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フィンランドで、静かに熱く、人生が変わるのを感じた。〜課題は文脈の上にある。そのとき普遍なものとは〜|ALiveRally インタビュー#11

こんにちは、ALiveRallyの祥次郎(しょうじろう)です!
今回は、フィンランドに交換留学されていた、AIU14期生の眞柄史織(まがらしおり)さんにお話を伺いました。
2019年8月から1年間、フィンランドのラップランド大学に国際教養大学(AIU)の交換留学制度で渡航されていた史織さん。高いモチベーションを持って、かねてより関心のあった教育学を勉強しにフィンランドへ渡ったが...。そこでは学問を超越した、人生を根底から大きく変えられる、数多くの経験をされたそう。そう、正解なんてない。答えだってないかもしれない。これから留学をひかえている人、社会に疑問を持つ人にぜひ読んで欲しい記事です。特に、教育に関心のある方は必読ですよ!

*この記事は8分で読めます

▷ 基本情報

「世界一周の途中にフィンランドに立ち寄った元教員の日本人と偶然出会い、
『大切にしているものは?』と聞かれて答えたもの。
『人』に対する興味をよく表している言葉だと思う」by史織さん

名前:眞柄史織(まがら しおり)さん
AIU入学時期:14期春入学(2017年入学)
活動内容:海外留学
活動場所:フィンランド、ロヴァニエミ ラップランド大学(2019年9月〜)
現在:山口県の地域おこし協力隊として2021年8月より1年間、地域の公設塾で中学生への教育に携わる。現在は次のステップを模索中。


1. 自分自身の変化|フィンランドに行って崩れた「努力信仰」

ーー日本へお帰りなさい!本日はよろしくお願いします!

A. 色々ちゃんと話せるかな… お願いします。

ーー史織さんは留学中のSNSから見た感じだと、白夜とオーロラと、秋田以上の深い雪の中にいたイメージですが...。実際フィンランドはどんな場所でしたか?

A. フィンランド人にとって、”being in nature (自然とともにあること)” がとても大事なことだったので、自然のアクティビティがとても浸透していて、若者の間でも日常的なものになっていましたね。そこらじゅうにある森林は全て国の管理下にあり、よく整備されていて、誰でも自由に使っていいんです。森の至る所にかまどがあって、森林管理局が作っておいてある薪を使えます。みんな、とりあえずソーセージばっかり焼いてました。(笑)そして、国民の7割くらいは森の中にコテージを持っていて、休みの日には森の中で家族と過ごすんです。とにかく湖が多くて、サウナからの湖へダイブ!これをひたすらループしてました。

ーーいいなぁ...サウナから湖にダイブ!自然と共に生きる国、素敵ですね。史織さんは、現地でどんな生活をしてましたか?

A. 留学の後半、滞在中に仲良くなったフィンランド在住歴25年の日本人の方に紹介してもらって、フィンランド人家庭でホームステイをしていました。(AIU的には大学が指定するアパートに住むことが義務付けられてるから、ほんとはだめなんだけどね...。)だから、アパートの家賃は払い続けたの(涙)。そのホームステイ先から大学までは自転車で20分ほどだったんだけど、1年の半分は雪で。でも、カーブに気をつけていれば、雪でも自転車に乗れるようになったんですよ!日本とは雪の質も全然違って、カラッとしてて氷っぽいので。フィンランドの雪だと、雪に水をかけないと雪だるまを作れないので、子どもたちはみんなわざわざ水が入ったバケツを持って行って雪遊びをしていました。

 雪深くても毎日近くの森を散歩すれば、必ず人に会うそう。
フィンランド人は大抵クロスカントリースキーをしているらしい。


ーーそんな冒険的な留学生活を送ってたんですね…。史織さんは何かカルチャーショックを感じましたか?

A. 一言で言うと、自分の「努力信仰」が崩れました。私はとにかく目標を細かく計画するタイプの人間でした。AIUにもトビタテコミュニティ※1にもすごく熱量を持って努力する人が多かったんだけど、自分の熱量が先走っていて...。今までの努力の感覚で物事をやっていたら、周りとズレていることに気付いたんです。夜中まで勉強するのって「AIUの当たり前」だったから、できるなら色々な事をやればいいというマインドセットで頑張っていました。空いてる時間に何もしてない自分を責めちゃうから、勉強も遊びも必死に詰め込んでいたんですね。でもそうして今までと同じようにハードワークをしてると、「シオリは色々詰め込みすぎじゃない?なんでそんなに頑張るの?」って、不思議そうに現地の友人に聞かれて...。自分ではこれが当たり前だと思っていたので、感覚の違いに衝撃を受けました。

※1 トビタテ!留学Japan:”意欲と能力のある全ての日本の若者が、海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、官民協働で「グローバル人材育成コミュティ」を形成し、将来世界で活躍できるグローバル人材を育成する、官民共同の留学促進事業”(文科省HPより)


ーー確かに、AIUの学生はそういう文化があってみんなオーバーワークしがちですよね。

A. 皆から頑張りすぎと言われていても、フィンランドには10ヶ月しかいられないという制限や、「フィンランドを10ヶ月で理解しないといけない!」というプレッシャーもあって、余計に焦っていたんですよね。自分は今まで努力型の人間で、努力によって物事を成し遂げることで、自分を作っているという意識がありました。だから、努力信仰が崩れ去った瞬間、自分の存在そのものが少し否定されたように感じたんですよね。自分を作ってきた土台が揺らいだ瞬間でした。一気に足元がなくなって落ちてしまった感覚。

ーー信じてきた生き方が覆されてしまったわけですね...

A. でも、日々をただ過ごすだけで得られるものもあるし、突っ走らないからこそ、物事をゆっくり客観的にじっくり見られるポイントもあるって気付いたんです。「思いっきりハードワークして突っ走っている自分」と、「落ち着いて自分のペースでゆっくり前進して、物事をじっくり捉えている時の自分」を比べたら、得られることって意外と大差ないなって。

ーーなるほど。

A. 焦らなくても、ちゃんと立ち止まって振り返ってみると、学ぶべきことは学べているという実感があったんです。以前の自分のように焦って自分を追い込んでも、大事なことを見落としてしまうから、詰め込めば詰め込むほど学びが多いという訳ではないことに気付いたかな。だからスローにやっても、追い込んでも、得られるものは結果的に一緒。それなら自分にしっくりくるように、自分のペースでやっていく方が無理なく続けられるし、それで十分必要なことを学べているから、全く焦る必要がないことに気付きました。

ーー確かに、急ぎすぎたら見落としていたことも、ゆっくり歩むからこそ、気付くときがあるわけですね。何もしてない時間も決して無駄ではない!

A. そう。何もしてない時間こそ、吸収したものを消化する時間。一つのことに割ける思考の時間が増えて、一つのものごとからより深く学べるからね。突っ走っている間って、量をこなしているだけで、浅いまま次に次にと進んでしまう。AIUでもセメスターの間はあんなに詰め込んで一生懸命勉強するけど、学期終わって振り返ったら手元にほどんど何も残ってない、みたいな。「一旦止まって何もせず深く考える」ことで、一つの行動から得られる学びの質が上がるから、焦っていようが自分のペースでやろうが、学びの総量は結局変わらないんだと思います。

留学前半を共に過ごしたルームメイト達と史織さん(写真右端が史織さん)

【編集者なかがき】
編集者自身は、自分を追い込んでガツガツやり続ける「努力」が苦手です。でも、必ずしもその努力のしかたが正解とは限らない。自分なりのペースで、じっくり、一つひとつを丁寧にやっていくことも、あえて何もしないでじっくり考える時間を持つことも、同じくらい大切な時間ですね過度に焦って詰め込みすぎた結果、大事なことを見落としてしまう。
「セメスターあんなに頑張ったけど何が残ったんだ?」という史織さんの言葉に共感したAIU生もきっと少なくないのではないでしょうか。物事をこなし、それが「身についた」と感じるのは、きちんとそれを消化する、「一旦止まってる時間」だったのかもしれない。皆さんも、忙しい日々の中でも、一度立ち止まって、自分に一番合うペースを見つけてみてはいかがでしょうか?


2. 教育を訪ねて三千里。日本の教育への違和感

ーーところで、そもそもフィンランドへは何を学びに行かれたんですか?

A. メインは教育なんだけど、「教育学」というよりかは、教育は社会の全てと繋がっているから、「社会の中でのフィンランドの教育システム」というものを見てみたかったんです。フィンランド社会の中で、教育がどう成り立っているのか、教育への意識がどうやって教育を支えていて、サステナブルに繋がるのか。大学の教室での学びだけではその答えにたどりつかないだろうと思って、大学付属の幼少中高で教育実習ができるフィンランドのラップランド大学を留学先として選びました。ホームステイもその一環で、現地の家庭教育や、一般市民の意見も身近に感じたかったんです。

ホストファザーと史織さんの誕生日パーティー。

ーー学問としてだけでなく、教育そのものが作り出す社会を肌で感じに行かれたわけですね。

A. そう、あとは、もともと日本の教員養成システムが良くないと思ってて。「こんなので教師になれちゃうの?」みたいな。自分が子どもだった頃に学校で良い経験をした人が教師を目指すんだろうなと、日本の教育学部生や教員志望の学生と関わっていて感じました。だから逆に、学校で居心地が悪い人の気持ちは分からないんだろうなって思うんです。私自身、本気で良いと思える教師に出会った経験も少ないし...そういう教員養成システムに対するモヤモヤがあったから、社会の全てと繋がっている教育に関して、特に教員養成のシステムを、先進的なフィンランドで学んでみたいと思うようになりました。

ーーそのような問題意識から、教育への関心を持つに至ったんですね。

A. 日本の学校って、個人のペースと個性を無視して、みんなで同じことをして、同じ基準・テストの点数で評価されるから、私はすごく息苦しいと感じています。でもフィンランドの子供たちは、のびのびと一人一人のペースに合わせて、一人一人の個性・性格にフォーカスしているんですよね。公教育でそれができるのってすごいと思うんですよ。

ーー日本の教育に疑問や違和感を感じ、教育に興味を持ったとおっしゃっていましたが、具体的にきっかけとなったストーリーなどはありますか?

A. 小さい頃からの積み重ねですかね。遡ると小学6年、もうすぐ中学ってとき。中学に上がると「どうしてみんなで同じ服着ないといけないの?」と制服の存在にまず疑問を持ちました。そして不必要なまでに厳しい上下関係や、その他大勢と同化して評価されるという、すごく理不尽な秩序の中に成り立っているなと感じたんです。なんでこんなにも理不尽なんだろう、とっていう疑問に慄きました。上から押し付けて管理することで無理矢理秩序を成り立たせるのではなく、もっと違う教育のあり方があるのではないか、と中学の時に考えていました。

ーー中学生時代からすでにその様な疑問や違和感を持っていたんですね。
もっと違う教育の方法があるのではないか、と。

A. 中学はそんなだったから、高校に期待して、制服がないところに進学しました。受験を意識せずにのびのびと探究心をのばしますよ、と謳うところに行ったんです。でも、結局中学と同じ感じでがっかりしました。ルールがないとは言いつつも、声の大きい人(影響力のある人)が力を持ってマジョリティを形成するし、結局文化的に同じで...。周りはキラキラJKなのに、楽しめていない自分が変なのかな?と考えてしまったりもして、楽しめないのが孤独で、すごく自己肯定感が下がってしまったんです。結局居心地はあんまり良くなくて、これも自分にとって「良い教育」じゃないかも、って感じたんですよね。

ーーなるほど。史織さんにとって良い教育ではない、というのは?

A. 私が他者と比較してしまうことや、周りに合わせるのが良い、と無意識のうちに信じてしまっているのは、今までなされた教育によるところが大きいと思っているんです。そして、それが自分の自己肯定感を下げていることに繋がっていて。これは、子供の個人の可能性を狭めている教育なのかもしれないなと気付いて、「もっと日本の教育をよくできるんじゃないか」って、高校生の時に思ったのが、教育に本格的に興味をもった原点です。でも、それをそもそも疑問にすら思わない人も多いんじゃないかな。そして、これが当たり前だと思っている人も、気付かずに苦しんでる人もいるんだろうなと思います。

【編集者なかがき】
中学生時代から抱えていた日本の教育に対する問題意識を解決するためのヒントを求めてフィンランドへ留学された史織さん。そしてそれをただ学術的に学ぶだけではなく、社会とつながる教育を体系的に見るためにも、現地の教育実習やホームステイを通して実践的学びをされていました。自身のライフトピックと、現地で得られる学びが合致したとても有意義な留学生活だった様ですね。正直こんなに留学を人生のために有意義に利用できるのか!と驚きました。編集者自身もオランダに留学中ですので、いろんな所に飛び込んで、しっかり吸収せねば...!


3. 学術的な学び|現地で見たフィンランドのリアル。課題は文脈による。

ーーと、ここまで聞いた限り、とても実りのある留学だったようですね。高いモチベーションで留学されたみたいですが、振り返ってみて、留学に求めてた当初の目標はどれくらい達成できたと思いますか?

A. まあここまで熱く語ってきたんですけど、実は渡航してから2ヶ月で「フィンランドの教育システム学んでやる!」という熱い志はなくなってしまったんです。

ーーえええ!!

A. なぜなら、そこには「人」がいる、ということに気付いたからです。

ーーどういうことですか?

というのも、日本で生まれ育った人が日本に当たり前にいるように、フィンランドで生まれ育った人にとっては、その文化や考え方が当たり前なんです。個性を尊重する教育を受けて、学歴という考えもなくて、自分のやりたいことができて、可能性が広がる状況にいる、そんな日本の現状から見たら比較的自由で、羨ましくまで見える環境にいるフィンランド人でさえも「あまりにも、人間だなぁ」と感じました。

ーーすごく大きな転換ですね。その心境の変化をもたらした「あまりにも、人間」というと?

A. フィンランド人だって、普通に悩むし落ち込むし、実は自殺率がヨーロッパで2番目に高い。幸福度の高い国だけど、明らかに「みんながみんな幸せな訳ではない」ことが分かったんです。スーパーの前には子供に絡んでくるアル中のおじさんがいるし、薬物中毒の人もあちこちにいる。想像していたフィンランド人の幸せなイメージは崩れてしまったんです。教育現場でも、学級崩壊してるクラスを見たり、ストレスを抱えた子供たちも目にしました。

ーーそれはかなり意外なギャップです。

A. そうだよね。でも、当時の自分はストレスフリーに見える社会で何が起こっているのかわからなかったんです。でもこの問いに向き合っていくうちに、社会構造として教育がいくら良くなっても、それで人々が幸せになれるとは限らないんだって気付きました。結局どんな社会で生きていても、同じように悩み、喜ぶ「人」がいるんだっていう、当たり前の事実を改めて認識しました。

町のバーでの一枚。
酔っ払いのおじさんが結構いるらしく、
絡まれて少し大変だったそう。


ーーなるほど。「幸せの国」にも色々と問題は山積みなんですね。これらの社会の問題とフィンランドの教育はどういった繋がりがあると史織さんは考えているんですか?

A. フィンランドでは教育の中で個性を尊重するあまり、逆に他を思いやれなくなっているかも、と感じたんです。教育が個人に合わせて全部対応してくれるから、困難にぶつかって、自分の力でそれを解決する、というような機会が排除されてしまっている。そして、全員が違う前提で教育を受けるから、他人とうまくやっていけなくなってしまうみたいなんです。個人主義が強調されすぎた結果、人間関係のトラブルが起きて、それがさらなる問題につながって、という状態だったみたいで…

ーーはぁ...フィンランド教育にもそんな現実が...。

A. そう、だから日本の教育もフィンランドの教育も両極端なの!フィンランドは個人に偏りすぎだし、日本は全体に偏りすぎてしまっていると思う。日本とは対照的に個性を尊重するフィンランドの教育も、完璧ではなくて、個性を尊重するが故の課題がある。どんな国の教育にも、その国の文脈によってそれぞれの課題があると思うんです。だから世界で「良い教育」とされているものを真似して日本に取り入れるのではなく、その先に何を目指しているのかというビジョンを見据えた上で、そのビジョンを実現するための理想の教育の形をゼロから考えていかないとダメなんだなと思いましたね。

ーー日本での教育の課題はまた別のコンテクストの上にあるから、必ずしも日本の教育と対局にあって理想に見えるフィンランドの教育も、「正解」にはならない、ということですね。

A.  そう。完璧ではないこのシステムを学んで日本に取り入れても意味がないと気付いた時点で、細かいことを除いて、体系的な教育のシステムとして学べることってもうないじゃん、と気付いてしまって、それからは自分がフィンランドにいる意味を見失ってしまったんです。それがフィンランドに行ってから3ヶ月時点のことでした。

ーーこれが最初の3ヶ月の学びって... 展開が早すぎます(笑) じゃあ、フィンランド教育を学びきってやる!という目的がなくなってしまったその後の8ヶ月、何か他に関心が移っていったことなどはありますか?

A. 社会学とか教育学は、社会に既にある制度をいかに良くできるか、というところを考えてると思うんですよね。だけど、じゃあ「そもそも社会ってなに?」という疑問から、その「社会をつくる『人』ってなに?」という問いだったり、「こんな自由な社会制度と、世界に望まれる教育制度をもつ国でも、幸福でない『人』がいるのは何故なんだろう」という、教育という表面上のものではなく、もっと根深い、「人」そのものに興味が移行していきました

普遍的・絶対的な価値への関心へと導いてくれた教授夫婦の家にて。

【編集者なかがき】
課題は文脈による。日本の教育とおよそ対局にあり、個性が尊重されるフィンランドの教育は、日本人からすると一見、理想的な教育に思えますが、実は日本の教育と同様にたくさんの問題を抱えているようです。社会や教育システムのコンテクストによってそれぞれ違う課題があり、完璧な教育は無いという学びから、フィンランド教育をそのまま日本に持ち込んでも日本の教育の課題解決にはならないと気付いた史織さん。そんな、それぞれの社会の入り組んだ文脈の中でも、等しく存在し、笑い、泣く、「人」そのものに関心が移っていったようです。留学によって、考え方にこまで大きな変化が起きるんですね。


4. 「人」 ライフトピックが大きく変化した留学期間

ーーお〜、話が予想してなかった方向に変わってきました...!興味深い!

A. フィンランドの教育を学ぶ対象としていったけど、私の目指すべき目的は根底から違うのかも?と、目指すべき目的そのものが変わっていきました。最初の2ヶ月で、当初の目的は思っていたような形にならなかったけど、それでも自分は、「社会とは?」「人間って何?」という、答えが出ない問いの方に興味があるんだなって気付きました。国や社会は、それぞれが独自のストーリーと歴史をたくさん持っているけど、その中にいる人たちは結局、みんな等しく「人」なんです。悲しかったら泣くし、楽しかったら笑う。社会構造によらず、人はどんな社会的なコンテクストでもみんな普遍的に一緒なんだなと思います。

ーーやはりどこの社会でも、結局はこの世界って「人」なのでしょうか。

A. 良し悪しというのは一概に言えるものではなくて、文脈によると思うんです。そして、「人」そのものを見るためには、その人の国籍、ストーリー、肩書き、住む場所などのコンテクストを全て取り除いて、その人を見る必要がある。それぞれの入り組んだ文脈の中にも等しく存在する「人」とはいったい何なのだろう。このような問いに対する好奇心から、留学後半では「人としての絶対的な価値、普遍的法則」を考えるようになっていきました。

ーーちなみに、事前アンケートでは、日本から出たからこその学びとして、文化的価値観を超えて絶対的価値観がある、といったことを書かれていましたが、こういう背景があったんですね。

A. 留学に行って、今まで良いと思っていた絶対的な価値が、絶対的でないと気付いたんです。(フィンランドの個性を尊重する教育のように) 日本の文化や社会の文脈の上では良いとされていることが、必ずしも世界中のどんな社会的文脈上でも普遍的に良いとされるとは限らないことに気付きました。

ーーなるほど。

A. 教育がまさにそうで。じゃあもっと普遍的な意味で、人類として「良い」ってなに?という問いにぶつかりました。それぞれの社会に埋め込まれた文化や文脈を超えて、普遍的に「良い」とされる共通のものってなんだろうって。でもそんな世界中のどんな文脈にも必ず等しく存在するのが「人」であるということに気付いてから、自分の興味が「人」そのものに変わっていったのかな。

ーーそれによって、史織さんの中で、「教育」そのものへの興味や、この根本的な「人」の課題解決の手段として、教育のウェイトは小さくなったりしましたか?

A. 私にとって「教育」の大きさは変わらないんだけど、「教育」そのものへの興味から、教育を含む、社会とか世界とか、そういったより広い分野に興味が移っていきましたね。興味の幅が広くなった分、教育学的に教育だけにはフォーカスしなくなったけど、すごく広い意味での社会における教育の役割には変わらず強い興味があるし、そういった意味で、ウエイトは変わっていないかもしれません。

ーー社会のことを教育目線で学ぼうとしていたら、本当に自分が知りたいのは、どんな社会にも普遍な「人」そのものなのではないか、と関心が移って行ったという訳ですね。すごい...

A. フィンランドの教育については、フィンランドに行けば答えがわかるけど、そうだね、これは生涯続けても答えが出ない問いだと思う。でも残りの留学生活の期間で、そういう好奇心と疑問を持つ態度や、その問いにアタックする「思考体力」を得られたと思うんです!そういった思考の習慣と思考体力は、日本に帰ってきてからも持ち続けられていて、生涯続くであろう深く静かな好奇心が、いまも続いています。


▷ 編集後記

焦って詰め込まず、あえて何もしない時間こそが人を成長させる大切な時間となる。生き急ぎがちな自分には特に必要な知恵で、非常に深く刺さりました。多忙を極めるAIUのみなさんは特に、一度立ち止まって、足元にある大事なものをちゃんと拾い集めて自分のものにできれば、サステナブルに成長できる気がします。

課題は文脈の上に存在する。社会のコンテクストによって良し悪しも変わる。しかし素敵に見える社会にも、生きづらいと感じる社会にも、複雑に入り組んだ文脈の中に等しく存在する「人」そのものへの興味を持つようになった史織さん。フィンランド教育を学び尽くす!とトビタった史織さんでしたが、留学の目的そのものが大きく変わっていき、今ではそれがライフトピックとなったようです。「生涯続くであろう、深く静かな好奇心」。すごく重みのある言葉だと感じます。卒業後、史織さんは公教育に携わるお仕事をされていましたが、学校教員ではなくその仕事にたどり着いたのも、留学の経験があったからこそだったのでしょう。

海外経験には、こんなに人生を大きく変え得るポテンシャルがある。だから我々ALiveRally 地球の学び方 は、これから海外へ行き、大きく羽ばたいていくであろう皆さんの海外経験を、学びにあふれた豊かなものにするべく、これからも発信していきます!

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
Interviewer: Shojiro Matsunaga, Taisei Homma 
Writer: Shojiro Matsunaga

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