃん。朝顔の鉢はないの?」
「あるよ。でも、花はもうしぼんだから店内に入れたの」
「お勧めの色はあるの?」
 う~ん、と向日葵は悩む。
「朝顔自体の花言葉は『愛情』と『結束』なんだけど。よく見る青とか紫はあんまりいいイメージないの。特に青は『短い恋』だったりするから、私はお勧めしないの。いっちゃんは遠慮なく勧めているけど」
「そうなんだ。じゃ。色的には違う方がいいんだね。今度見せてよ。花が開いているときに買いに来るから」
 向日葵ファンの男性客が言う。
「朝顔って朝と言うより早朝から咲いてるから、早起きしてきてね。連絡、いっちゃんに入れてて。その日は開店時間早めるから」
 花屋のボスはそう言う。一樹がえー、という顔をしている。
「早起きは三文の得」
 そう言ってまた足を踏んづける。
「もう。ひまちゃんもラジオ体操の時間じゃないか」
「そんなの放り出す。お客さん優先」
「ひまちゃんが、店長だね」
 客が笑う。
「もちろん!」
 えっへん、と向日葵は胸を反らす。
「都合のいいひまちゃんなんだから」
「なにか言った?」
「いいえ。なんでもございません。ほら。ひまちゃん。お客さんだよ」
「はーい」
 向日葵は来た女性の元へ行く。
「朝顔、買いに来たのだけど。確か、前はここのお店に綺麗な朝顔があったと思うのだけど?」
「すみません。花がもうしぼんだので店内に移したんです。もう一度お買いになられたいときは先ほどのお客様も見たい、とおっしゃってるので早朝から店を開けます。失礼ですが、ご連絡先を教えてもらえませんか? 前日にご連絡しますので」
「そうね。盆休みで今は暇だし。今度来るわね。今の花のお勧めは何かある?」
「そうですねぇ~。いっちゃん~。お勧めある~?」
「ひまちゃんの向日葵があるだろう~」
 一樹も適当なもので、向日葵に丸投げする。
「もう。いっちゃんたら~。少々、お待ちください」
 向日葵が向日葵の切り花を選びに行く。
「ひまちゃんはいい子だね~」
 男性客、森下秀が言う。
「あ。朝顔の方ですか?」
 女性が近づく。
「ええ。森下秀と言います。色によっていろいろ花言葉が違うらしいので、ひまちゃんから聞いてから買おうと思って」
「あ。私は永井冴子といいます。で、ひまちゃん?」
「さっきの女の子ですよ。向日葵という名前だから、ひまちゃん、です」
「まぁ。可愛い名前。向日葵にそっくりな子ね」
「ええ。店主よりもできる子ですよ」
「もう~。森下さんまで~」
 大人がやいやい言っていると向日葵が切り花を抱えてやってくる。
「いっちゃん。ラッピングして」
「おや。今日は練習しないのかい?」
「うん。それは子犬お兄さんの時だから」
「子犬お兄さん?」
 二人そろって言う。
「最近、常連様になっていただいた方なのですが、向日葵みたいに一筋に女性を想っている方なんですよ。その思い人が子犬と命名していまして。みんな、子犬お兄さんと。ほんとうにお顔がかわいらしい方で」
「会ってみたいわね」
 冴子が言う。
「いっちゃん~。雑談はいいから早く~。しおれちゃう~」
 向日葵がせっついて大人の会話はそこで止まった。
 
「ばいばーい」
 向日葵に見送られ、二人は花屋を後にした。
「朝顔、どの色が綺麗だったんですか?」
 秀が冴子に聞く。
「白、です。珍しいと想って見ていたのですが、そんなに早朝だったかしら?」
「運がよかったんですよ。花はいつ咲くかわかりませんからね。じゃ、私は駅にいかないといけなので。これで」
「はい。次の機会を楽しみにしてますわ」
「私も」
 そう言って秀は駅の方へ去って行った。冴子はその後ろをなんとなく見つめていたが、やがて買い物に街の中心街へと足を運んだのだった。
 
 盆休みの数日前、一樹からの留守電が入っていた。ちょうど朝の散歩から帰ってきたところだった。今日も朝顔はなかった。明日、一時間ほど繰り上げて店を開けるという伝言だった。そこでなんとなく、秀の顔が、ぽん、と思い浮かぶ。その頭をふりふり、と振って頭の中から追い出す。
 
 妻子持ちかもしれないじゃないの。
 
 そんな考えが浮かんだとき、自分の中に淡い恋心が生れていたことを冴子は知った。そんなに会っていないのにあの花屋で一緒に話していたことが忘れられなかった。楽しい時間につい、恋心が生れた。こんなに人を想うことがあるなど冴子はしらなかった。そもそもあの数分の間に人を好きになるなど考えもしなかった。
 
一目惚れ?
 
 ではない。ただ、話している内に秀の人柄に惹かれたのだ。義理堅そうな性格が好きだった。でも、と想う。この気持ちは隠しておこう。恋人も家族もいるかもしれない。振られたらあの花屋にも行けない。冴子はあの花屋elfeeLPiaをとても気に入った。あそこにはなにかある。人の心を和やかにするなにかが。それが花の妖精とは知らずに、ただ、核心めいた所に冴子は近づいていた。

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