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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第十二話 通じ合う想い

前話

 部屋で汚れた服を取り替えているとヴァルターがやってきた。声をかけなくともわかる。エルフィとエルマが騒ぐのだ。ヴァルターが来れば、散歩、という図式が愛犬たちに浸透していた。
「エルマ。エルフィ。もう少し待って。ヴァルト。少し待ってくださらない? 香茶がこぼれて着替えているの」
 やっと野外に出ても構わない服に着替えると扉をあける。
「お待たせしたわね。エルフィのリードを持って下さらない? そうそう。朗報が舞い込んだのよ」
「朗報?」
 エルフィのリードを持ちながらヴァルターは言う。
「マリアと話しても良いと、父が言っているの。ただ、弟という刺激はいけないの。ただ、状況の話を聞きなさい、と。でも会えるだけでもいいわよね?」
 二人は居城を出て森へ行く。ヴァルターはなにやら考え事をしていた。
「ヴァルト? 考え事? マリアに会いたくないの?」
「会いたいのはもちろんですが、どう話を聞けば良いかと……」
 悩んでいる様子のヴァルターにフィーネペルルは驚く。
「まぁ。人の話を上手く引き出すあなたがそんな風に思うだなんて意外だわ」
「意外、ですか……」
 自分は思うままにフィーネペルルを見守ってきただけだ。それが人の話を上手く引き出す、という利点になっているとはつゆほどにも思わなかった。フィーネペルルという姫は不思議だ。影を持ちながら、人を癒やせる。力などなくともその人柄で癒やされる人間は多いだろう。彼女の優しさは誰にでも向けられている。そう。自分にも。その優しさに引き込まれそうになる時がある。ただの見守る相手から違う相手となりつつあった。ヴァルターの中には恋という言葉はなかったが、まさにそのような事態になりつつあった。いや、周りの者から見ればすでに恋に落ちている。本人達だけが気づかないのだ。
 泉に座って、フィーネペルルは愛犬たちに水を飲ませてやっている。猫のエルマには木の器に水を入れてやっている。子猫では泉の淵に落ちてしまう。そんな気配りができるフィーネペルルは次期王位継承者として素晴らしい素質を持っているとヴァルターは思ってみていた。その彼女の悲しさの一助となれば、と見守っていた。
 長年探していた姉に会えるという所なのにヴァルターはまったく嬉しくなかった。ただ、カタリーナにも迷惑をかけている。会いたくない、とは言えなかった。
「ヴァルト? なんだか悲しそうな目をしているわ。どうしたの? 私が何か間違ったことを?」
「フィーネ。そうではないのです。ただ。何故かフィーネと離れるときが来ると思うと残念で」
「私と? 異端の力を持つ人間よ? 別れが残念?」
 フィーネペルルはびっくりしている。それから少し目を伏せる。そしてまた顔を上げる。驚愕の表情を浮かべていた。
「私もよ。ヴァルト。離れるなんて考えたくないわ。でも、あなたはお姉様を探して故国に帰らないと。その方が、あなたのためにいいわ。私の護衛の試用期間をマリアの記憶が戻る時に決めるわ。なんとなく感じるの。マリアはあなたのお姉様だと。私達は別れないといけないのよ。さぁ。執務に戻らないと」
 フィーネペルルは勢いよく立ち上がる。エルフもエルフィもその動きに反応する。ヴァルターに背を向けた瞬間、きらり、と光るものがあった。涙、かもしれなかった。
 ヴァルターが後ろから抱きしめる。
「姉であってもなくとも、その試用期間は認めたくない。フィーネともっと一緒にいたい。ふがいない自分だが、私はフィーネに惹かれている。恋に落ちたと言ってもいい。あなたを愛している。フィーネペルル」
 フィーネペルルはヴァルターの手に手を重ねる。そしてゆっくり振り向く。
 目に涙が浮かんでいた。
「私もヴァルトを愛しているわ。誰よりも。マリアの事で気づいたわ。あなたと離れるのはもう嫌。ずっと側にいさせて」
「フィーネ……」
「ヴァルト」
 二人は見つめ合う。そこへ可愛い邪魔が入った。エルフィが間に入ってワン、と一鳴きし、エルフィがフィーネペルルの涙をなめていた。
「わかったわよ。あなた達とも離れたくないわよ」
 くすり、と笑って愛犬たちと戯れるフィーネペルルにヴァルターははじめてフィーネペルルへの愛を実感していた。周りの者からすれば、やっとか、という所である。マリアの存在はこれから二人に何を投げかけるのか。未来はまだ来なかった。


あとがき

ここも色ボケしておりましたか。まぁ、これには後でまたギリギリのラインがやってくる。まぁ、二人ともいい年ですし。ユレーネ達より年上なので、余計に表現が……。恥ずかしい代物になるやも。歯の浮く台詞はもうあまり書かないと思ったのですが、書いてますね。

しかし、男は理性を試される側になっているにはこの物語二つには言えてます。可哀想に。父親から釘は刺されるわ、女からは仕掛けてくるわ、で心臓が無事じゃないですね。書き手はおい、と突っ込みながら削りつつすすめております。「誓い~王国に託された選択~」はどれほど削ったか。これはだめあれはだめ、と削りまくってやっとあれに。第二部へのプロット作りをためらっているのもあの二人の性。一線越えたらあとどうなるの? です。結婚式書くのはいいけれどその後が……。子供作って第二部へ行けないじゃないの、になりそうで。魔術師の出てくる伏線回収ができないという。科学と魔法の両方がある世界だし。第二部の舞台は。こちらはすっきり終わるのですけど。と、また長話。雨が入ってくるので窓閉めてきます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

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