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【過去作連作】恋愛ファンタジー小説:星降る国物語3 第四話 煌めく星

前話

ワセトの提案はすぐにでも実行された。二人は馬に乗って隣国に簡素に入るつもりだったがアンテは三頭立て馬車を用意し絢爛豪華な新婚旅行を贈ったのだった。
「アンテのやつ。こんなに派手にしてどうする。おおかた近隣諸国への示しを付けようとしたのだろうが・・・」
むすっとカエムが言う。アフェラも深いため息をつく。
「私もたしたい娘でないのに・・・」
「そんなに卑下することはない。アフェラ姫のような歌姫ならば自慢してもいいほどだ」
「愛ある家庭の娘ならね・・・」
アフェラの言葉に場が重くなる。
自分達も愛ある家庭は築けない。それがアフェラには悲しかった。喜ばしい便りを贈る祖国への帰国は演じるばかりの旅行である。いつしかアフェラのほほに涙が伝っていた。そっと
衣でカエムが涙をふく。
「泣いていてはそなたのきれいな顔が台無しだ。そなたにはミズキたちのように笑っていてほしい。また歌を聴かせてくれないか? 旅の思い出として」
カエムの声にはげまされてアフェラはやっと涙をふいた。優しいカエムに引き込まれそうになる。相手は自分を愛してはいないのに。でも歌はほめてくれている。ほんの少し救われた心の中でアフェラは微笑う。
「じゃぁ。いつもミズキに歌っていた子守歌を」
「子守歌?」
どこでも同じではないかとでも言わんばかりのカエムにちょっと笑顔を見せる。
「ミズキが違う異国の舞姫というのは知ってるのでしょう? その国の子守歌よ。私とシュリンとミズキ以外は知らないわ」
「なるほど。では所望しよう」
アフェラは低い声で静かにいつもミズキに聞かせていた子守歌を歌い始めた。

フレーザ国に近づくと森や林が多くなってきた。
その光景にはめったに外に出ないという星読み業のせいかカエムが目を見張った。
「木々がこれほどあるとは。我が国にはない」
「そう? どこもあったりなかったりの繰り返しで特にすごいわけじゃいわ」
あっさりと返されてカエムはほんの少し照れたように目線を外した。
「見えない川はこの国の名称にもなったフレーザー島にあるわ。あとで行きましょう。そこは森もすごくて樹齢何百年もたった木々があるわ。カエムは外は嫌いだったの?」
「いや・・・。私は早くに星読みの宮に入ったから外へは出ることはなかった。アンテならよく知っているだろうな。父上についてよく近隣の村など偵察していたらしいから」
そう、とアフェラがうなずく。
「星読みの勉強って大変そうね。いくら魂が戻った人間といわれても勉強なしにはなれなかったと思うもの」
「大変かと言われれば大変だがさして問題はなかった。すらすら入ってくるのでな。アンテも星読み候補に選ばれたが正妃の嫡出として皇太子の身分が先に決まった。アンテがミズキだけ妻にしているのもこの私のようなあぶれたものを考えていたからだろう」
「あぶれたって・・・。そんなに兄弟がいるの?」
「さぁ。正妃以外に妃は三人いたが外にもいるらしい感じだったからな。人には二面性が
必ずあるということだな。清廉潔白のような王でも浮気は山ほどだからな」
「ま。アンテはミズキ以外目がいかないようだけど?」
「それはその通りだ。実際星降りを行って結びついた二人故絆は強い。それまでにもいろいろ事件を乗り越えてきているからな」
事件って・・・と聞きそうになってシュリンを思い出した。蒸し返すのはよしましょ。
アフェラはまた鼻歌を歌いながら外の景色を見つめた。

フレーザ国ではたいそうな歓迎ぶりだった。母親は眼に涙をためてアフェラを抱きしめた。いまさら、と思いながらカエムの言葉を思い出して改めて自分の両親を見ていた。カエムもじっくり大人の目で両親を見てみればいいと言っていた。何も知らず出て行った国に残した両親はいったん戻って星降りの国に行った後ぐっと老けたように見えた。
「よかったわ。あなたが嫁げて。星降る国の婚礼は感動したわ。カエム様もあなたを大事にしてくれているのね。あなたが幸せそうでうれしいわ」
涙涙の母親の言葉に反骨精神が持ち上がりかけたが実際ここで暮らすより何倍も向こうのほうが楽しかった。恋しい祖国でもあるが。複雑なアフェラである。
「ねぇ。お母様カエムをフレーザー島に連れて行って見えない川を見せたいの。行ってもいいかしら?」
王と母親にねだってみるとすぐに了承を得た。次の日船に乗り島へ渡る。
森の中をくぐってアフェラはある場所を指示した。
「遮るものがなにもないから音がしないの。普通の川はせせらぎがするでしょ?」
「本当だ。不可思議な現象だ。面白いものだ」
いつまでもじっと見ているので面白いわねとカエムを見つめる。半刻は見ていただろう。いいかげん帰りましょうと言いかけたアフェラの口をふさぐ布があった。もごもごいうがカエムは気づかない。そのうち薬が効いてアフェラは意識を失った。
ふと傍らの気配がないのに気づいてカエムは振り返った。
「アフェラ?」
星読みの力が働いたような気がした。
アフェラはさらわれた?
「アフェラ?! どこにいる返事しろ!!」
怒鳴るカエムにどこからか声が聞こえる。
「姫を返してほしければ国境沿いの小屋に来い。星を降らせろ!!」
アフェラ・・・!
カエムの中で何かがはじけた気がした。来た道をそのままたどると船に乗り方向も定かでないのに本土を目指した。フレーザー国の王に次第を告げるといとまごいをして馬で全速力で国境沿いの小屋に乗り込む。
「アフェラ!!」
「おっと。姫君に勝手にふれてもらっちゃぁ困る。あんたには星降りを操ってもらうだけなんでね。姫様は俺たちのものだ。さぁ、ワセト星の石を持ってこい」
小屋の奥からは星降る国にいるはずのワセトがいた。小さな箱を持っている。アンテやカエムが管理する星の石だ。
「おまえ。そこまで落ちていたか」
カエムがワセトに言う。
「お前になんかわかららないさ。できのいい兄とできの悪い弟。あんたが邪魔なんだよ。星読みは俺一人でいい。二人はいらない」
「と姫様のお目覚めだな」
手足を縛られたアフェラがもがいていた。カエムはそばに行って自由にしてやりたかったがアフェラののど元には刃物が向けられていた。
「ワセト。早く星の石を」
ワセトが渡そうとしたとたんカエムはワセトに体当たりした。星の石がころがる。
「早く拾え!!」
セトとヴィスがほぼ同時に叫んで取りに行こうとしたがカエムはさらに足で蹴って部屋の隅に追いやった。
「この野郎!!」
セトが持っていた刃物がアフェラからそれた。カエムは一気にアフェラのもとへ向かった。
両手足を縛っていた麻ひもを解く
「許せ。我が弟の計略だったようだ。この件が終わり次第よいようにする。いまは待ってくれ」
「どうするの?」
アフェラが背中にかばわれて尋ねる。
「さし違い覚悟でやるしかないな」
その言葉にアフェラは背筋が凍る思いがした。カエムがいなくなるのはいや。
一緒にこれから笑って生きていきたい。歌を歌ってそして子供を産んで。
アフェラは今このときカエムを愛していたことに気付いた。
そっと小屋の隅に行って星の石をてさぐりでさがす。間一髪でヴィスたちの手から奪い返した。
力強く握ってかざす。
新しい星が煌めく、という星読みを信じて。
とたん強い光があたりに満ちた。
ヴィスの叫び声が聞こえる。
「目・・・目が・・・」
まばゆいばかりの光を直接受けてヴィスは失明していた。セスはうまく逃げたようだ。この辺の土地勘もあるから致し方ない。そして次の瞬間扉がまた開き兵がなだれ込んだ。
「カエム! 大丈夫か?!」
声がしたのはアンテだった。アフェラは腰の力が抜けてふよふよ床に座る。
ワセトはうなだれて兵に連れて行かれた。
「あんたが悪いんだ。あんたが・・・」
ぶつぶつ言いながら連行されていく。
「ワセト・・・」
信じていた人間に裏切られてカエムの心はずたずただった。おまけにアフェラを失うところだった。
「アフェラ。無事か? このままフレーザー国へ送っていく。我が国の人間がそなたを危険にさらせた。これ以上アフェラが不幸せになることはない。送って行こう」
そっとアフェラを抱き上げたカエムのほほに平手打ちが一発お見舞いされた。
「なにいってるのよ。とんちんかん。せっかく愛していると気づいたのにすごすご帰るものですか。あなたを落とすまで帰らないんだから!!」
「今・・・。なんといった?」
「だから愛してるの。あなたがそうでなくても私はあなたが好き。一緒にいたいの。仮の夫婦でも」
抱きしめる手に力がこもる。
「アフェラ・・・。そなたを失った時気が狂いそうだった。そんなことがあるならもう手の届かぬ国へ送っていくほうがましだと思った。私も愛している。そなたをもう失いたくはない」
そのときアフェラの手にある星の石が淡く光りだした。
「ようやくか」
アンテがにやにやしてみている。
「なににやにやと・・・星降り?」
外に出てみると昼間だというのに星の光があふれていた。
「これは明朝まで続くな」
アンテが一人星降り予報をしている。
「これからは星読みにも妻をめとることが許されたと議会に報告できる。またひと踏ん張りだな」
「何をぶつぶつ気味の悪い」
「兄上のおかげでまたひとつ仕事が増えた。手伝ってもらうからな」
男二人でやりやってるとちょっととアフェラの声がかかる。
「私一人で立てるんだけど」
「すまない。こうでもしなければ飛んで行ってしまいそうで」
「行きやしないわよ。こうして星も降ってるんだもの。一生離さないんだから」
「アフェラ・・・」
「愛の演劇は星読みの宮でしてくれ。たまらん」
「アンテ!」
「アンテ様!」
真っ赤になって叫ぶ新たな夫婦を星は延々と祝福し続けた。
星降る国の星の石は自由自在に変化するらしい。恋人に降ったり夫婦に降ったり・・・。
星の石は気ままな性格らしい。
とにかく円満におさまってよかった。セスの行方が心配だが・・・。フレーザー国側の人間のためこれ以上は追求できない。アンテは心配の種を胸に秘め二人とともに星降る国へと戻って行った。気ままな星の石は次にどんな恋の欠片を与えるのか。それは星のみが知っている。


あとがき
やる気その気だださがりー。怒りの後には憂いがやってくる。何もする気がない。とりあえず、読む人がいる作品は載せていかないと。この次の記事はエッセイの勉強ですが、書くネタがない。漢字も途中で途絶えてしまった。コメはないわ、嫌な思い出ばかりだわ、で、また閑古鳥鳴くアカウントに逆戻り。でも。少しほっとしてもいる。「大好き」とかハートマーク入れて書かれていたので、まさか世迷言を言ってるんじゃないでしょうねぇ、とびびった。一度は知り合った女性に恋心抱くタイプみたいで。そういう人多いんですよね。作ったイラストを似ているとか勘違いして。縁がきれてよかったと思おう。地道に進んでいきます。こればかり書く必要もないので、適当に面白そうなところ出してきます。ってこれは過去作だった。眠り姫を一度中断してもいいかな、と思ってます。「風響の守護者と見習い賢者の妹」の残っている話数を載せてもいいかしら、と思ってます。もうストックないんだっけ? あとで確かめよう。あっちはGTP借りてます。眠いんで三十分寝ます。あとは魚にご飯だわ。

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